第36話 白金一味と魔術団(1)

「……さてどうするかね」


「さぁなぁ」


「衣食住は得たし当分安全!

 ――あいつらの言うこと聞いて大丈夫かよ!

 ――自首しよう」


 『白金遊戯の会』残党の木原、篠崎、福田はあるマンションの一室にいた。

 金が底をつき、疲労が限界に達していた三人の前に『極夜の魔術団』を名乗るテロリストが現れた。その一員である男に三人は取引を持ち掛けられた。

 まず三人にとってのメリットは、衣食住の提供。そして、魔術という超能力の譲渡であった。

 デメリットはテロへの参加、及び魔術団への全面協力である。


「にしても木原ぁ。お前ビビりの癖に即決だったな」


 ドレッドヘアの篠崎はナイフを手で弄びながら、そういった。木原としてはひやひやするためあまり見たくない。


「破格じゃないか、良い取引だったぞ?

 ――怪しい組織に手を貸すなんかどうかしてる」


 福田は多重人格なので表情も言うこともよく変わる。


「……うん。福田君Bの言う通り怪しいし、言う通りにするのはリスクがある」


 福田の人格がいくつあるかは知らない。よって、とりあえず福田の言ったことを参照したいときはAとかBとかを付けて区別していた。

 同意意見と反対意見を交互に言われると面倒くさいのやめてほしいと木原は思う。


「でも、あれに反抗するのはその数十倍のリスクがあったからね」


「……ま、そうなるかぁ」


「うん、篠崎君のナイフ弾かれてたし。『嫌です』とか言って、その場で口封じとかは流石に避けたかったしね」


「弾かれたの初めてだぜ……。じゃ、味方のフリしてテキトーなとこで逃げるかぁ?」


 篠崎は思うことをすぐに口にするので困る。


「……それはやめておこう。こんな力を僕達みたいなやつに渡してる以上、いつでも殺せたりするんじゃないかな? あっちは根っからの超能力者でしょ。場所も割れると思った方が良いよ」


「逃げたらどうなんだよ」


「……首がちょん切れるとか?」


「爆発!

 ――窒息……

 ――心臓麻痺!」


「なんで福田はそこで混ざってくんだよ、うぜぇから黙っとけ」


「ひどい

 ――死ぬか」


 正直なところ、そんな都合よくできるものかはわからない。

 しかし、1パーセントでもその確率があるならやめるべきだ。

 逃げるのはもちろん、『極夜の魔術団』を警察組織などに密告するのも控えるべきだろう。


「……暇だし、能力の確認をしようか」


 なぜかはわからないが、三人に渡された能力は少々異なるらしい。

 魔力という目に見えないエネルギーを使うところは同じだが、その使い方は個人で変わるのだという。


「俺のはこうだなっ」


 篠崎がナイフを投げた。


「危ない……」


 ……死んでほしい。


「速度やっべえだろ。目に見えねぇ何かが飛ぶナイフを後押ししてるみてぇだ」


 篠崎は魔力を使ったナイフの加速。


「俺はこうだな」


 福田は新聞紙を上に放った。

 それに向け、手のひらを向けた。


「ほらよ。

 ――すげぇだろ?」


 新聞紙には複数の穴が開いていた。

 散弾銃のように魔力を飛ばせるらしい。


「……はぁ。気をつけてよ」


 木原は指を上へ向けた。天井に小さなへこみが一つできていたからだ。


「まだ力加減が難しいんだよぉ

 ――わざとだけどな」


「木原はどんなんだぁ?」


「うん」


 木原も魔力を使う。

 使い方は不思議と本能的にわかるのだ。


「はい」


「……なんも変わってねぇじゃんかよ」


「よーく身体の周りを見て」


「……なんか、揺らいでんな」


「『魔力』をまとうってわけ」


「てめぇらしいな」


「……」


 木原はペンと紙を取り出した。


「……福田君。昨日僕が風呂洗ったし、君が洗ってきてよ」


「へいへい

 ――仕方ねぇな

 ――めんどくせ」


 福田は風呂場へ行った。


「……篠崎君。僕の能力良いモノだと思わない?」


 木原は紙に書いた文字を篠崎に見せた。


『この纏った魔力を外に向けて、一度に放出することもできる』


「……?!」


 木原は口元に人差し指を当て、喋らないようジェスチャーをした。


「あんまり殺すのには向かないけどさ」


『盗聴されている。それにこの放出は一度すると当分纏うこともできなくなるんだ』


 部屋に入ったとき木原は監視カメラ、盗聴器の存在を探した。

 監視カメラは見つからなかった。盗聴器はコンセントの中に一つだけ発見した。多分盗聴器に関してはかなり小型のためまだどこかに隠されているだろう。


 もしそういったものが一つもなかったなら、魔術を使いこちらを見ているというどうしようもない状況が生まれたのだが、あるならば逆。

 機械に頼らねばこちらの状況を確認できない、ということだ。


 あくまでこちらは盗聴器に気づいていない体で話し、本当に隠したいものだけを隠す。何事もリスクは最小限に抑えるべきだ。

 殺しは短刀一本で足るのだから。


「……ま、良い能力かもな」


「でしょ?」


 福田にも伝えたかったのだが、彼はどうしようもない。

 人格が複数あるうえ、記憶の統合がなされないらしい。故に人格によってあることを忘れたり、覚えていたりするわけだ。

 ゆえに福田は会話中、人格を頻繁に入れ替えているのだという。

 情報の共有の意味が全くない。

 人格が何人いて、主人格は誰なのかすら不明。

 そこそこの期間をともにしても区別がついたのは人殺しをするときにでる一人・・のみ。

 その人格の福田は頼りがいがあるのだが、普段はぱっぱらぱーだ。おっかなくて仕方ない。


「暇んなったな」


「だね」


「……ナイフ貸すか?」


「篠崎君。ナイフは暇潰しに使うものじゃないんだよ?」

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