第35話 作戦会議

 指令本部室には『アトランティス調査隊』に抜擢された執行部員が集まっていた。


 燈太は少し気になっていることがある。

 今回、調査隊に選ばれたメンバーの中に気になる名があった。「現象課長ハイド」である。


 執行部各課長は、その課の仕事内容において優秀かつ、国外の任務を単独でこなせる――つまり、優秀な人材を欲しがる外国政府絡みのトラブルが起きたとしてもそれを一人で解決できるような力の持ち主だ。生物課長は距離を無視した瞬間移動という強力な能力を所持している。


 現象課長とは直接あったこともなければ、静馬から名前を聞いたことすらなかった。

 しかし、「ハイド」とはどこかで聞き覚えが……。


 周りを見渡しても、知らない顔はいない。


「どうしたんだ?」


 紅蓮があたりを見渡した燈太を不審がり声を掛けた。


「あの、現象課長ハイドって今ここにいらっしゃるんでしょうか?」


「あー、現象課長はここに来ねぇよ?」


「どんな人なんですか?」


「どんな人っつーか、そもそも人じゃねぇよ?」


「へ?」


「――それでは作戦会議を始めます」


 聞き間違いだろうか。聞き返そうにも葛城が作戦会議を始めるようなので、機会を失ってしまった。


「『アトランティス調査隊』は3班で構成します」


 葛城がそう言い、カレンがモニターを操作している。


「第一突入班。ハイド、紅蓮、幽嶋」


「おうよ」「りょーかいデス」


「この班で『アトランティス』に入る危険度を確かめてもらうわ」


 ハイドは不明だが、不死身の紅蓮、即時撤退可能の幽嶋で構成されている。


「第二突入班。空、ネロ」


「うっす!」『ハイ!』


「内部の戦力増強が目的よ。何があるかわからないからね」


 戦闘員である空、ネロも何かあるのだろうか。


「第三突入班。静華、燈太、静馬」


「は、はい!」「はい」「ふん」


「安全を確認した上で突入し、『アトランティス』の調査をすぐにお願い」


 最後に自衛能力の低い調査に長けた人員が突入するということだ。


「突入後は各自に担当のオペレーターが付き、随時情報の共有、指示を出します。ここまで質問は?」


 誰も手をあげない。


「ここからは各班ごとに突入の詳細を話すわね」


 三時間経過。

 各班の方針が話され、第三突入班として燈太もそれに参加した。


「――明後日、0時ここを出発として、南極へ向かう。中がどうなっているかわからない以上、これ以上の作戦の検討は難しいわ。ここからは現地で指示を行います。

 臨機応変な対応を。以上解散」


 集められた人間は各課へ戻っていく。

 燈太は現在、生物課の研修中だ。しかし、今回の件で一度中断となっている。


「あー疲れた」


「ッス」


「ですね」


 とりあえず対人課員についていくことにした。


「南極ッスかー。やっぱ寒いんすかね?」


「そりゃさみーだろ」


「マイナス50度とか聞いたことありますよ」


「マジか」


「やべーっスね。毛皮を入手する必要があるっス」


「……ナンキョクグマっていねーのかな」


「現地調達する気なんですか……?」


「生物課に今度聞いてみるッス」


 雑談しながらオフィスへ帰る。


「どうだった?」


 調が指令部室から帰った面々へ声をかける。


「長かった」「なげーッス」


「……そうか」


 中身のない返答にため息をつきながら調はPCへ向き直った。


「――南極かァ」


 鑑真が口を開いた。


「ガン爺行ったことあるんスか?」


「ねェ。若い頃ベトナムとかは行ったけどよォ。寒いとこは嫌いだァ」


「……ベトナム。なんか、やべぇ匂いがすんな」

「これ以上は聞かねぇッス」


 何をしに行ったかは聞かなかった。


「――空先輩」


 春奈だった。

 彼女は燈太と違い就きたい課が明確であるため、対人課へ即配属された。


「おっ、なんスか春奈ちゃん」


「南極行くんですよね? マニュアルに、海外での仕事は課長のみが許されてるって書いてあるんですけど、いんですか?」


 確かに、今更だがそうだ。


「……だそうッス、紅蓮先輩」


「……そりゃ、あれだろ。南極は氷だから例外でセーフ的な、感じだろ」


「調先輩どうなんスか?」


「おいコラ」


 調は本を置いた。


「……言いたくないが、紅蓮の説明は半分当たっている」


「え」


 空はもちろん、紅蓮までもが驚いた。


「南極はどこかの国の土地ではないのだ。そして、南極での軍事行為は禁止されている。故に危険はさほどないということだ。

 それに加え今回は課長も派遣するので特別措置として国も指令部も認めたというわけなのだよ」


「……じゃあ、『アトランティス』もみんなの物ですよね? 日本の『黒葬』が単独調査できるものなんですか?」


「そこに関しては条件付きだ。そこで得た物は公開すること。そして、成果物の7割は分配すること」


「逆に言うと3割ももらえるんスね」


「今、世界政府は『黒葬』へ恩がある。大半の要求が通ったそうだ」


「恩?」


「現在、海外にある『極夜の魔術団』支部を片端から課長が潰している。そのおかげなのだよ。NYテロ以降、『極夜の魔術団』支部をどうにかしたくとも魔術を使う以上あまり強気にでれない国が多かったのだ。それを引き受けたのは大きかった」


「……というか結構詳しいっすね、調さん」


「対人課長代理で会議に参加したのだよ。まあ私は行けないがね」


「南極地底人がいたら調先輩の出番ッスよ!」


「……期待しておこう」

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