第24話 愉快な生物課(2)

 藤乃に連れられ、植物園のスタッフルームへ行くとそこにはエレベーターがあった。研究室は本社同様、地下にあるしい。

 1分近くエレベーターで下り、やがて、地下室に到着した。


「ここが、生物課研究室です」


 エレベーターから出ると、50mほどの一本道があった。左右はガラス張りになっている。


「……え?」


 ガラスの向こうには、「自然」があった。

 植物園とはレベルが違う。

 木々が数えきれぬほど立ち並び、川も流れている。そして、木漏れ日まで生まれていた。


「ガラスの向こうには見ての通り、人工的な森ができています。『光』もできるだけ太陽に寄せて作ってるんです」


「……あのっ! 中には何がいるんですか?」


 そう、ここまで再現した自然を用いて何を飼育するのか。それが気にならないはずがない。


「そうですね……。あれ見えますか?」


「……狼ですか?」


 狼が見える。しかし、そのサイズは通常だ。外でみたリンクバーグウルフという種ではない。


「ニホンオオカミです」


「ニホンオオカミ……。! それって」


 日本にも狼はいた。その名の通り、ニホンオオカミである。しかし、その狼は既に絶滅しているはずだ。


「えぇ。1900年前半に記録が途絶え、絶滅したとされています」


「……クローンとかですか?」


「いえ、オリジナルですよ。『黒葬』の前組織、『黒の葬り人』にも生物の保護を行っている人達がいて、その方達が残してくれた個体を今日現在に至るまで受け継いでいるんです」


 生物の保護は遥か昔から『黒の葬り人』が行っていたと藤乃は言う。


「……あの、『黒の葬り人』は『超現象保持者ホルダー』を守るため、そして、その能力を有意義に使うため、結成された……と聞いたんですけど。生物の保護はなぜ『黒葬』が行っているんですか?」


「『超現象保持者ホルダー』にも色々いるんです。例えば、私、植物の声が聴こえるんですよ」


「植物の声? 水が欲しい……とかそういう?」


「そんな感じです。そういう方面の能力を持った方の活用方法もそうでしょうし、課長の瞬間移動も生き物を捕まえるのにはピッタリです。

 ……とまぁこれが理由の一つ」


「……というと?」


「突然変異で生まれてしまった、野生で放しておくには危険な生物。これの処理は普通の人には手に負えなかったり……。妖怪として今語り継がれているものもありますね」


「流石秘密結社……」


「あとは個体数の少ない生き物を保護し、人の手から守る。つまりは、隠蔽する活動も『黒葬』向きなんです。隠すのは、秘密結社の専売特許ですからね」


「あぁ、ニホンオオカミもその例の一つ……と」


「そうです」


 『黒葬』の隠蔽性、『超現象保持者ホルダー』の能力。それらを使い、生存が危ぶまれる生物の保護、危険生物の処理を行う。

 それが生物課なのだ。


「あ、そうだ。課長が言ってましたけど、UMAとかっているんですか?」


「……そうでした! 明日のお仕事なんですけど、ずばりUMAの捕獲です」


 藤乃はUMAという単語で思い出したのか、明日の仕事内容を語った。


「え! 僕なんかが行って、邪魔になりませんか?!」


「大丈夫ですよ、同行するのはその手のスペシャリストです」


「スペシャリスト?」


「えぇ、それに研修ですから。そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」


「ちなみにそのUMAって言うのは……」


「ずばり――」

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