第25話 ツチノコ捕獲作戦(1)
昨日同様、今日も本社から、二時間かけ生物課の研究所へ向かう。
二度目ということもあり、今日は植物園まですぐにたどり着くことができた。
「おはようございますー」
施設に入り、声を出す。流石に昨日のような事故はないだろう。
「──お待ちしていたで
「うわっ!」
後ろから声を掛けられた。生物課長の時同様に気配が全く感じられなかった。
……ここの人間は正面から声を掛けられないのだろうか。
そして、「ござる」。
「拙者、生物課調査班、
振り返るとスーツの男が立っていた。
しかし、腰に短刀を差し、口元は布で覆われている。
「忍者……?!」
「いかにも。忍者の末裔かつ、ラストニンジャでござる」
左空と名乗るその男は口調、外見ともに忍者であった。
「燈太殿でよろしいか?」
「あっ、はい。今日はよろしくお願いします」
今日は生物課調査班の任務に研修として同行する。
「では参ろうか。ツチノコ捕獲作戦へ」
UMAであるツチノコを捕まえるのが今回の仕事である。
◆
ツチノコとはなにか。
それは、日本で一番有名な未確認生物である。
蛇のような姿をしているが、胴の中央部が膨らんでおり、蛇と比べるとずんぐりと描かれることが多い。名の由来は
燈太と左空は岐阜県へ向かった。
「岐阜って確かツチノコの目撃件数が多いんでしたっけ?」
「よく知ってるでござるな。いかにも」
目的地には車で三時間ほどで着くという。後部座席に、燈太と左空は座っていた。
「あの、根本的な質問なんですけど、ツチノコを捕まえる理由ってなんなんですか? 危険生物……とか?」
毒を持っているという説をネットで見たことがある。
「全く無害でござるよ。毒も持っておらぬ。俺、……拙者は一度みたことがあるが、臆病な生き物でござった。そこは心配ご無用でござる」
「? じゃあどうして捕獲するんですか?」
「それを説明するには、ツチノコの特性を知る必要があるでござる。これは捕獲にも関わることで、よく聞いてほしいでござる」
「ツチノコの特性……」
「ツチノコが存在するにも関わらず、未だなぜ発見に至らないか。それは、
――ツチノコには迷彩能力があるからでござる」
「迷彩能力……。カメレオンみたいな?」
「それの遥か高レベルの物と考えてもらって問題ないでござる。いわゆる光学迷彩と呼ばれる類でござるよ」
光学迷彩。SFといったフィクションの中で聞いたことはある。
「ツチノコは光を湾曲させ自分を隠すのでござる」
「そりゃ……いつまで経っても発見できませんね」
左空はうなずく。
「光学迷彩技術というのは、兵器としても有効でござろう? ツチノコはただでさえ希少な生き物。もしこの特性が公になれば」
「乱獲によって絶滅してしまう……。だから、『黒葬』が隠蔽して保護する必要があると……」
「そういうことでござる」
左空の表情や声色からツチノコという人間の手によって絶滅に瀕す生き物を、案じる気持ちが伝わってくる。
「助けましょう! ツチノコ!」
「あぁ、もちろんだ、……でござる」
ツチノコという未知の生き物も、その正体を知ってしまえばか弱い生き物だった。であれば、自分にできることをやろう、そう燈太は思った。
それから2時間。やがて、岐阜県へ入り山道へと車は入っていった。
「左空さん。見えないツチノコはどうやって捕獲……、というか、探すんですか? サーモグラフィーカメラとかですか」
「残念ながら、サーモグラフィではツチノコを見ることは不可能でござる。というのも光学迷彩を行うツチノコは『UE』を身にまとってるんでござるよ」
「『UE』がでてるんですか?!」
左空は首を縦に振った。
「『UE』が邪魔してツチノコが発している赤外線が観測できないのでござる。使うのは超音波センサーでござる。発する超音波の反響を使って探すんでござるよ」
「あぁ、蝙蝠がやってるような」
「仕組みはそれでござる。発見次第、拙者がすぐ捕まえるでござる」
流石忍者。そう思う。
「『UE』が発生しているだけあって、おおよその場所も特定できるでござる」
「何匹がノルマとかっていうのは、あるんです?」
「一匹でござる。ツチノコはどこからともなく発生し、どこからともなく消失するんでござるよ」
「……凄いですねツチノコ」
「年に2、3匹ペースで発生するんでござる。岐阜で『UE』の観測があれば、生物課が向かい確保という流れでござるな」
不意に車が止まった。どうやら、目的地に着いたらしい。
「では任務開始でござる」
左空、燈太は車から降り、左空はトランクを開け、何かを取り出した。
左空から手渡されたのは例の超音波でツチノコを見つける装置のようだ。どう使うかをその場でレクチャーされたが、難しい操作はない。
「拙者は右を、燈太殿は左へ」
「了解しました」
「ツチノコを発見したら、不用意に近づかず、拙者に連絡してくれ……でござる」
話をしていてわかったが、左空はたまに標準語が出る時がある。
「……その口調ってキャラ作ってます?」
「……課長に強要されているでござる……」
「な、なるほど」
上下関係というのは時に残酷なものである。
燈太は装置の電源を入れ、周囲に向けながら歩く。装置にはモニターがついており、それに超音波を介し、得た周囲の状況がぼんやりと写される。画面で動く生き物が、目で見えないならば、それはツチノコということになる。
歩き回ること2時間。
「思ったより大変な作業だな……これ」
ここは山ということもあり、あまり画面に集中すると、転びそうになる。
『黒葬』の抱える支援部隊『黒子』――対人課の後処理部隊としても活動している――を呼び、人手を増やすことも可能だ。しかし、それをすると周囲に不審がられてしまう。そのため、最低限の人員、つまり二人でツチノコ探しを行っている。
少人数なのは仕方がない。
しかし、目に見えない生き物を、装置をみながら見つけるというのは骨が折れる。
装置だけに集中、もしくは周りだけに集中ならばまだ楽になるのだが。
「……あ」
燈太は自分の両手の指をピタリとくっつけた。
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