第16話 葬られた闇と残された影

「大丈夫っスか?!」


 紅蓮が部屋にいた男達を倒してから間もなく、部屋の扉が物凄い勢いで蹴破られた。


「あっ、空さん!」


「おっ、空じゃねぇか」


 空は燈太、紅蓮が無事だったからか笑顔を見せた。しかし、すぐに表情が変わる。


「……なんか思ったより余裕そうッスね。うち必要だったんスか?」


 空は、ほほを膨らませている。


「助かりましたよ! ありがとうございます!」


「……ほんとッスか? 実は二人で逃げれる算段が付いてたとか……」


「いや、マジで助かったぜ。流石に燈太抱えて、こっから逃げんのは無理だったからな」


「……そうっスかぁ? いやぁ照れるっスねぇ」


 空は表情をコロコロと変える。


「じゃあ帰るッスよ!」


「そうだな」


「……この人達はどうするんですか?」


 燈太は目を下に向ける。紅蓮に倒され気を失っている男達の事である。


「外で『黒子』が待機してるッス。まぁ、あっちが勝手に警察に付き出すなりなんなりしてくれるッスよ」


 『黒子』というのは、『黒葬』の事後処理部隊だったはずだ。


「……あっ、そうだ」


 空は思い出したかのように、紅蓮に振り向く。


「めぐねぇ、ブチキレてたッスよ。『また、やらかしたのか、紅蓮はー!』って」


 めぐねぇ。……指令部の葛城は下の名前が恵だったと記憶している。


「うわっ、マジかよ。めんどくせぇ」


「えっ、葛城さん怒るんですか?」


 葛城は優しいお姉さん、的なイメージがある。


「ありゃあなぁ、猫被ってんだよ。ヒスるとダルいんだよなぁ」


 以外だ。

 流石にヒステリーを起こすというのは盛っているだろうが。


「……チクるッス」


 空が呟く。


「?! バカ、てめっ!」


 先ほどまで監禁されていたのが嘘のようだ。とはいえ、燈太も慣れてきているような気はする。

 居心地はちっとも悪くないのだから。


 ◆


 都内某所。廃工場にて。

 そこには三人の男がいた。


「アッハハハハハハ!!」


 笑い声が響く。


「白金のジジイ死んでやんの!!」

「おい不謹慎だぞ!」

「そうだ、不謹慎だ!」

「そうだ、そう──」


 突如、ナイフが壁に突き刺さった。



「さっきから、独り言・・・がぁ、うるぅさい」



 多重人格者である福田は篠崎に注意され、口を閉じた。


「……」


 木原はそれをただ傍観していた。


 三人は、敬之助、治正と共に人殺しを行ったメンバーである。

 3人の共通点は若くして人を殺し、刑務所に入っていたことだった。そんなある日、治正が彼らをそこから出した。

 治正は人を殺す機会と標的を木原達に提供した。

 治正には殺害を録画したビデオを木原達が提供する。

 互いの欲が満たされるwin-winな関係と言えた。

 しかし、先日、死体が見つかり、敬之助および木原達に足が付いた。災難としか言いようがない。治正と連絡が付かなくなったのはすぐのことだった。

 かろうじて、敬之助とコンタクトが取れた。曰く、治正と敬之助は『黒葬』という謎の組織に命を狙われてしまったらしい。木原達は警察に追われ、白金親子は別の組織に追われているということだ。

 そして、今に至る。

 敬之助にこっそり付けていた、盗聴器を聞いて白金親子の死を知った。


「さてぇ、どおするかなぁ」


 篠崎はバッグからナイフを取り出し、手でもてあそぶ。刺さりそうで危ない。


「どうするもこうするも! 治正がいないと警察に捕まるぞ!

 ――もみ消そうとして治正は死んだんだろうが!

 ――警察から逃げよう!

 ――自首すべきじゃないかなぁ……」


「うるせぇよだから」


 福田の言葉に篠崎は不機嫌になっているのがわかる。


「……殺そう」


 木原は決意した。


「うん。警察を全員殺そう。とりあえず」


 木原は自分以外の人間が怖くて仕方がない。

 ここにいる、福田、篠崎にも恐怖心はあるが、ここが一番安全なのだ。

 それに、最近になって、人間は案外脆い・・ことを知った。頑張ればある程度その恐怖心を拭うことはできる。


「白金さんはいなくなって不安だけど、大丈夫。追ってきた警察を殺せば捕まることはないんだから」


「天才だな。その通りだ」


 篠崎は木原の意見を肯定した。これで良い。


「『白金遊戯の会』は頑張って殺そう――」


 『白金遊戯の会』の発端である白金親子は亡くなったが、過半数の3人は生きている。あきらめてはいけない。


「――これからも」


 転がっていた警官の首を蹴飛ばした。

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