第45話

 パチリと唐突に目が覚めてとび起きる。

 手で顔を覆って夢の内容を吟味しようとした時――――


「エルザ様!! お目覚めになりましたのね!!!」


 その声を聴いた瞬間、無意識に声のした方を即座に向いた。


「……――――リーナ……? アーデルハイト様……? ベアトリス様……?」


 呆然としながら彼女たちの名をただ呼んでいた。

 どうして微塵も傷もなく五体満足で、しかも怪物にさえなっていないままの……いつも通りな皆が居るのかが理解できない。



 これは――――

 都合の良い夢……?

 まだ私は夢を見ているのだろうか……?


「アーデルハイト様。ベアトリス様と手分けされて皆様にご連絡を!」


 リーナがホット安堵した表情を瞬時に厳しいものへと変えて、二人へと鋭く告げた途端だった。


「そうでしたわね。御前失礼致しますわ、エルザ様」


 アーデルハイト様は部屋着らしいラフだけれど貴族らしいドレス姿で私に綺麗な一礼をしてから、颯爽と立っていかれる。


「安堵いたしました、エルザ様。時間がありません。詳しい事はカタリーナ様にお聞き下さいませ」


 ベアトリス様も笑顔を引き締めた後、急いでいるだろうに見事な礼をしてから足早に出て行かれた。



 唖然として身動きできない私に、リーナは泣き笑いの様な表情になってから私を抱きしめる。


「良かった……! 目が覚めて本当に良かった!!」


 声も体も震えているリーナからは感極まっているのが如実に伝わってくる。


「――――……リーナ。加奈ちゃん。一体何がどうなっているの……?」


 どれくらいそうしていただろう、どうにか言葉を発して疑問を呈する。


「……エルザ、瑠美。どこまで記憶が在るのか聞いても良い?」


 リーナは私を離してから真剣そのものの表情で問い返す。


「――――ええと……以前幻獣の森に居た怪物がまた現れて……」


 どうにか記憶を探って答えようとするけれど、これ以上はどうしても言葉に出来なかった。

 弱い私に本当に腹が立つ。

 声は震えるし、皆が無事だからだろうか……?

 どうしてか……後から後から涙があふれて止まらない。



 ああ……ようやくあの件を私の心は実感しているのだと思い至る。

 今まで遠かったすべてが鮮明に脳裏に過って――――



 何度も何度も深呼吸。

 どうにか心を落ち着かせる。

 そして切り替えまた口を開く。


「――――……皆が殺された後……私が力を使ったところよ。力を使った後意識を失ったから」


 私が落ち着くまで待っていてくれたリーナは、静かに肯くと意を決した様に口を開いた。


「瑠美はまだ自分がいる場所も把握していないみたいだから、先ずそれから説明するね。ここは学校の女子寮でエルザの部屋。それをしっかりと認識して欲しい」


 真剣な表情の加奈ちゃんに目を瞬かせながら、キョロキョロと辺りを見回すと、確かにここは私の寮の部屋で、寝ていたのは私のベッドだ。

 驚きすぎて此処が一体どこなのかは置き去りになっていたのだから、私の精神状態はあまりよろしくないらしい。

 それでも兎に角現状確認をしなければと、私も表情を引き締めてリーナを見る。


「確かに私の部屋ね。……――――加奈ちゃんは”皆が殺された”と言っても驚いてはいなかったから――――知っているのよね……? だとしたらこの状況は……?」


 恐る恐る事実を理解しようとする私に、リーナで加奈ちゃんの彼女はどう説明したら良いのか悩んでいるのだろう、難しい顔になりながらも話し出した。


「――――……どこから説明したら良いか……私にはあの場所で死んだ記憶が在る。でも私以外にはその記憶を持っている人はいないのよ」


 一旦言葉を切ったリーナは、私が驚愕で目を見開いているのを尤もだという表情で見ながら、自分でも信じられないという声音でどこか焦りながら続きを告げる。


「……しかもね……私の場合のよ……私だけじゃない。エルザ含む皆の時が――――」


 驚きすぎて固まっている私を心配そうに見ながら、それでもどうしてか早く話し終えようとしてるらしいリーナに首を傾げるが、彼女がまた口を開いて急ぎ話だした。


「時間が戻ったのは三日。――――私含む皆が幻獣の森で死んだ日は現在から考えると前日になるのね……――――私の意識が戻った時のは三日前の朝、自分のベッドの上でだった。私の実感としては時間が戻ったのは幻獣の森に出発する前日なのよ……それから今までエルザはずっと眠っていたわ……――――幻獣の森への演習も無くなっているの。エルザにしてみるとあの事件の翌日というのが暦の上での流れ」


 衝撃が強すぎてどうして良いか分からず、ただただ目を瞬くしか出来なかった。

 何がどうなっているのかがさっぱり分からない。



 そんな私を心配そうにしながら、それでもリーナは周囲を気にもしながら話を続ける。


「――――しかもね、目が覚めた時には学校の敷地外には出られなくなっていたのよ」

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