第30話
「ま、要するにだ。私達みたいなのは碌なもんじゃないから気を付けてねって事と、うっかり出遭ったら諦めてねって事。ワザとやってるのとか悪気の無いのとか、人間同様色々いるって思ってもらえたら幸いかな。規模が違ったり感覚が違うだけなんだよ。人間だってダニが何考えてるかとか正確には理解できないでしょ。分かったとしてもそれを理解できるか、共感できるかは別だと思うんだよ。実験してる連中は大きな戦争を頻繁に起こさせたりもするんだよね。ほら、そうすると超人的なのが発生したり作ろうと頑張ったり、兵器も進化する上色々爆発的に発展するケースが多いから。やりすぎると文明終わっちゃうけど、それはそれで次の実験に移るから良いんだってね。やっぱり探求してるのは楽しいし。皆それぞれ趣味を極めてるみたいなものなんだよ。……だから中には戦闘狂もいてね。そういう連中は他の同類や世界に攻め込んだりする。戦闘狂にもそれぞれ拘りがあってね……自分が戦うのが好きな奴、自分が育てたのを戦わせるのが好きな奴、いわゆる軍隊対軍隊みたいな大規模戦闘が大好きな奴とか……一番性質が悪いのは蹂躙するのが好きな奴かな。あいつ等は弱い者イジメ大好きだから。虐殺大好きなのとか、加虐趣味に嗜虐趣味の連中に目を付けられたらその世界普通に悲惨な終わりだから。そういうのが趣味の連中って基本的に”負”の属性だから強いし。”正”の属性って普通あまり強くないんだよ。”負”の連中はドーピングし放題な所があるけど、”正”の連中はね……強力なその属性の奴は元々強いか狂って”負”に属する何等かの属性を得たか生まれつき持ってるかしかないし……”中”もね……どっちつかずな中途半端なのが多くて……やっぱり戦闘に積極的なのは”負”の連中。……確か、畏くも『御柱』の御方々におかせられてはすべからく”真正にして純正の魔属性”であらせられたはず……」
後半は眉根を寄せてブツブツと独り言染みて呟いていたけれど、急に顔を上げて私を見詰める。
その視線はやっぱり親愛の情にあふれているし、とても楽しそうな光も込められているのが分かってしまう程には明確なものだ。
組んでいた腕を解いて、右手の人差し指を軽く振りながら小首を傾けているギュンター。
その瞳には微塵も冷たい色も探る色も無くて、純粋に私の答えを待っていた。
「君の友人の話の前に、他に転生していた人物がいたでしょ? 彼について君は今までの話からどう判断する?」
ギュンターの話から、あの”神様に転生させてもらった”という男性の事を考えたのだが、存外答えが簡単に出てしまって困惑する。
脳味噌さんは相変わらず逃亡中ではあるけれど、ギュンターがどうやらこの知識を刻み込んでくれているからだろう。
誰かの、いわゆる人外の存在による研究の過程での実験からこの世界に転生。
その人外の属性は分からない。
……これで合っているのだろうか……?
「大体あってる。属性については後でね。それからアレは転生というか転移。こっちの世界に合わせて体を変化させてから転移させたんだよ。実験として言葉は自分でどうにかしてねっていうやつだね。それで能力はアレの言った通りのモノでいわゆる『誰かから何かを奪う』っていうもの。奪う系はさ……かなりリスクあるんだよ……人間は知らない奴多いけど。考えようよ……誰かから何か強引に奪うって厄がね……運だってダウンするし……マイナスの運気に取り込まれるよ……運とか厄って本当大事になるんだからね……当たり前に生存するために使われてるって自覚もとうよ……低下したら大変でしょうが……だからこそ”魔属性”や”負”に属する連中が”聖属性”に妄執するし固執する一因なんだよ……それより格段に劣るとしても”巫女”系や”光属性”に執着する要因なんだって……側にいてくれないと困るんだって……確かに天然モノに勝るもの無しだけど、完全養殖や創り出したのでもどうにかなるからね。でも人間はそうじゃないでしょ……」
段々イラっとした様に呟いていたギュンターだったが、ハタッと気が付いたように私を見詰めて申し訳なさそうに肩を落とした。
本当にしょんぼりとしてしまったものだから、私は申し訳なくて慌てて声をかけようとしたのだが、彼は優しく首を振ってから嬉しそうに微笑んだ。
「ごめんね。同類とちゃんとこういう話するの初めてで浮かれちゃって……。それから本当にありがとう。君はやっぱり優しいね。私の様なのを気遣ってくれる。これはやっぱり落ちるな……君の属性で案じられると危険だね。危険だ。溺れるのが分かる。分かりすぎるほどわかるね……。――――それで、あの男を実験していた存在は、何処からその男を連れてきたのかって話だね。ルディアスの見立て通り、君の所とは違う。でも似ている。さてどうしてでしょう?」
ギュンターは大きくため息を吐いてから続けた言葉に目を瞠る。
どういう事なのだろう……
あの時も分からなかった。
加奈ちゃんと私とは違う……のだろうか……?
あの時加奈ちゃんが思いついた案とは、この男性の場合どうやら違う気がする。
けれど私の居た世界とは違うのに似ているということは……
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