第141話
黄昏の中、複数の重箱を開けて並べ、宴会の様。
敷布もしっかりクッションが効いていて、座っているのがとても楽だ。
家の大好きな真紅の薔薇と実で作った薔薇ジュースの炭酸割り。
薔薇の花弁と実、つまりローズヒップを水で煮込んみ、濾してから砂糖を入れてコトコト煮詰め、レモン汁を入れて出来上がりな代物だ。
紫蘇ジュースも作ろうかと思ったが、季節的にはまだ早い。
あの薔薇達は早咲きでたまたま間に合ったのだ。
それらを片手に乾杯してから、早速皆が一斉に食べ始めた。
……食べる速度に首を傾げる。
今の時間は夕飯にはまだ早い時間帯だが……
「あのね、エルザ。不思議そうにしてるけど、俺達くらいの年齢は、特に運動してるとこの時間は既に腹減ってるから。夕飯前に軽くこれくらい入るよ」
エドは、たっぷり照り焼きポークのバケットサンド、トマトとレタスとチーズにカラシマヨネーズ入りを食べ終わってから教えてくれた。
「だよな。しっかし肉類多めで助かるわ。それに相変わらず美味いな。流石だエルザ」
アンドは、スパイシーチューリップ唐揚げを手に持ちながら何度も肯いている。
「このおにぎり美味しいですね。中々ない味だと思いますが」
一口食べたらしいペペロンチーノなアサリの炊き込みご飯のおにぎりを見詰めながら、フェルが言う。
「ああ、唐辛子とニンニクをアサリと炒めたの。アサリの出汁でご飯を炊いてから具材を混ぜておにぎりにしたからかも」
フェルは興味深そうに肯いている。
「面白いな、これは。エルザ、甘いのと甘酸っぱいのがたまらないと思う。油との相性も抜群だ。好きだな」
ギルは相変わらずな様子でありながらどこか嬉しそうに、干しデーツと干しプルーンをベーコンで巻いてカリカリに焼いたピンチョスを何本も口にしていた。
「このおにぎり、も、美味しかった、ですけど、今、食べてる、稲荷寿司、凄く、好きです」
ロタールはワサビと大葉のお稲荷さんを持ちながら、相好を崩しつつ何度も肯いていた。
「これなんですか? すっごく好きです。ふわっとしてて食べやすい感じと甘いのが良いですね」
シューはニコニコと嬉しそうだ。
「ああ、茹でたもち麦と、イチゴ、牛乳、ハチミツをジューサーで混ぜて冷やしたムースよ。もち麦効果で腹持ちするし、ハチミツを多めに入れたから甘いかも」
私が答えると、シューはキラキラした目で私を見詰める。
「おやつに良さそうです! あの、作り方を教えて下さい!!」
意気込むシューにタジタジになりながら勿論快く了承した。
「ユーディ、どう? フルーツサンドも二種類作ってみたのだけれど……」
私が心配で訊ねると、ユーディは目を輝かせながら
「この冷たいフルーツサンドも、通常のフルーツサンドもとても美味ですわ。甲乙付け難いかと」
アイスドライフルーツサンド、クルミ入りを黙々と食べていたらしいユーディに、思わず笑みが漏れる。
「気に入ってもらえて良かったわ。私の好きなフルーツを入れてしまったけれど、口に合って本当に嬉しい」
そんな私にリーナはクスクスと笑みながら
「桃と林檎が多めなのがエルザ様らしいですわね。葡萄と甘いサクランボもお好きと見ました。格段に美味なメロンと梨と枇杷も」
恥ずかしくなりながら付け足してみる。
「ライチやスイカ、苺も好きよ。柑橘系も甘いのが好きかな。マンゴーと甘酸っぱい系は苦手だけれど……」
それに今まで無言だったフリードが心配そうに
「この林檎は甘酸っぱい気もするが、大丈夫なのか?」
思わず笑みが浮かぶ。
「この林檎ジャムの春巻き、火を通すと甘い品種の林檎でジャムを作ったの。カスタードクリームと合わせると丁度良いかなって思って、この林檎の種類にしたのだけれど……」
説明していて自信が無くなってくる。
火を通したお菓子に最適だと思うこの品種は、ちょっと甘酸っぱい。
だから普通の林檎で作ったジャムよりも、カスタードクリームと合わせるとうまくマッチすると思ったのだが……
「否、カスタードととても良く合っていて美味だ。ただ私はエルザは甘酸っぱいのが苦手故心配したのであって、この菓子を貶している訳ではない」
大慌てになるフリードに私も慌てる。
「あの、大丈夫よ。美味しいって思ってくれたのならそれだけで良いの。あの、私を心配してくれてありがとう」
フリードはどこかホッとして表情を柔らかくする。
「この林檎の春巻きも桃の春巻きも美味だ。柑橘系の春巻きと苺の春巻きはジャムのみだと思うが、桃には何か入っているのか?」
気が付いてくれたことが嬉しくて、笑顔になる。
「あのね、フリートに教えてもらった特別な桃でジャムを作って、桃ジャムと一緒にクリームチーズを春巻きの皮に包んでオーブンで焼いたの。この桃、本当に美味しいね。フリード、ありがとう」
確か、前世でも色々季節でジャムを変えていたのだが、前世で勇はどのジャムも好きだったのだ。
桃と林檎、梨に葡萄の物が特に好きだったと記憶している。
「エルザに喜んでもらえたのならば教えた甲斐がある。想像以上にエルザが嬉しそう故、私も嬉しい」
フリードは優しい笑みを浮かべながら私を見詰めた。
「おい、ハンバート、ちゃんと食べてるか?」
アンドがハンバートを見ながら言っていた言葉に心配になって
「あの、口に合わなかった?」
思わず口から出た言葉に、ハンバートは慌てて
「いえ、あの、きちんと食べています。どれも美味しいですよ。特にこの甘くないスフレ、ですか? それがとても好きです。萎む前にと必死に食べていただけですので……」
ハンバートの言葉に胸を撫でおろすと、アンドが不思議そうに
「菓子ばっか食べてると思ったが、これ、もしかして肉とか入ってるのか?」
それに苦笑しながら答える。
……これも勇が好きだったなぁと思いながら。
「甘いスフレもあるけれど、総菜系のスフレも数種類作ったから。チーズと塩と角切りにしたベーコン入りの物と、鮭のフレークと味付けした刻んだほうれん草入りの物と、キノコとゴロゴロ刻んだウインナ―ソーセージ入りの物」
フリードとギル、エド、アンドが興味深そうにスフレを見ている。
「あの、まだあるから、食べる?」
私がおずおずと声をかけたら、皆が何故か一斉に肯いたので、目を丸くするしかなかった。
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