第79話
「でもさ、エルザが意図してやった訳じゃないでしょ? だいたい”彼女”の言動が招いた事態で、エルザは関係ないじゃない。”彼女”に対する周りの態度は必然だったんだから、気にしない方が……」
リーナの言葉を聞いて、余計に怖くなる。
身体が震えるのも自覚したが、それをどうにか押し込み声が震えない様に気合を入れて言葉をリーナに返す。
「それって、どう私が頑張っても、どうしようもないって事にならない? ”必然”ってそういう事だよね……それって、つまり――――」
それ以上が恐怖で凍り付いた様に言えず、沈黙するしかない私と、理解したらしく、同じく凍り付いたリーナ。
そんな停止した時を溶かしたのは、運転手さんの声だった。
「そろそろ到着致しますので、ご準備下さい」
この車は、前の席と後ろの席に遮るものがあり、通常は見る事も音声も届かない様になっている。
ただ、どちらにも異常を伝えたり要望を伝えたりするための会話装置みたいなのがあるのだ。
これは馬車や高級車には必ず備え付けてある物で、私もリーナも見慣れているから驚きは無い。
今回は凍った空間を破壊してくれたので、感謝である。
リーナも私も気分を変えようと、各々頬を叩いたりしてから店へと入って行った。
店内は相変わらず程々に混んでいて、私達は店員さんが薦める貴族等のお客様用の場所で物色中。
私の侍女達から話がいっていたらしく、店に入るとすぐさま店員さんが出て来たのは以前と一緒だ。
やはり持ち物にも相応しい格というものがあるらしく、身分相応の物を選ぶのが推奨されているので、私達の場合、そういう品々を見て回ることになる訳だが、一般の庶民だと思われる学生さん達もかなりいて、ちょっと興味はあったりする。
ただ、彼女や彼等は、私やリーナが入店した時点でちょっと恐縮してしまった様に感じたから、学校が違うのかなとか、相手に緊張させるのもどうかと思い、それぞれが居るのが相応しい所に居るべきだとも思う次第でした。
分不相応というのは、本当にあるのだと思う。
感覚、感性、何より基礎教養の違いというのは根深くて、だからこそ其々の階級に合った場所や人って大事だと思うのだ。
そういうのは前世の両親を見ていれば私には否でも分かる事だった。
だからこそ思う。
何事も分を超えたものというのは、酷く難しいのだと……
それこそ必死に学ばなければどうしようもない。
死に物狂いで学ぶのは当然。
だからといってどうにもならない場合もあるのだから……
「エルザ様?」
リーナとはちょっと別の場所を見ながら色々考え込んでいたら、私の名前を呼ばれ、そちらを見る。
「ああ、やはりエルザ様でしたね。御身体の方は大丈夫でしょうか?」
そう訊いて来たのはヴェルフェン公爵家の令嬢であるベアトリス様だった。
群青色の髪に橙色の瞳で、それが一族の容姿の特徴でもある、昔からお茶会で顔見知りで友人でもありクラスも同じ、凄く綺麗な方だ。
「エルザ様もお弁当箱を探されておられるのですか?」
こちらはホーヴェンシュタウフェン公爵家の令嬢である、アーデルハイト様。
蜜柑色の髪に柚葉色の瞳で、それが一族の特徴な、ベアトリス様と同様の顔見知りで友人でもあり同じクラスの、女性的と言うか、母性を感じるというかな容姿の、とても美しい方だ。
「ベアトリス様、アーデルハイト様でしたか。身体の方は大丈夫ですわ。帰ったら検査を受ける予定ですから、ご心配には及びません。案じて下さってありがとうございます。今日はカタリーナ様のお弁当箱を探しに参りましたの。わたくしの分は既に買ってありますわ」
私の言葉を聞いてから、二人を顔を見合わせて何か言おうとした時だった。
「エルザ様、どうされました? あら? ベアトリス様にアーデルハイト様。数時間ぶりですわね」
リーナが二人が居るのを確認したからか、令嬢の言葉遣いになっているのが、何だかおかしい。
そういう自分も言葉遣いは変えたのだから、人の事は言えないかと一人納得。
「カタリーナ様もお弁当箱を探しておられるのですね」
アーデルハイト様が確認すると、リーナは苦笑しつつ
「やはり色々ありますから、お弁当箱は有った方が良いかと思いまして」
ベアトリス様も力強く肯きながら
「そうですわね。わたくしもこの頃の様子を見ているとやはり必要かと思いまして、アーデルハイト様をお誘いしましたの。個人的に必要になったからと言うのもありますけれど」
アーデルハイト様も溜め息を吐きつつ
「ベアトリス様の申し出は本当に助かりましたわ。わたくしも必要だとは思っていたのですけれど、少々躊躇してしまいまして……それに加えて事態が変化したものですから、是が非でも買わなくてはならなくなりましたの」
そこでベアトリス様とアーデルハイト様は顔を見合わせてから、私の方に顔を向ける。
その必死そうな表情に瞳を瞬かせていると
「エルザ様、あまり体調がよろしくないのは分かっております。ですが、ここで出会いましたのも皇祖様の思し召しとしか思えないのです。僅かな時間で構いません、お時間を頂けませんか?」
ベアトリス様が手を前で組んでお願いしてきたのに続き、
「お願い致します。わたくし達の相談に乗って頂けないでしょうか……?」
アーデルハイト様まで両手を顔の前で組んでお願いしているのを認識して、リーナを顔を見合わせてから、首を傾げるしかなかった。
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