第78話

 今日の授業を終え、部屋でリーナを待っていた。

 呼びに来るとの事なので、準備しつつ今日の事を思い出し中である。



 朝から色々あって、リーナと話してからちょっと休憩後、お弁当をルー、フリード、私の分を作り終わり、一息ついた頃にリーナが来て、お弁当を渡し、朝食を食べた後迎えに来てくれたリーナと一緒に登校したのだ。



 朝から忙しなかったが、登校後も驚きっぱなしだったのである。

 引っ切りなしに人が私の元へと訪れ、心配されてしまってばかりだったからなぁ。



 私を案じてくれる事に申し訳なさを感じたが、温かい言葉も沢山頂いたから、それは純粋に嬉しかった。

 もっとしっかりしなくてはと思うけれど、何をどうしたら良いものか悩み処だったり。



 彼女関連の事やそれ以外の色々。

 考える事が多すぎて、私の頭はパンクしそうだ……



 私に出来る事をするしかないと言い聞かせる事しか出来なかった。

 実際問題、それ以外の方法が思い浮かばないのだ。



 ならば今はリーナとの外出を楽しもうと準備に勤しむ。



 淡い青緑のワンピースと白いショルダーバッグに靴。

 髪はハーフアップでバレッタで留めて完成。



 暗黙の了解としてなのだが、貴族の令嬢は学生の時分、外出着はワンピース推奨なのだ。

 詳しくは分からないが、どうも貴族としての品位を落とさない為、らしい。



 それから髪はハーフアップの様に一部を留めたりはするけれど、基本的に全て纏めて留めたりという事は、戦闘演習や実際の戦闘時、もしくは勤務中以外は女性はしない決まりだったりする。

 どうも働いていたり戦闘等の緊急事態の時以外は、髪は下ろしたままというのが常識らしいのだ。



 どうやらそういうもとして認識するしかない様なので、私もそうしている。

 奇異な行動は貴族の品位に関わるし、家名に泥を塗る様な行為をする気は一切ないのだから、こちらの常識だと言われれば従うまでだ。

 特に私の倫理観に差し障りが出る訳でもないし、否やはないから苦痛ではないのは良い事だと納得している。



 ルチルとアデラは相変わらず眠りについている事がまだ多いのが心配しているが、当のアデラとルチル的には、眠いだけで特に何も無いから大丈夫との事だ。

 それでも心配は心配なので、出掛ける際にはルチルとアデラの様子を確かめてからと思っている。



 そうこうしている内にリーナがやってきたので、ルチル達がいつも通り寝ているのを確認後一緒に部屋を出て、先ずユーディにお礼のお菓子を渡してからリーナが用意してくれた車に乗り込み、お弁当箱専門店へ出発した。





 リーナは黄色いワンピースと濃いグレーのバッグと靴という出で立ちで、スッキリと綺麗にまとまっている。


「しかし、今日は大変だったでしょ? 皆我先にとエルザに挨拶に行ったから」


 確かにその通りで、驚いたのは確かだった。


「びっくりしたよ。休み時間には他のクラスの子も挨拶に来てくれたりしたから」


 リーナは納得顔で


「まあ、皆エルザが心配だったんだよ。挨拶に行ったら行ったでエルザってば儚く微笑んでるから皆凄く心配して、側を離れなかったじゃない。さっきお会いしたユーディ様も心配していらしたし」


 リーナの言葉にちょっと疑問が。


「儚く微笑んでいた、私……?」


 リーナは苦笑して


「うん、微笑んでたよ。エルザ様はまだ万全の体調じゃ無い上余程ご心痛が酷いんだろうって、皆様方とある女生徒にヘイト溜まりまくってたからね。ユーディ様とはエルザが他の人と話している間に連絡とったけど、魔導医療科でもとある令嬢に対するヘイト溜まりまくりだったらしいから。エド様の話じゃ全校生徒じゃないかって」


 思い返してみても、儚く微笑んでいた覚えはないのだが……


「私、驚いていただけなのになぁ……それが、儚く微笑んでいる感じに見えたのかなぁ……それでヘイト? 溜まるの……? ユーディも凄く心配していたみたいで気にはなっていたけれど……」


 疑問符だらけの私に、リーナは楽し気に


「エルザってさ、凄く人気あるんだよね。元々が魔力無しだから大切にしなくちゃって共通認識なのに加えて、エルザってば園遊会とかお茶会とかで、フリードリヒ殿下を始めとして具合が悪そうな人に気が付いて何くれとなく世話してきたじゃない? その上異能力も優秀だしで凄く信奉されてるんだよ。それにエルザってさ、不思議と人を惹きつけるというかなんというかな感じもあるから、信者は多いし、それ以外の人にとっても筆頭大公爵家の令嬢にして魔力無しな未来の皇妃な訳じゃない? 絶対に大切にする対象だからね。それを害するなんて、そりゃもの凄く恨まれるわ。ユーディ様ね……まあ、色々思う所もおありだと思うよ、やっぱり」


 その言葉を聞いていると、ちょっと怖くなるのだが……


「何だか、私がわざと誰かを恨む様に誘導したみたいで、怖い、かな……そいうのって、その、悪役っぽくない……?」


 リーナもハッとした様になってから、表情を引き締めた。


「……確かに、そう言われればそうだけど、エルザはやろうと思ってやった訳じゃないでしょ? 周りが勝手に誰かさんに恨み向けてるだけだし」


「そうだけれど……ゲームでは、エルザってそういうわざとヒロインに悪意が向くような事ってしてたりしたの……?」


 不安で訊ねた私に、リーナも難しい顔になる。


「確かにゲームのエルザは、ヒロインである彼女に悪い噂的なものを流したりしてフリードリヒとの間を邪魔しようとしたりもしてた、と思う……でもゲームじゃないエルザは意識的に皆の悪意が彼女に向くようにはしていない……だけど、彼女に皆のヘイトが溜まっているのは確か――――」


 ゲームでヒロインへの悪意ある噂を流したというエルザ。

 今回の状況は、私は意図していなかったとしても、結果的にはゲームと同様の事をしていた、という事に成りはしないか……?



 それが怖くて、不安で、欝々となってしまうのを止められなかった……

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