第66話

「――――……そ、そうなの……?」


 腰が引き気味の私に苦笑するリーナ。


「ごめんごめん。何か懐かしい話題で興奮しちゃった。思い出したというか、気が付けたのも嬉しくてさ」


 私は慌てて


「ううん。こちらこそ、聞いておいて驚いてごめんね。それで、その、説明お願いできますか?」


 リーナは力強く肯き、


「ええ、勿論。それで、私が欅の精に言われたのは、”オチタモノ”だった。そう、”オチタモノ”には関わるな。だったかな」


「”オチタモノ”……?」


 言葉をおうむ返しにした私に、リーナは肯きながら


「そう。”オチタモノ”。多分”オチタレンチュウ”と同じものだと思うんだけどね……あいつ等に関わるな、近づくな、声をかけるな、助けるな、だったかなあ。順番は色々だったけど、この四つは良く言われた気がする。そう、絶対に”オチタモノ”に関心を寄せてはいけない。気にしてはいけない、って感じでさ、欅の精はひいじいちゃんと、まーちゃん、あ、従兄弟ね、それと私には良く言って聞かせてた」


 その言葉を聞いていると、私にも覚えがある様な、気がする。

 そう、どこかで、誰かが言っていた。

 近付いてはいけないと。関わってはいけないと。

 ……拾ってはいけない、と。



 そう言ったのは、一体誰……?


「瑠美? どうかした?」


 リーナに言われ、慌てて笑みを浮かべる。


「大丈夫。ちょっと考えていたのよ……えっと、その、あのね、もう少し詳しく教えてくれる……?」


 心配そうにしながら、リーナは続ける。


「そう? なら続けるね。欅の精に言わせると、”オチタモノ”は人間には対処できないし、”ハザマノモノ”を呼び出すから、厄介、なんだって。それでひいじいちゃんとか従兄弟のまーちゃん、私みたいな人間は、”オチタモノ”や”ハザマノモノ”にとって格好の餌、なんだとか。特異な能力者とか霊力の強い人間も、魂が上等だから特に狙われるんだって。普通の人間でも魂を食べて力に変えるとかで凄く危険なんだとは言ってたな」


 話を聞いている限り、とても危険な存在に思える。

 人の魂を食べて糧にしている、という事なのだろうか……?


「後ね、欅の精に言わせると、”オチタモノ”や”ハザマノモノ”は、普通の人間には危険さが分からない、らしいのね。例え霊力が有ったとしても、”見通す眼”? だったかな。その眼を持っていないと、普通の怪物に見えちゃって、油断したところをパクリだとかなんとか……まあ、普通の怪物ってなんだよ、って当時思ったのよね。怪物はどう頑張っても怪物なんだから、警戒するって言うの」


 リーナは顔を顰めているのだが、”見通す眼”とは、一体……?


「ねえ、リーナ。その”見通す眼”って何か、分かる?」


 私の問いにリーナは眉根を寄せながら


「なんかね、真実を見る事が出来る、とか言っていた様な気がする。それで、私もひいじいちゃんも従兄弟のまーちゃんも、その”見通す眼”を持っているらしいのね。だから狙われる代わりに、相手が”オチタモノ”や”ハザマノモノ”かを見分ける事が出来る、らしいのよ。”見通す眼”さえ持っていれば、あいつ等の事、いくら上手に擬態していたって、まあ、双方のレベル次第とは言っていたけど、一目見れば分かるんだって。えっと、確か、”こいつ等敵だ””危険だ”とか、本能的に分かるはず、らしいのよ。私は感じた事が無いから、何とも言えないんだけどね……」


 リーナの話を聞いていて、思い当たる事があり、大いに慌てる。


「あの、あのね、その”オチタモノ”か”ハザマノモノ”かは分からないけれど、”敵だ”って、何故か思った相手はいるよ!」


 私の言葉に、リーナは目を見開く。


「え!? どこで? 私、会った事あるかな!?」


 それに、思い出しつつ答える。


「あのね、幻獣の森に、私達が幻獣を得ようとした時に事件が起こったのは聞いているのよね?」


 リーナは肯く。


「ええ。勿論……もしかして、その時?」


 私、記憶をたどりながら


「そうなの。その事件の時に現れた存在を、私、何故か”相容れない存在だ””敵だ”って思ったのよ……私に、”見通す眼”があるのなら、の話だけれど……」


 自信が無くなって、声が段々小さくなる。


「だって、こう、心の奥の方から”敵だ”って思ったのなら、多分、エルザも”見通す眼”、持っているのだと思う。欅の精は、どういった割合で”見通す眼”を持つ人がいるのかは言わなかったけれど、瑠美は、色々能力持ちなんだし、もしかしたら、そういう人は”見通す眼”を持っているものなのかもしれない。少なくとも、私はエルザの感覚を信じるよ」


 私を励ます様に、微笑んで言ってくれるリーナに心が温かくなる。


「ありがとう、リーナ。うん、そうだね。それなら、今度そういう感覚がする相手が居たら、それは”オチタモノ”か”ハザマノモノ”という事になるのかもしれない」


 自信が無い私だが、リーナが信じてくれるのなら、ちょっとは自分を信じてみよう。

 そう思い、何とか笑顔で答える事が出来た。

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