第55話

 お弁当箱の専門店に到着し、色々見て回っている。

 ルーのお弁当箱は、外側が黒漆で、中が赤い漆の弁当箱にしようかと悩み中。


「ねえ、フリード。男の子って沢山食べる印象なのだけれど、ルーも沢山食べるのかな……?」


 私の問いに、フリードは思案顔。


「そうだな……確かに食べるかもしれぬ。この大きさであれば、大丈夫ではないか?」


 フリードが手にしたのは、色合いは私が良いと思っていた、黒と赤の漆塗りの物で、二段構成のちょっと大きめのお弁当箱。


「ああ、下にご飯とかパンとか詰めたら良いかな……これって、値は張るけれど、空間収納になっているものだよね。普通の空間収納系の物と違って、見た目と同じだけの容量を詰めても、普通の空間収納みたいに消えないで普通のお弁当箱みたいに見えるけれど、空間収納ではあるから詰めたての状態のまま保存できるっていうお弁当箱だね。うん、色合いもルーに合うし、これにしよう」


 私が肯いていたら、フリードも肯く。


「そうだな。ルディアスに良さそうだと思う。ならば、ルディアスの分はこれで良いか」


 私は一緒に並べてある、同じシリーズのスープジャーも手に取る。


「これも一緒にしようと思うの。あのね、私、一汁三菜に、お漬物かピクルス、もしくは副菜にするかはケースバイケースでサラダっていうのが、食事として良いと思っていて、だから、スープジャーは必須かなと」


 フリードは心配そうに


「確かに何か汁物があれば嬉しいとは思う。だが、大変ではないか?」


 首を傾げながら考える。


「そう? 味噌汁の場合だと、旨味と栄養面から、煮干しと昆布、入れる場合は入れるかつお節を、細かく砕いて粉状にして、それを水から煮出したらそれで簡単出汁は完成するし、他の鶏ガラとか野菜でとる出汁は、前もって作り置きしておけば良いし、ポタージュ類なら、野菜は煮るだけに煮ちゃって作り置きして、詰める時に牛乳か豆乳入れて塩コショウで味を整えれば良いだけだから、それ程難しくもないし……」


 フリードは不思議そうに


「そういうものか?」


 私は力強く肯く。


「そういうものよ。大体、手間暇かかると言う点なら、デミグラスとか、ダブルコンソメとかの方がかかるしね。あれは何日にも渡る作業だから。それでも自家製は自分好みに出来るし、ダブルコンソメとか病気の時に直接飲んでも、ベースに使っても、栄養たっぷりだから元気になる気がするしでとても好き。作るのは大変でも、それはそれで私は作るのも飲むのも好きよ。それに、パストラミとか、ベーコンみたいな保存食も手作りしようかなと」


 フリードは目を丸くしている。


「エルザはそれ等も手作りするのか? 機会があれば、エルザが作ったデミグラスを使った料理や、ダブルコンソメも飲んでみたいとは思う。ああ、寮に大型の獣も大丈夫な解体場と、大型の燻製室もあったか。 それも楽しみだ」


 フリードの言葉に、嬉しくなる。


「本当? 嬉しいな。素人の趣味みたいなものだから、プロにはとても敵わないけれど、それでも喜んでもらえたら良いなって思う。時間がある時じゃないと難しいから、連休とか、長期休暇中じゃないと難しいかもしれないわ。それでも良い……?」


 私の言葉に、フリードは嬉しそうに微笑む。


「ああ、それで構わない。ありがとう、エルザ。楽しみにしている」


 そう言われると、心がポカポカとする。

 前世から、なるべく全て手作りにするのが趣味だったのだ。

 喜んでもらえるなんて、本当に嬉しい。



 季節になったら、ラッキョウ漬けや梅干しとかも作ろうかな……

 ああ、やっぱり季節のジャム、これは作ろう。

 花の砂糖漬けとかも良いな。

 花の砂糖漬けは食べると甘くて良い香りがして、好きなのだ。

 お茶のお供に最適だとも思う。


「あ、フリードのお弁当箱、どうしようか。良いなって思うの、ある?」


 照れ隠しに足早に歩きながら店内を見回す。


「そうだな……」


 フリードは、ルーに選んだもの周辺を見ている。

 その辺りの物は、どれも高級品ではあるが、どれも良さそうな一品ばかりだ。



 フリードもシンプルな物が好きなのだが、どこかにワンポイントがある物が特に好きだった気がした。

 金蒔絵か螺鈿の、ちょっとした飾りがあったら良さそうだなぁと思い、それ等を重点的に私は見ていて、目に留まった品がある。


「あ、これはどう?」


 手に取ったのは、黒の漆器で、ワンポイントに螺鈿と沈金の牡丹が描かれている、シンプルで品がありながら華やかな感じがフリードにピッタリに思える品。


「……ふむ。良いな。これにしよう」


 フリードも気に入ってくれた様で、即決である。


「なら、同じシリーズのスープジャーも追加で。あ、私はお弁当箱、どうしようかな……」


 私までお弁当箱にするのもどうかとは思ったが、レストランでもお弁当を摂っても問題は無かったと思い出す。

 リーナと一緒にいつも昼食は摂っているが、私がお弁当でも良いかもしれない。


「これなどどうだ?」


 フリードが示してくれたのは、白い漆器に、桜の花弁が蒔絵で描かれた物だった。


「あ、良いかも! 桜、好きだし、白い漆器って面白いね。うん、これにする」


 私も即決である。

 可愛らしいし、蒔絵も素敵だ。

 大きさも、私には手ごろで二段重ね。

 これなら下にご飯類やパンやパスタも入れられるだろう。


「ならば、スープジャーも、だな」


 フリードが、同シリーズのスープジャーも手に取ってくれていた。


「あ、同じシリーズの箸も揃えた方が良いかな。それに、ちょっと小さめの容器も欲しいかも。それもルーの分と、フリードの分、そして私の分、っと」


 慌てて其々の箸と小さめの容器を持ってきて、この店での買い物は終了である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る