第56話
様々な食材の揃う、どうやら高級な店に到着し、店内を物色中。
気になるのは、フリードの視線だ。
どうやら、私の頭の方を見ているようなのだが……
うん、難しく考えず、訊いてしまおう。
「フリード、私の頭、どうかした?」
フリードは罰が悪そうに、
「その、だな。エルザのしているカチューシャだが、私が以前贈った物の様だと思って、気になってしまってな……」
その言葉に、思わず笑みが漏れる。
「その通りよ。フリードから前に誕生日プレゼントで貰った物。ミスリル製の製品って便利よね。大きくなっても魔力を通せば簡単に調整できるし。このカチューシャ、侍女達も私に似合うって褒めてくれるのよ。私も気に入っているから、良く身に付けているわ」
フリードが学校に入学する準備の前年に貰ったから、フリードは私が身に付けているのを見るのは初めてかもしれないと思い至る。
「それは良かった。贈りがいがあるという物だ。確かに、良く似合っている、と思うのだが……大丈夫か……?」
不安そうなフリードに、微笑んだ。
「大丈夫。フリードに褒められるのは嫌じゃないって言ったでしょう? 侍女達も悪気は無くて、純粋に褒めてくれているって分かるから、うん、大丈夫なの」
私の言葉に、フリードはホッとした顔をする。
「それを聞いて、安心した。エルザの心を傷つける様な真似はしたくはない。だが、純粋にエルザを褒めたいとも思う。どうすればエルザに最も良いのか、悩み処だな……」
フリード、私を案じてくれているのが本当に嬉しいのだが、同時に心苦しくもある。
私なんかに、心を砕かなくても良いと思うのだ。
フリードは色々大変なのだから、これ以上の心労を与える様な真似はしたくはない。
「心配しないで。信頼できる人達に褒められるのは、納得できるから、平気。これは、何というか、自分でも色々難しくて……だから、大丈夫」
そう、酷く根深い問題だ。
前世から続く問題。
転生する時に、記憶が真っ新に成って生まれてくるって、すごく大事なのだと実感する。
「ねえ、フリードは、お弁当に何か必ず容れて欲しい物って、ある?」
まだ心配そうなフリードに、明るく別の話題をふってみる。
「……そうだな。肉類と、卵焼きは必ず容れて欲しい所だ。これはルディアスも同様だな」
こう、打って変わった真剣さに、多少驚きつつ
「え? 肉類と卵焼き? 肉類って、あの、どういう? 卵焼きの好みも教えてくれると助かる」
フリードは、とても真面目な顔で
「肉類ならば特に種類は問わぬ。ただ、偶に肉らしい肉は食したいと思う。卵焼きは、エルザの卵焼きが良い。ルディアスも全て同様だ」
ああ、そういえば、フリードもルーも、肉類って好きだった気がする。
アンド程ではなかった気がしたが、かなり肉好きだったのか……
「肉らしい肉って、塊肉? スペアリブとか、ステーキとか、角煮も大丈夫?」
フリードは、満足げに肯く。
「うむ。それで良い。食べ応えのある、肉がたまに食したいのだ。塊肉は、好きだな。ステーキも問題は無い。スペアリブは良いな。角煮も好きだ」
重複する答えを言う位には、好きらしいと認識した。
「あの、卵焼き、私の卵焼きって、私が好きな卵焼きで良いの?」
卵焼きがゲシュタルト崩壊しそうだが、訊ねる。
「ああ、エルザの好きな卵焼きで良い」
真面目な表情に面くらいながら確認。
「でも、私の卵焼き、甘いよ? 二人共大丈夫……?」
甘々ふわふわで厚めな卵焼き、が昔から好きで、私の作る卵焼きはそれなのだ。
「以前、どの様な卵焼きが良いかという話になったおり、エルザが作ってきた卵焼きが特に気に入ったのだ。ルディアスは、エルザ好みの卵焼きならば、特に否やは無いとの事だ。むしろ、エルザの好きな卵焼きでなければ嫌だと」
記憶を遡り、思い出す。
そうだ、ルー、エド、アンドが学校の入学準備に入る前年に、卵焼き論争が起こって、其々が好きな卵焼きを持ち寄ったのだ。
それで、私は自作の卵焼きを持参したのである。
「そういえば、フリードの持ってきた卵焼きも甘めだったわね。でも、私好みので良いの……?」
不安で訊いてみれば、フリードは微笑んだ。
「エルザ好みの物が、私には一番合っていると思った。実に美味だったからな。ルディアスの場合は、エルザ好みだから問題は無い、との事だ。故に、自信を持って弁当に詰めてくれると嬉しい」
綺麗な、見惚れるしかない微笑みなのだが、言っている事がお弁当の具材というのは、如何なものかとちょっと思う。
「了解。なら、一品は卵焼き決定、っと。それだと、他の卵料理は容れられないわね……」
悩みだした私に、
「他の卵料理があるのならば、卵焼きは容れずとも大丈夫だ。そこはエルザに任せる」
フリードが真面目に答えてくれるので、一安心。
「良かった。オムレツとか、煮卵類とかも容れたいなって思ったから。他にピクルス液に付けた茹で卵類とか、卵黄を味噌漬けとか醤油漬け、塩麹漬けにしたのも美味しいから、容れたいし。空間収納なら痛まないだろうから、色々幅が広がって嬉しいな。あ、今挙げたので、嫌なのある?」
フリードは、勢いよく首を振る。
「無い。どれも美味しそうだと思う。楽しみだ」
それを聞いて一安心。
ただ、まだ不安な事を聞いてみる。
「二人共、特にさっき挙げた肉類と卵焼き以外の好き嫌いって無かったような気がしたけれど、何かダメな物とか、嫌な物、ある? 一応、デザートは果物にしようかなと思っているけれど、果物以外で食べたいデザートとかもあるかな?」
フリードは悩みだし、
「肉類と卵焼き以外は特に無いな。ただ、デザートは、以前エルザが作った、チョコレートムースやパンナコッタ、ヨーグルトケーキは食べたいと思う。ルディアスも同様だな」
「分かったわ。果物以外のそれ等も容れたりするね。後、何かリクエストはある?」
フリードは思案顔に成ってから、肯く。
「後は大丈夫だ。色々と注文ばかり多くてすまぬ。どうも、かなり浮かれているらしいのは自覚があるのだが……」
肩を落とすフリード。
「大丈夫よ。これ位なら問題は無いわ。嫌な物を容れたくはないし、かといって栄養バランスを考えなくちゃって思うから、きちんと教えてくれると助かります。期待に添える様に頑張るね」
私がそう答えて微笑んだら、フリードも安堵した様に微笑んだ。
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