第47話
二人で顔を見合わせ沈黙。
そう、この世界が、誰かの意図によって生まれたのならば、干渉している存在は、一体、どこの誰なのだろう……?
「ねえ――――」
『エルザ!!』
「キュウ!!」
リーナが何か言いかけた時、唐突にアデラの声がして、ルチルと一緒に私に突撃してきた。
ぶつかる寸前に急停止し、心配そうに私を見る。
『エルザ、起きていて大丈夫なの!? まだ横になっていた方が良いんじゃ……」
「キュウ、キュウ、キュウ!」
ワタワタしているアデラとルチルに、笑みが漏れる。
「大丈夫よ。本当ならもうベッドから出ても良いらしいけれど、念のために今日も授業休む様に言われたのだし。明日は、無理をしなければ学校外に外出しても良いって言われたわよ」
私の説明に、それでも心配らしいアデラとルチル。
『でも、起き上がっているのは、本当に、大丈夫?』
「キュウ」
今の私の状態は、リーナと話やすい様に、侍女達がベッドにクッションを重ねて起き上がれるようにしてもらっている状態だ。
「寄り掛かれるから、苦しくもないし、楽よ。だから、大丈夫」
隣の部屋で寝ていたはずのアデラとルチルだが、心配になって見に来てくれたみたいなのだけれど、彼女達もずっと寝ていたので、こちらとしては心配だったりする。
「アデラもルチルも、大丈夫? そちらこそ、何か問題は無い?」
私の問いに、アデラもルチルも首を振る。
『問題は無いわ。ちょっと眠たい位』
そのアデラの言葉に、ルチルも肯いているので、一安心と言えば、一安心。
「――――さっきまでの話題は、また今度ね。私も色々考えてみるわ。それじゃあ、エルザが休んでいる間の、学校内の事でも話しましょうか」
リーナの苦笑しつつの言葉に
「ごめんなさい、リーナ。そうしてもらえると助かるわ。ありがとう。でも学校内の出来事は、ある程度ユーディに聞いたわよ……?」
私が首を傾げていると、リーナは何とも言えず、複雑な表情。
「ユーディ様は、大まかな学校の様子を話すと言う事になっていたの。それで、私がエリザベート関連。エルザの体調を見て、って事になっていたのよ。ユーディ様もやっぱりエリザベートの事は気にしているのよね。でも、自分でエリザベート関連をエルザに言うのは、ちょっと複雑、と言うか、身内の恥を晒すようで辛いのだと思う。それに、エルザに合わせる顔が無い、的な感じ」
リーナの言葉に、首を傾げる。
「身内?」
私の言葉に、リーナは呆れ顔。
「ユーディ様とエリザベートの母親は姉妹でしょ。エリザベートの母親が姉で、ユーディ様の母親が妹。同じブラウンシュヴァイク公爵家の出身。だから、ユーディ様にとって、エリザベートは、フリードリヒ殿下と同様に、従姉妹」
噛んで含める様な言葉に、自己嫌悪。
「そうだよね……ユーディに聞いていたのに、フリードの従姉妹って頭しかなかった……ユーディにとっても、彼女は、従姉妹、か……」
リーナは難しい顔。
「一応、従姉妹だから、身内と言う事で、ユーディ様がエリザベート関連に関わるのは、私達が関わるよりは、大丈夫、らしいのよね。それで、ユーディ様はそれとなく人を使って、エリザベートを学校内で見張っていらっしゃる状態な訳。これを、皇族であるルディアス殿下やフリードリヒ殿下がなさったら問題だけど、ユーディ様だと、問題は無い、らしいの。ただ、何というか、ユーディ様も、幼い頃からエリザベートに煮え湯を飲まされていらしたから、こう、色々複雑みたいね」
身内だから、逆に辛い、という事もあるのかもしれない。
遠縁ではあるけれど、我が家も親戚ではあるから、お父様達も大変みたいだし……
そう、前世でも、色々あった。
それも、身内だったからこそ、だと思う。
「まあ、貴族なんて、近い身分なら大抵血は繋がっている様な物だけどね。それでも、血が近いと、やっぱり難しいよ……」
リーナも思案顔。
何か思う事がある様な感じだ。
リーナもどうやら、前世では色々遭った様だからなぁ……
「あ、それで、エリザベート関連の話題ね。彼女、エルザがいないからかもしれないけれど、食事のたびにフリードリヒ殿下に接触してきて、もう、大変。色んな貴族や士爵、騎士家の子とかが間に入って、エリザベートの意識がフリードリヒ殿下からそれたら、ルディアス殿下がフリードリヒ殿下を連れて逃亡、って感じだね。だからお二人共食事が碌に摂れなくて大変だと思う。でも下手に相手すると、どうとばっちりが来るか分からないじゃない? だから関わらないのが一番、って事で、こういう感じ。昼食なんかもテイクアウトで済まして、極力顔を合わせない様になさっていらっしゃるわ」
リーナの言葉に、思わず、顔が強張る。
「ルーや、フリードは大丈夫なの……? 食事も摂れないなんて……皆も、大変だったのね……他の貴族や士爵や、騎士家の子達も、協力してくれているのはありがたいわね」
リーナも肯く。
そして、顔を顰めつつ
「両殿下は、まあ、今の所は大丈夫。カイザー様じゃないけれど、お二人共頑丈だし。私達はまだ良いのよ。何とかなるわ。他の皆も、両殿下に何かしたい、お力に成りたいって頑張っているみたいね――――それで、何というか、学校に通っている人達が、共通でね、こう、陛下に対して、思う所が出てきちゃってる感じなのよね……」
その言葉に、驚いてしまう。
「もう、それ程、不満が高まっている感じ、なの……?」
私の言葉に、リーナは重々しく肯く。
「もうっていうけれど、こう毎日続けばね……それに元々エリザベートに対しては、貴族や士爵達は色々あったり見たり聞いたりしていた訳じゃない? だから、根っこに不満は既に在った訳よ。エドがどうも火消しと言うか、何かしているみたいだから、沈静化はするかもしれないけどね」
そうか、エドが……
エド、大丈夫かな……無理していないと良いけれど……
そう思っていたら、ドアがコンコンと鳴る。
「はい、どうぞ」
そして、侍女の中でも背が高くがっちりとしたグネルが入って来た。
「エルザ様。そろそろお休みになられてはいかがですか? あまり長時間起きておられてはお疲れでしょう」
それを聞いて、リーナもしたり顔。
「確かにそうですね。随分話しこんでしまいました。それでは、エルザ様、失礼致しますね」
立ち上がったリーナに、笑顔でお礼を言う。
「ありがとう、リーナ。来てくれて嬉しかった。色々考えなくてはいけない話も聞けて、助かったわ」
それにリーナは苦笑する。
「病床の相手にどうかとは思ったけれど、それでも知らずに登校するのとでは違うと思ってね。あ、そうだ、明日の朝は一緒に食事摂れるの?」
「ああ、明日の朝も、一応、部屋で摂る様に言われているから……ごめんなさい」
私が答えると、リーナは微笑みながら
「気にしないで。確かに、病み上がりに何かあったら大変だものね。それでは、お大事に」
リーナの後ろ姿を見つつ、思う。
私が登校しだしたら、エリザベートの行動も変わるのだろうか……?
それが良い変化ならば良いが、悪い方向へと変わるのなら、どうしたら……
思考が、暗い方へと流れていくのを、止められなかった。
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