第46話

「はい!?」


 貴族令嬢らしからぬ素っ頓狂なリーナの言葉に、自分も突然言われたらそうだろうなと思いつつ、話を続ける。


「驚くのは尤だと思う。でも、ねえ、リーナ。ちょっとただ休んでいるのもどうかと思って、考えていた事があるの。続けて良い?」


 私の真剣な様子に、リーナも椅子に座りながら背筋を伸ばし、私を見る。


「――――ええ、勿論。それで、何?」


 リーナの言葉を受けて、私がリーナにこの世界の事を聞いてから、色々思っていた事を言葉にしてみる。


「うん、あのね。ゲームの世界、というのが、納得出来ない、と思ったの。ゲーム通りのエルザが居たかもしれないと思いたくないだけかもしれない。でも、人間が作った世界に人間が入り込む、というのは、何だかしっくり来なくて、それなら、ゲームに似た世界なのだろう、と思ったの。でも、それだと余計に混乱してしまって……けれど、ゲームの中に入ったのだとは、到底思えない。皆、プログラム通りではなく、きちんと命が有る、と思えるから。それで考えてみたの。ゲームの為に創作され、設定された世界に、たまたま元々在った世界が似るっていうのは、分かるの。でも、この世界に在るモノって、その、元居た世界と同じ過ぎない……?」


 首を傾げるリーナ。


「どういう事?」


 その問いに、この世界に生まれてから、疑問に感じていた事を列挙する。


「だからね、例えば調味料、とか、宝石や鉱物類の大半、だったり、動植物の種類に昆虫類、幻獣の種類とか、かな。幻獣の種類は、前世の世界の伝説や神話に出てくるのと似ている姿が多い様な気がする。これって、おかしくない?」


 私の問いかけに、リーナは眉根を寄せる。


「……ええと、どこがおかしいの?」


 私は、このもどかしい感じをどう伝えたら良いのか悩みつつ、それでも言葉を続ける。


「――――うん、その、ね。前世の私達の生まれ育った国で、ゲームの中のモノとして設定されていた世界だとするなら、調味料や食材、料理とか伝説や神話の生き物が同じでも分かるの。前世でそういうゲームや話もあったし、知っていたから……それで、この世界は、元居た世界と似すぎていて、まるで……前世の世界の私達が育った国で作られた、【月華のラビリンス】というゲームを元にして創られた世界みたいだな、って、思ったの」


 難しい顔で首を傾げるリーナ。


「……うん……?」


 私もこんがらがりそうに成りながら、それでも続ける。


「元々在ったこの世界に、たまたま似ている前世の世界のゲームなのだろうとは思っていたし、可能性としてはちょっとは考えていたのだけれど、それにしてはゲームに似すぎていると思うの。まず前提として、この世界が、ゲーム内の世界じゃない、というのがあるのね。それで、ゲームの設定と世界が似るのは、まだ分かる――――でも、それにしては登場人物の容姿や名前まで似すぎているのは、いくらなんでもおかしくない? ……ねえ、この世界は、どうやって産まれたの……?」


 私の問いかけに、カチンコチンと固まるリーナ。


「……あのね、世界が無数に在るって習ったし、カイザーもエーデルも幻獣達はそうだと言う。それに私達は、少なくとも、今居る世界とは違う世界に生きていた。だから、誰かの想像した世界と、無数に在るという世界の中のどれかが似通うのは分かるの。例えば植生とか動物、昆虫類とか、鉱物等ね――――でも、その創作されたゲームの登場人物と、同じ名前、同じ容姿、似た性格、大まかな身分が似ているのは、あまりにもおかしくないかなって思うの……偶然とは思えない。何らかの、誰かの意思が働いているんじゃないかって考えるのは、それ程間違っていないと思うけれど、どうかな……?」


 続けた私の言葉にも、固まったままのリーナ。


「世界によっても違うらしいけれど、少なくとも今居る世界の中にも私達の前世の世界と同じ様に銀河が沢山在って、銀河の中に星系が無数に在って、そして星系の中に惑星が幾つも在る訳じゃない?  それで、私達が今居る場所も、世界の中に無数に在る惑星の一つな訳でしょう? そういう世界ばかりとも限らないらしいけれど、世界も無数に在って、更にその中で人が存在する惑星とかも沢山在るかもしれないというのは、想像できるの。だから、今私達が居る場所の諸々と、【月華のラビリンス】というゲームの中の世界の在り方が、たまたま似るのは分かるけれど、ゲームの登場人物の身分や容姿、性格、名前まで一緒なのは、何かの作為を感じてしまうの……名前だって、上手く言えないけれど、日本語に訳したらそういう発音って感じだけどね、言語も元居た世界と全く違うのに、前世居た国の、 同じ名前の発音って、そんなの、おかし過ぎる……!」


 リーナは、なんとか解凍された様だが、それでも悪夢でも視た様に青ざめ


「……考え過ぎ、じゃない……?」


 それに、私なりに思った事を告げる。


「だって、考えてみて。前世の世界でも、確かに創作物は無数に在った。なら、無数に在る世界のどれかと、想像された世界が似るのは、分かる。けれど、前世の世界の人に想像された世界の、主要な舞台となる国と似た国に生まれる確率って、どれ位? 更に言えば、その前世の世界の、ゲームを始めとした創作物の登場人物と、容姿や名前、性格、身分が同じ確率は? もっと言えば、その創作物の登場人物と似通った人が、全員、創作物と似通った年齢で、尚且つ、同じ場所に存在する確率は……? そう、そして、例え名前が創作物に無かったとしても、全ての条件が整った登場人物と出会いやすい、近しい立場を得られる確率を想像すれば、それこそ、何かの、誰かの意図が無いのなら、有り得ないと思わない……?」


 リーナは、目を閉じ、眉間を揉み解しながら、ブツブツと独りごちる。


「うん。そう。確かに。考えれば、考える程、不自然。もう一人は置いておいて。たかが人間の創作物の中に、同じ人間が入るなんて芸当、あり得ない。なら、ここは、どこかの、現実の、別世界な訳だ。兎に角、だって、そんなとんでもない確率のなのに、何故か、同じ世界の、同じ国の、死んだ時は違うけれど、生まれた年齢が近い二人が、同じ年齢で、尚且つ二人も立場上、どうしたって出会いやすい環境で、しかも、二人そろって記憶アリで転生……? 有り得ない。うん。有り得ない。私、たまたま記憶を思い出した転生者の小説読んでたって、何らかの意図を想像して楽しめなかったじゃない。うん。私や瑠美の状況、これこそ誰かの思惑が働いていたとしても不思議じゃない、というか、そうとしか思えない……!」


 目を開けて、思案顔のリーナに不安で訊ねた。


「あの、この世界が、前世の世界と似すぎていて不自然だっていうのも、創作物とあまりに同じでおかしいという私の意見も、おかしくないよね……?」


 リーナも力強く肯く。


「勿論。私もそうだと思う。あまりにも前世で転生物の小説を読み過ぎていたから、いざ自分が転生しても、ゲーム通りの事に違和感が無かったけど、確かに変だよね。全部似てるなんて、明らかに変すぎる!」


 リーナに肯き返す。


「うん。ゲーム通りっていうのは、おかし過ぎる。そして、この世界が、魔法の事とかを抜きにして前世の世界と色々似ているのも、確かに変なのだと思う。そう、前世の、同じ国の、誰かの創作物の世界みたいで、不自然」


 リーナはこめかみを揉みながら、


「この世界がどうやって出来たのかも謎だけど、なら、この世界に干渉しているっていう存在は、何なんだろう……?」


 その声が、不気味な程、部屋に響き渡った。

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