第29話

 夕食と朝食も何ら問題は起こらず、拍子抜けしつつ授業へと向かう。



 昨日の驚いた事は、ディルもシューもロタールも、久しぶりに会ったら美形度が跳ね上がっていた事だろうか。

 本当に驚いたのだ。

 一年も会わないと、やっぱり違うなぁ。

 ディルは二年ぶりだけれど、本当に驚いてしまう。

 イザークも結構違ったが、顔立ちとか髪や瞳の色で見分けできるから、間違わずに済んだのは良かった。



 ルーやアンド、エドとは四年ぶりだから、逆にこれだけ変わったのかと納得できる感じなのだが、一年で、となると驚く。

 一年、二年会わないぐらいなら、そうそう誰か分からないという事もないのだが、四年や三年も経つと、かなり戸惑ったりする。



 それでも長年一緒にいた友人達だから、一目見れば誰かは分かるのは助かるかな。

 戸惑いはあれど、面影を探すのは容易だから、問題はない、と思う。

 声が変わりすぎていて、男の子相手だとかなり驚くのは確かなのだが。

 それでも皆の特徴は改めて脳内に記憶したから、大丈夫、なはず。





 魔法の授業中は、私は基本的に別メニューだ。

 何せ魔力が無いので、銃を使うのでない限りいても仕方がないのである。



 皆が魔法の授業中は、私の異能力を伸ばす授業を受ける事になっているので、担当の教官も違うのだ。



 私の担当の教官は、私が所属する教室の担当教官でもある人で、黒い髪に深緑の瞳の、ぼんやりと眠そうでありがならもの凄く容姿の整った男性だ。

 名前は、ヨハネス・ファイヤータークというらしい。



 私は、ファイヤーターク教官と呼ぶと長いだろうから、この授業中はヨハネ教官で良いらしいのだ。

 それで良いのだろうかと不安になるが、本人は問題ないと言うので、ヨハネ教官で落ち着いた。

 ただ、朝のホームルーム等でもヨハネ教官呼びしそうで、戦々恐々としているのだが……


「エルザの異能力は、無効化、だったな?」


 ヨハネ教官と二人っきりの授業中、名前の下りが終わったら、即座に訊かれた。


「はい、そうです」


 教官は何か眉根を寄せて悩んでから、


「うん、やっぱり何度思い返しても記憶にない能力だな。今まで発現したのは貴方一人だろう。だとすると、一般的な干渉系の異能力の使い方を教えることになる。細かな所は自分で考えて覚えるしかないが、大丈夫か?」


 ああ、そうなのか。

 この能力って珍しいのだと改めて認識。


「それは、出来得る限り、頑張ります」


 私の決意した声に、教官は眠たそうな顔ながら、肯く。


「うん。無理しない程度にやっていこう。エルザは魔力無しだからな。他の者とは色々違ってもくるのだろうから、考え考え進むのが一番だ。異能力系は、魔力よりも生命力を引き出しやすいらしく、簡単に生命力が枯渇して死にかねないから、常に注意を払う必要がある。これは一番大事だ。特に魔力の無いエルザは、即、生命力を使用しかねない。いつも自分の状態を把握しておく必要がある」


 教官がぼんやりとな眼差しを、きつくして言った言葉を胸に刻む。

 そうか、ディート先生も魔導結晶は切らすなと口を酸っぱくして言っていた。

 普通の異能力がある人でも生命力を使いやすいのに、私は魔力が無いから、生命力を普通以上に使ってしまうのだろう。

 枷が外れた状態からは随分良くなったらしいが、それでもリミッターが外れた状態ではあるらしく、私の力は結構不安定なのだ。

 気を付けなければと、改めて思う。


「リミッターが外れていて、掛け直そうにも完全には嵌らなかったとは聞いている。常に少量の力だけを流し込む様なイメージで行くしかないな」


 教官の言葉に、即座に肯く。


「はい!」


 教官は私の言葉に肯いてから、ちょっと思案顔になって


「うん、取りあえず、質問を受け付ける。何か聞きたい事はあるか?」


 教官の言葉に、ちょっと悩む。

 聞きたい事、か……


「あの、ヨハネ教官も異能力があるのだと伺いました。どの様な能力か伺っても?」


 純粋な興味だ。

 やっぱり、異能力が無い人は、異能力が有る人には教えられないとかで、ヨハネ教官も異能力持ちらしいから、気になってしまった。

 私が自分以外で知っている異能力者は、ルーとフリードだけだから、他の能力者の能力はやっぱりどうなのかと思ってしまう。


「ああ、私の能力か。『吸収』だな。自分以外の魔力や生命力を奪う力だ」


 何でもない調子で言うのだが、とても凄い力に思える。


「あの、教官みたいな力は珍しいのですか?」


 ディート先生は、自分を強化する能力者はそれなりにいると言っていた、と思う。

 ヨハネ教官の能力は、自己強化ではなく、他人から奪うものだから、珍しい、とは思うのだが……


「そうだな、珍しい部類だ。他人に何らかの干渉をする能力は貴重だからな。皇族を始め、異能力者は数が少ない。特に自分以外へ干渉する能力の持ち主は希少だ。異能力者自体少ないが、自己強化系の能力はそう珍しいものでもない。だが、魔法以外で、他人へと何らかの影響を与える能力は得難い物だ。エルザも自分を大事にな」


 そうか、やっぱり珍しいのだ。

 異能力者自体珍しいと言うのなら、ちょっと疑問。


「あの、もしかして、クラスで異能力があるのは私だけなのですか?」


 教官は眠そうな目を呆れた様にして


「お前な。何を聞いていた。異能力者自体珍しいんだ。その中でも干渉系は更に貴重。クラスどころか、学年で異能力を持っているのはエルザだけだ。更に言えば、干渉系の能力を持っているのは、全学年で皇族方を除けばエルザだけだ」


 思わず沈黙。

 私が思っている以上に、私の力は貴重品であるらしい。



 これは、かなり気合を入れなくてはならないと自分を鼓舞して、これからの授業に臨もうと決意せざるを得なかった。

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