第2話

 ようやく舞踏会へと出陣する準備が整った。



 本日のドレスは、私の瞳の色と同じ天色という鮮やかな青から、深い落ち着いた青のグラデーションに移り変わる物である。

 飾りとしてルチルと同じ色でもありアデラの髪の色を使っている為、柘榴色の宝石や金糸の糸の刺繍が縫い取られた、かなり豪華な代物だ。



 どうも初めての社交界の際は色々ドレスに決め事があるので、お父様を始め家族全員と、上位の使用人全員と、侍女達で色々話し合ったのである。



 決め事一。

 婚約者がいる際は、婚約者の瞳の色か髪の色のドレスにすべし。



 私の場合、ルディかフリードリヒのどちらかなのは確定だが一人には決まっていないので、二人の瞳の色か髪の色のドレスは却下との事で、無難に私の瞳の色になった。

 青は皇族の瞳の色でもあるから、未来の皇族の花嫁には相応しい、との事だ。



 決め事二。

 ドレスか装飾品のどこか一部でも良いので、誓約している幻獣か妖精の纏う色か瞳の色の物を何かいれるべし。



 なので私のドレスには、ルチルの身体の色でもありアデラの髪の色でもある金の刺繍をし、ドラゴンのルチルの瞳の色の宝石を使う事になったのである。

 それにプラスして、私の装飾品は赤系で纏められた。



 私のいつも身に付けている、ルディとフリードに貰ったペンダントや、私の魔力代わりに使う異能力用のブレスレットは、ブレスレット型の空間収納に格納である。

 この空間収納も赤系で、髪飾りやネックレス、イヤリングとセットなので、統一感がある。



 宝石を繋ぐのはオリハルコンという希少金属。

 この金属は、魔力を高めたり、破邪の効果や防御能力等、色々な効果がある優れものだ。

 しかも特に男性と相性が良く、これは素晴らしく強力でもあり、皇族が身に付けている事が多いらしい。

 皇族を象徴したり、太陽や光の象徴になっていたりと、特別な金属である。



 本来女性と相性の良い金属はミスリルで、月や癒し、その他に我が一族を象徴する事もあるらしい。

 だから私が身に着けるならミスリルが妥当らしいけれど、皇妃になるのは私であるというのを誇示する為にオリハルコンになったという。



 居た堪れないが、家族で相談した結果だというのだからと言い聞かせる。



 男女どちらにも相性が良いのはアダマンタイトやヒヒイロカネだという。

 アダマンタイトは夜や闇の象徴になったりもするが兎に角凄い金属だと覚えている。

 ヒヒイロカネは火や熱を象徴し、これまた凄いのだとしか覚えていない。



 これらの金属は帝国内でしか産出されない、とても特別で強力な物で、兵器転用もされているとか。

 学校で詳しく習うのだとは聞いているので、しっかり覚えないと。





 私は舞踏会へはかなりゆっくりに行く事が決められている。

 基本的に在校生以外は、身分が低い程早く会場入りしなくては成らないからだ。



 本年の新入生で、私以上の身分の人間はいない。

 だから実質最後に入場推奨なのである。



 これが一年違ったらフリードの兄妹がいたのだが、その皇子も皇女も私の一つ下の双子だから、今年は関係ないしね。



 フリードの弟のマクシミリアンは何というか引っ込み思案で常にオドオドしているのも手伝って、とても心配で放って置けないタイプだから、来年は気に掛けたいのだが、エリザベートの件があるから難しいのが悩みだ。

 妹のグラティアは気が強くて、ちょっと怖いというか、私は苦手だったり。



 二人共お茶会とかに誘っても来てくれなくて、嫌われているのかもしれないから、マクシ殿下やティア殿下に構うのは止めた方が良いのかとも思うので、入学したら二人とはちょっと距離を置いた方がとも言われていて、考え直したりもしているのである。



 だた、私は皇妃になる事が決まっているのに、お茶会に来ないお二人の方が非難されているらしく、その事が余計に心配だし、私の立場的なものの方が二人より重要視されているとはいえ、皇族である二人とはそれなりの関係を保った方が良いだろうとも思っているから、お二方とは、仲良く、とはいかずとも、普通位にはなりたいなぁ。

 嫌われていたら難しいかもしれないけれど、頑張ってみよう。






 会場の建物へ到着する。

 しかし、建物は立派な上豪華で凄く大きい。

 帝宮程ではないが、装飾も見事で、見惚れるばかり。



 きらびやかな明りが、煌煌と照らしているのが入り口から離れた所からも分かって、密かに気合いを入れる。

 こういう華やかな場所は苦手だから、気後れしない為には、気合いしかないのである。



 扉は開け放たれているので、入るのは楽だ。

 尤も入り口にはしっかりと護衛の人達がいたりする訳だが。



 ガヤガヤと人の声も賑やかな会場に私が入場した途端、徐々に水を打った様に静かになっていく。



 あれ? 私、何かしたかな……

 それとも、格好が変なのだろうか?

 侍女達は太鼓判を押してくれたのだが……

 あれか、お世辞だったのかな……



 後から後から湧いてくる不安を表に出さないように、堂々と背筋を伸ばし、微笑みながら歩く。



 何だが皆固まっているらしく、人を避けて歩くのがちょっと大変だ。

 それでも優雅に、を合言葉に会場を進む。



 あ、ルディとフリード発見。



 ルディとフリード、だよね?

 何年かぶりに会うから、見違え過ぎて素直にビックリする。



 二人共、何というか、そこに居るだけで目も開けていられない位に眩く光輝いているかの様だった。

 天上の神もかくやと言わんばかりの美貌も磨きがかかり、直視するだけで石にでもなりそうだ。



 うん、美し過ぎるって、それだけで暴力なのだと痛感する。

 私は慣れているから大丈夫だが、普通はあれだ、視線も思考も奪われて、ただ呆然としてしまいそう。



 ルディが黒系の服装で、フリードが白銀系の服装。



 ああ、成程。

 一応、婚約者候補の私がいるから、私の髪の色や瞳の色のものはダメという話になったのだろう。



 そう、新入生に婚約者がいる場合だと、在校生も服装を色々合わせなくてはならない決まりもあるのだ。



 それで二人のどちらかとは結婚確定の私が新入生でいるのだが、まだどちらかは決められていないので、無難に幻獣の纏う色の服装となったのだろう。



 うん、決まりとかちゃんと覚えている。

 良かった、私もそれなりに成長したといえるだろう。



 そんな事を考えながら、二人の元へと歩みを進める。



 二人はまだ私に気が付いてはいない様だ。

 なら、こっそり近付いて驚かそうかな。



 二人に久しぶりに会うから嬉しくて浮かれていた私は、ワクワクしつつ歩いていたのだが、突然、前へ進めなくなる。

 何かがドレスに引っかかった様だと思った瞬間、強く背中を押され、突き飛ばされたのだ。



 体勢を崩し、転ぶ間際に、ビリっと嫌な音が周囲に響き渡ったのを確かに聞いた。

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