第49話

 ルディにもフリードにも誕生日プレゼントを贈れて満足していた。

 二人からもそれぞれお祝いをもらったので、それを眺めつつ思う。



 私達三人は、生まれた年こそ違えど、ほとんど日時は違わないのだ。

 ルディとフリードは一日違いだが、それも日を跨いだだけで実際は数時間しか違わないし、私の場合はフリードと朝方か昼間かの違いしかない位だ。



 まるで、同じ月の同じ日周辺にゴソッと置いた感が否めない。

 歳が違うのが不思議なくらいだ。



 そんな事を思っていたら、ルディから連絡が来た。

 ここ数か月連絡も出来なかったから、慌てて通信機に出る。


「ルディ?」


 私が問いかけたと同時に、ルディが映し出される。


「エルザ、久しいな。元気そうでなによりだ」


 そう言うルディは、どこか疲れている様な印象を受ける。


「ルー、大丈夫? 疲れているみたいに感じるよ? 準備大変なの?」


 心配で矢継ぎ早に訊ねた私にルディは苦笑している。


「案ずるな。問題は無い。それよりもプレゼントがすこぶる嬉しかった。これで大丈夫だ」 


 何が大丈夫なのか不安な私に、ルーは優しく微笑みかける。


「エルザを近くに感じるからな。以前の物も含めて肌身離さずに身に付ける」


 以前の物って、あれか、結晶花のお返しに贈った私の魂の色を模したブローチかな。


「私もルーにもらった結晶花のペンダント、いつも身に付けてるよ!」


 胸元から青い薔薇と白い牡丹のペンダントを取り出し見せた。


「常に身に付けているのは知っているが、ああ、実際に見ると望外の喜びだな。ありがとう、エルザ」


「どういたしまして。ルーも私のを身に付けてくれているのは嬉しいよ。それ以外のプレゼントも全部取ってあるし」


 そう、着れなくなったドレスや靴も、ルーやフリード、皆から貰った物は全部持っている。

 基本的に、プレゼントとか捨てられないのだ、私は。



 折角私の為に選んでくれたのだと思うと、どうしても捨てられない。

 前世でもそうだった。


「――――そなたが作った食べ物は全て食べる様にしているが、保存した方が良いか……」


 何故かルディがそんな事をブツブツと呟いている。


「ルー、食べ物は食べてくれた方が嬉しいよ。あ、昨日贈ったの、何か食べた?」


 私の問いに、ルディは嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、チョコレートムースを食した。ブランデーが良いな。美味だった。良い息継ぎになった故、助かった」


「それなら、また贈るよ。中々会えないし、それくらいはしたいから」


 私がそう言ったら、ルーは、何がそんなに嬉しいのか、温かな、どこか見つめられていて苦しくなる位の優しい笑顔になる。


「ありがとう、エルザ。私はやはり、其方に救われているらしい」


「ええと、こちらこそありがとう?」


 何故かそう言って首を自分で傾げてしまう。

 それ程大したことを今までルーにした覚えはないのだが、何故彼はそれ程嬉しそうなのだろう。


「相変わらず色々分かっておらぬようだな」


 クスリと笑いながら、ルーが言った言葉にまた首を傾げていた。


「――――エルザは、私やフリードを恐れぬだろう」


 ルーが、何やら真剣に言った言葉に肯く。


「うん」


 それにルーは優しく問う。


「何故だ?」


「だって、それは一種の体質とか特質みたいなモノでしょう? 足が速い人や目や耳が良い人と何が違うの? 凄いなぁと思うけれど、ルーもフリードもそういう力を持って生まれただけだし、ルーやフリードを知っているのもあるけれど、他の人だって無暗に理不尽に力を揮ったりしないって分かると思う。だから、私は怖くないし、ルーやフリードはそうなんだって丸ごと受け入れている。私にはどうして他の人が恐がるのかが分からないの。皆が怖がるのは、知らないから、なのかなぁ。それとも知る機会が無いからだとしたら、仕方がないのかもしれないけれど、寂しいね」


 そう、いつも思っている事を答えた。

 本当に、どうして他の人は二人や皇族を恐がるのだろう。

 その人自身を知らなかったとしても、皇族方の事は伝え聞いているだろうに。

 難しく考えずにそのまま受け入れれば済む話だと思うのだが……

 考えなしと言われたら、それまでではあるとは思っているが、二人を始め、皇族方を拒絶するという選択肢が私には全く無いのである。

 無暗に人を拒絶した事って無いしなぁ。

 生理的に受け付けないとかなら、それはそれで仕様がないかな、とも思うが……


「っは、あははっはははは、ははははは」


 何故かルーが爆笑した。

 こんなに大笑いしているルーは初めて見たかも。


「っすまぬ。いや、其方が相も変わらず故、笑いが止まらなかった。フリードリヒも同じに笑いの発作に襲われているぞ」


 まだどこか楽し気に生理的に出た涙を拭いつつなルーである。


「エルザの希少さは、歳を経れば経る程実感するな。故に執着も強くなるのだが……」


 希少ってあれか、レアな動物的な感じかな。

 珍しいから、二人共私に構うのかな?


「そなたはまた、どうしてそうなる、という思考になるな……まあ、あながち外れてはいないのだが……」


「え、やっぱり珍しい希少動物的な感じ、私」


 そう言ったら、ルディは微かに笑いつつ答えてくれた。


「そなたの様な存在を見つけ出すのは困難だ。砂漠で砂金を探すが如くだな。それ故に私もフリードリヒも、失えぬと躍起になる」


 良く分からない。

 うーん、二度と見つけられないと思うから、大切にする感じ、なのかなぁ。


「そなたと同じ思考の者に新たに出会ったとしても、さほど執着せぬよ。初めての存在故、特別なのだ」


 やっぱり良く分からない。

 首を傾げていると、ルディは苦笑した様だ。


「エルザ、前に言った言葉を覚えているか? 其方は良く見える、という」


 それには肯く。

 ちゃんと覚えている。


「そう、良く見えるのだ。暗闇の中の灯火といった所だろうな。故に特に意識しておらずとも見えてしまう……嫌ではないか?」


 とても深刻そうな声と表情のルーにこれまた首を傾げる。


「何故?」


「何故とは言うが、その、だな……常に監視されている様で、嫌ではないか、と思うのだが……」


「あのね、だって見られて困る事って特に私ないし……やましい事もしていないから、大丈夫かなって。それに良く見える方が掴まりやすいでしょう?」


 私が答えたら、何故かまたルーが笑い転げている。

 ……不思議だ。


「っは、本当に、其方は、愚かよな。全く、これでは、私も、フリードリヒも、元々思い切るつもりはないが、余計に悪化した」


 ええっと、何が何やら、分からんのですが……


「ああ、言質はとったぞ。視られても良いのだな?」


「え、うん、特に問題は無いと思うよ」


 私が答えたら、何やら酷くあくどい表情でルーが笑っている。



 ――――何か盛大な墓穴掘ったかな、私……

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