第39話
本日は狩りの演習の予定である。
私は雪山はまだ早いらしく、雪が降る前に狩りを初めてする事になった。
今日は快晴だ。
山は晩秋だけあって肌寒いが空が高く、風も無く気持ちが良い。
服装も狩り仕様で、厚手のパンツスタイルである。
誤って攻撃されないように、派手な揃いの上着を着用している。
どうやら、狩りの時はこういう上着を着るらしい。
前回の演習には来なかったフリードが一緒にいてくれて、嬉しい。
狩りの演習に行くと聞いてから、不安で不安で堪らなかったのだ。
フリードがいてくれて、幾分心が落ち着いたのが分かる。
そして前日には心配そうなルディが通信してきたのには、思わず笑ってしまった。
狩りの時に行けないのが、余程心残りらしい。
「大丈夫か? 顔色が悪い」
いくらか落ち着いた、と思ったのだが、集合場所でフリードに真っ先に言われてしまったのだ。
「大丈夫よ。頑張る」
強がりを言ってみたが、心は嵐もかくやと言わんばかりに荒れ模様である。
――――命を奪えるのだろうか、私に……
その思いが頭の中を駆け巡り、どうにも落ち着かない。
そしてフリードは心配そうに私を見ている。
非常に申し訳ない。
誰かに心配を掛けるのは好きではないのに、どうしたら良いのだろう……
「良し、そろったな。じゃ、フリードリヒ殿下とエルザは俺と待ち伏せ。他はクーとヒルデ、バルドもだな。後は獲物の追い立て役を頼む」
ディート先生の声がする。
「エルザは使役獣の犬を見るのは初めてか?」
ディート先生はそう言って護衛の人達が連れていた、三頭の超大型犬位ありそうな甲斐犬っぽい犬を見せてくれた。
「初めてです。大きいですね。わぁ、可愛い」
そう言って見ていたら、犬たちが近寄って来てくれて、撫でて良いよと言っている様だった。
「あの、撫でて大丈夫ですか?」
護衛の一人であり犬担当のヘルマンさんに訊いてみた。
「大丈夫ですよ……しかし、こんなに直ぐ好意を寄せる事自体が驚きです。普通は自分から近づかない上に、私以外には興味も関心も無いのですが」
犬たちは、どうやら撫でて撫でてと言っている様で、ヘルマンさんが許可を出したら私の側で尻尾を振って身を寄せてくる。
「大きいね。わぁ、良い子、良い子」
そんな事を言いながら三頭を撫でていた。
柴犬が二、甲斐犬が八で合わさった感じで、大きさは大き目の超大型犬サイズな感じな、秋田犬とも違う感じだ。
紀州犬や甲斐犬よりも大きくて、北海道犬や秋田犬よりも大きいかな。
小さい私では、大きな犬たちに一斉に寄ってこられたら、身体を踏ん張るのが一苦労だ。
しかし、何故に日本犬っぽいのだ。
尻尾も丸っとしているし……
「これだけデカくても命獣だからな、素早くて小回りも利くんだ。犬の原種に近い種だから、狩りの万能性は高いんだぞ」
ディート先生の言葉に驚きながら、犬を撫でていた。
「貴方たち、凄いのね」
そう言ったら犬たちはとても喜んでいる様だった。
「エルザは動物に好かれるのだろうか」
フリードが不思議そうに言っている。
「うーん、そうかもしれない。昔から勝手に寄ってくるの」
私の言葉に、フリードは微笑んだ。
「そうなのか。エルザらしいと、不思議と思える」
「そうかなぁ。でも、ゴキブリとか蠅みたいな虫も寄って来る時もあるの。あれは時々遠慮して欲しいと思う」
うん、前世の幼い頃、アパートに住んでいた時、ゴキブリやらハエやらネズミに集られて、泣いた事がある。
彼等に悪意が無いのは分かるのだ。
私が好きで集ってくれたのも分かるのだ。
それでも怖い物は怖いのだ。
「それは大変だな。寄って来るものに悪意は無いのか?」
フリードの言葉に考える。
「人間以外は悪意は無いと思うよ」
寄ってきた人間に、良い思い出は無い。
ただし、友達を除く、だな。
ちゃんと友達になってくれる人達は、前世も含めていたし。
今世では友達になってくれる人達が多いのは、本当に恵めれていると思う。
「人間以外は、か……」
フリードが、難しい顔で私を見る。
「どうしたの?」
「いや、分かるな、と思ったまでだ」
フリードも、何か嫌な思いをした事があるのだろうか。
「狩りは基本的にこの使役獣たちが獲物を見つけて追い立てる。俺等は風下で待機してれば良い。エルザは初めてだしな。なるべく獲りやすい獲物だと良いが、まあ、狩りはその時次第だからなぁ」
ディート先生の言葉に、同行していたバルドが
「ディートリッヒ様、害獣駆除の依頼も兼ねて、とおっしゃっておられましたが、エルザ様にはまだ早いのでは?」
「使役獣は其々独自に指示を出して動かせたな、ヘルマン?」
ディート先生がヘルマンさんに訊く。
「はい、大丈夫です」
「なら、エルザの所には危険の少ない、成るべく安全なのが行くようにしたら良いだろう。元々、ここには魔獣も令獣も出ないし猛獣も出にくいが、クマやイノシシだったら大変だしな」
クマとかイノシシ、出るんだ……
かなり怖くなった私に、フリードが声をかけた。
「大丈夫だ、エルザ。私が守る」
そう言って微笑んでくれるのを見て、ちょっと速くなっていた心臓の鼓動が平常運転に近くなる。
「ありがとう、フリード」
何とか声を絞り出したら、心配そうな犬たちが私を見ている。
「大丈夫だよ、心配してくれてありがとう」
私の言葉を聴いて、犬たちもちょっと安心した様だ。
それでもまだ心配げな犬たちを見ていると、私、よっぽど顔色悪いのかな、と落ち込んでしまった。
両頬を叩いて、気合を注入である。
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