第35話

 夕食を食べ終わり、イザークと少し一緒にいてから、部屋に戻った。



 さて、エドに連絡だ。


「どうしたの、エルザ?」


 直ぐに出てくれたエドは不思議そうに私を見ている。


「あの、えっと、今、時間は大丈夫?」


「それは大丈夫。ただ、エルザ、何かあった?」


 心配そうな顔でエドが訊く。


「え? どうして?」


「だってさ、何か悩んでいます、って顔に書いてあるし」


 悪戯っぽくエドが言うのだが、確かに、一昨日から悩んでいる。

 それが表情に出てしまったのだろうか……


「うん、色々考えちゃってね……それにしても、私、直ぐ顔に出るのかなぁ。いつもルーやフリードには隠し事とか出来ないけれど……」


 ずーんと落ち込んだら、エドは苦笑している。


「エルザは隠し事そもそも苦手っぽいしね。それにしても、エルザは両殿下が怖くないんだね」


 首を傾げた。


「怖いって、どうして?」


「心が丸裸にされるからね。尤も、アンドラング帝国人の大多数は、畏れ多い、って感じだけで、能力は怖くないらしいんだけど」


 ああ、そうか。

 ルーも、フリードも、その他の異能のある皇族方を怖いと思う人も、少数ではあるけれど、いるのだ。

 まして他国なら、その割合は多くなるのだろう。



 それが分かってしまうのは、とても傷つくのではないだろうか……


「どうして怖いのかな。やましい所がなければ、心を見られても問題ないと思うけれど」


 私の素朴な疑問に、エドが爆笑した。

 息を吐くのも大変そうになりながら笑っていたが、面食らった私を見て、何とか呼吸を調える。


「――――悪い、悪い。いや、やっぱりエルザはエルザだね。普通はさ、次元の違う尊いお方だから仕方がない、って諦めてるんだよ、怖がっていない人もさ。これじゃあ両殿下がエルザを大切にするわけだ」


 それはそれで傷つくんじゃないかなと思うのだが、どう思うかは人それぞれだ。

 強制は出来ないのは分かる、それでも何だか、皇族方が可哀想だ。


「それで、何、用事は?」


 エドに言われて、当初の目的を思い出した。


「うん、エドって、結婚相手とか、好きになった相手とかには、家の事って言わないもの?」


「ああ、それね。恋愛感情を自分が持つ人とかは作らないし、結婚相手は基本的に一族内から選ぶし、そうじゃなかったら知っている皇族か四大公爵家から婚姻相手を選ぶから、問題は無いよ」


 首を傾げる。


「一族内から?」


「そう。エルザもその内学ぶだろうけどさ、普通は近い血族との間の子供は問題が出やすいんだけど、帝国人の、それも貴族や士爵とかだと、幻獣や妖精、魔力の効果で近い血族と子供を作っても問題ないんだよ。流石に親子とか兄妹とかは倫理的に問題になるし、色々遺伝的に問題になるって建前にしてるけどね」


「そういうもの?」


 私の疑問に優しく笑いながら答えてくれた。


「そういうものだよ。他の国だと違うから、覚えておくようにね。大体において貴族や士爵は一族の特徴を色濃くしたがるから、一族内での婚姻も多いんだよ。勿論、利害関係や縁戚になる為に婚姻する場合もあるけどね」


 何というか、前世との感覚の違いがある気がする。

 とはいえ、例えは悪いが畜産用や犬、猫等の動物の品種改良とかを思い浮かべたら、前世でも分からなくはないとは思うのだが。


「一族の特徴って、どういう事?」


「例えば、魔法の特性とか属性とか、外見的な特徴とかだよ。必然的に幻獣とかも同じ種族になったりするんだ」


 良く分からず首を傾げていた私に、エドは楽し気に教えてくれた。


「そうだな、ルディアス殿下とフリードリヒ殿下はお二人共皇族の魔法の特徴である、万能型だね。皇族の外見的特徴は、基本的に髪は金系で、赤系や紫系の瞳じゃ無ければ青系の瞳だよ。だからエルザは、魔力無しである事に加えて凄く尊重されているんだけどね」


 また首を傾げて疑問符を浮かべている私に悪戯っぽく笑うエド。


「だってさ、エルザは金系の髪に、青系の瞳で、幻獣は皇族の特徴であるドラゴンだろ? 祖母であるマルガレーテ様の血が濃く出たんだろう、って事になるじゃないか」


 肯く。でも良く分からない。


「だから、皇族の血が色濃く出たんだから、それは尊重される理由になるんだよ。それ位、一族の特徴って大事にされる訳。他の一族との差異を、貴族家とかは余計に大事にしたりするんだよ。それよりは軽いけれど、士爵家も一族の特徴は大切にする。ああ、騎士家も気にするね。家の紋章と一緒だよ、要するにね。他の一族の特徴も一応聞いとく? エルザなら必ず学ばなきゃいけないだろうけれどさ、基本的に皇族と上位貴族、身近な貴族や士爵家と一応騎士家だけ覚えておいたらいいんだけどね。それでも聞くだけ聞いといたら学ぶ時楽だよ。ま、幾つか例を上げるだけにしとくけどね」


「興味があるから、お願い、エド」


 一族の特徴は、家の紋章、か……

 家の紋章は一族を表すものだ。

 我が家は白くて角のある翼の生えた馬が家の紋章だ。

 皆の家の紋章も学んではいたが、そういえば、皆、大体は誓約を交わした幻獣と家の紋章って一緒だった様な気がする。


「それじゃ、さっきも話したけど皇族方の魔法の特性、これは万能型だね。エルザの家のシュヴァルツブルク大公爵家も一緒で魔法は万能型。エルザの一族の場合、髪は銀系で瞳は青系、幻獣は白くて角が生えた翼のある馬だよ。で、性格的には仕事をきっちりこなし、社交的。それから基本的に食べ物は内臓系が苦手。そこら辺から考えると、イザークはちょっと一族の特徴から外れてるんだね」


「外れている、ってどこが?」


 イザークは銀髪だし、社交的な方だと思うのだが……


「うん、幻獣とかさ、魔法の特徴がね。イザークはほら、基本的に攻撃型で、支援は苦手だしね」


「そういう事ね。一族の特徴から外れているって、不味いの?」


 不安になって訊いてしまう。

 イザークが一族から認められなかったらどうしよう。


「それは大丈夫だよ。先祖返りとかで昔婚姻した血の特徴が突然出るなんてある事だし。だから何代か続いたのでなければ、気にしなくて良いよ」


 エドの言葉にホッと息を吐いた。

 そして思い出す。

 ロタールの祖父である伯爵は、紫系の髪に緑系の瞳だった。

 そう、ロタールと同じに。


「でも、やっぱり一族の特徴を持っていたら喜ばれたりする?」


「そうだね。外見は特にそうかも。次いで魔法の特性と幻獣、って感じかな。性格とかの特徴も一緒なら喜ばれるかな」


 イザークやロタールは、外見は大丈夫だろうから良かったと胸を撫で下ろす。


「ありがとう、エド」


 お礼を言ったらちょっと笑っているエド。


「どうかした?」


「うん、エルザは、人の事ばっかりなのは、相変わらずだな、って思ってさ」


 そうかなぁ。

 普通だと思うのだが……


「エルザは、そのままで良いよ」


 温かい、優しい笑顔で言うエドに、首を傾げながら言う。


「良く分からないけれど、ありがとう、エド」


 そんな私に、エドはまた笑いの発作が起こったらしく、笑い転げていた。

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