第34話
夕食の時間になり、部屋を移動した。
今日もお父様は一緒に食事は無理みたいだ。
寂しいが、お父様なりに私やイザークと一緒に居られるように努力して下さっているのは知っているから、無理は言えない。
だから、私は良いのだが、イザークはどうなのだろう。
イザークは幼くして両親を失っている。
親代わりは父だ。
後見人は祖父なのだが。
そこら変の難しい感じは、私にはまだ難解なのだが、どうも大公爵家の継承の問題が絡むから、お父様が後見人は不味いのだとか。
親代わりと言っても、基本的に公的な後ろ盾になるのは祖父になるから、ただ家で面倒を見ているだけ、がお父様だ。
だとしても、イザークにとっては親代わりはお父様だ。
いつもいないのは、とても寂しいのではないかと心配になる。
心配にはなるのだが、イザークはお父様とどこか距離を置いているのが分かる。
お父様と一緒にいても、一歩引いている様な印象が、常にあるのだ。
お父様は、特にイザークを特別に気にしていないというか、家族なのか、ちょっと怪しい感じがする。
あくまで家で面倒を見ている子、だけなのが濃厚だ。
うーむ。これは問題な気がするのだが、さて、どうしたものか……
そんな事を考えながら食事をしていたから、味がさっぱりである。
勿体ない事をした。
凄く美味しかったのは覚えているから、もっと味わなくては料理長に申し訳ないではないか。
等と落ち込んだりしながら食後のお茶を飲んでいたら、イザークが声を掛けてきた。
「どうなさったんですか? 今日は心ここに在らず、でしたが。そういえば、昨日の朝食もそうでしたね」
慌てて、ちょっと頬を叩き、心をこちらに引き戻す。
「うん、ちょっと気になっている事があってね。あ、昨日は、リーナに会うからちょっと緊張していたのよ」
私の答えにクスクスと笑いながら、イザークは
「らしいですね――――それで、気になっている事とは? 私でも力になれるでしょうか」
「ええと、その、私は大丈夫。それで、あのね、イザーク、気にしている事、とか、何か心配事とか……有り体に言えば、寂しかったりしない?」
目を見開いたイザークは、何だか満面の笑顔になった。
「そうですね、気にしている事、というか、心配事は、ありますよ」
それに勢い込んで前のめりに私はイザークに訊ねた。
「それって、何? 私に言える事だったり、何か出来る事?」
「ええ、聞いて頂けたら、嬉しいです」
イザークは、翳りのある表情になり続けた。
「私にとって、家族と言えるのは、父上と姉上だけです。ですが、父上はお忙しい。結果的に、私には姉上しかいない。だというのに、姉上は、私よりも、ルディアス殿下やフリードリヒ殿下を優先なさる……それが、とても、寂しいのです」
細かく区切りながら、イザークに切々と訴えられた。
自分の行動を振り返ってみる。
確かに、ルーやフリード優先な気がしないでもない。
でも私なりに、家に居る時はイザークと一緒にいる様にしていたのだが、それでは足りないのだろうか……
考えてみたら、イザークには私しかいないではないか。
お父様は忙しくて中々家にいない。
なら、イザーク的には距離を感じてしまっているのかもしれない。
それにお父様はお父様で、忙しい上に私が魔力無しだから、色々気を使う事も多いらしく、イザークまで気が回っていない、というか、見る余裕がないというか、な感じで、距離があるのだ。
うん、私がイザークを気に掛けないと、イザークが孤独なのは確かだと思う。
それにイザークは寂しがりやなのだ。
ゲームでは、私はイザークを気に掛ける余裕が無かったと思う。
何故なら、攫われて、酷い目にあって、自分で手一杯だったろうと想像できるからだ。
でも、今の私は大丈夫だ。
それなら、イザークをもっと大切にしないと。
だが、ルーやフリードも大変なのは分かっているのだ。
二人共、どうも私がいないと、ちょっと不安定な所がある。
特にルーだ。
フリードはまだ大丈夫だと思いたいが、ルーとそう変わらず同じ様に視えるフリードも大変なのだろうとは想像できる。
色々知りたくもない事を勝手に見せられて、それで平気な訳がないではないか。
だから、二人は放っておけない。
でも、イザークも放っておけない。
どうしたら良いのか、分からなくなった。
「……姉上。私の事が、お嫌いですか?」
悲し気なイザークの声で、思考の海から帰ってきた。
「そんな事はないわ。大切な弟だもの」
私の言葉に、イザークは笑顔になる。
「ありがとうございます。はい、私にとってもたった一人の、姉、ですから」
何だか、ある一部をとても強調していた様な、そんな気がする。
でも、理由が分からないし、気のせいかも。
「でもね、イザーク。貴方が寂しいのは分かるけれど、学校へルディアス殿下やフリードリヒ殿下が入学されるまでは、ちょっと我慢してね。それでも、これからはなるべく一緒にいる様にするから」
私の言葉に、イザークは、とても嬉しそうな、どこか勝ち誇った様な表情になった。
勝ち誇った、と感じたのは、私の気のせいかもしれないけれど。
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