第32話
ルディが帰ってから、他の攻略対象者に話をしてみようと、メモを見つつ確認。
さて、誰から連絡をしたものか……
とりあえず、家にいるディルとイザークは後回しで、ロタールに話を訊いてみよう。
そう決めて、早速連絡。
今の時間なら大丈夫だと思うが……
案じていたのだが、割と直ぐにロタールが出てくれた。
「どうしたんですか、エルザ」
心配そうなロタールに微笑みかけた。
「うん、特に無いんだけれど、ちょっと話したいな、と思ったから。今、話しても大丈夫? 何か不都合があったらまた今度にするけれど」
私が心配になって言った言葉に、ロタールははにかみながら首を振る。
「大丈夫、です。今日の予定、は、消化しました、から。話、したい、です」
ホッと息を吐く。
「良かった。あのね、今、体調とかはどう? 困っている事とか何か怖い事とか、あったりする?」
確かロタールは暗闇が怖い、というトラウマがあったと、メモにあるし、リーナも言っていた。
「体調、は、もう大丈夫、です。なので、色々学んで、います。困っている事は、無い、です。ギル様や、シュー、とディル、が、良くしてくれます。怖い事……」
怖い事で、顔が曇る。
「言いづらいなら無理に言わなくても良いのよ?」
「いえ、言いづらい、というか、恥ずかしい、のです、が、その、暗闇、が、怖くて、夜寝る時、も、明るくないと、眠れません」
しゅんとしながら、ロタールは下を向く。
「大丈夫よ。私も暗闇が怖い、っていうの、経験があるから。私も夜、暗いと眠れなかったわ。というよりも、眠るのが怖かった。私は理由を知っていたけれど、ロタールはどうして暗闇が怖いか、分かる?」
私を見ながら、目をパチパチとさせるロタール。
「あの、暗闇、怖いんですか?」
「ええ、未だに暗闇は苦手かな。眠る時も真っ暗は無理だし」
うん、前世の事とか、以前の怖い事を思い出して、真っ暗闇は苦手である。
「そう、なんですか。私、だけじゃ、ない、のですね。良かった。あ、良くないです。エルザ、が怖いのは、心配、です」
「ありがとう、ロタール。それで、何か暗闇が怖い心当たり、ある?」
首を傾げながらロタールは
「おそらく、攫われた時、に、何かあった、の、かもしれません。それ以来、暗闇、が、怖くなりました」
「そうなのね。それなら、記憶が戻らない事には、どうしようもないわね」
私が言った言葉に、彼も肯く。
「はい。理由、が、分からない、から、医者の先生も、治療、の、仕様がない、そうです」
「大変だね、ロタール。でも、別に暗闇が怖くても大丈夫だよ。それと関係ない仕事に就けば良いだけだし。無理は禁物だよ。気長で良いと思う」
私はそう思う。
余りにも生活に支障が出るならまだしも、無理して克服しなくても良いのではないかと思うのだ。
それに、普通はトラウマとかって、やっぱり治療は医者の仕事だとも思う。
ヒロインに癒されるトラウマって何なんだ。
ただ、ちょっとした優しさや、何かのきっかけで克服してしまう事も、無い訳じゃない、とも思うのだが、普通は専門家にまかせるのが自然な気もする。
だいたい、暗闇が怖い、ってそもそもどうやって治療するものなのだろう。
素人には無理だよね、どう考えても。
下手な事をしたら、悪化したり、別の精神的な病を発症させそうな気もするし。
専門家に任せるのが一番だろう。
何せここはゲームではなく、現実なのだから。
「……エルザ、ありがとう、ございます。気に掛けて、もらって、その、嬉しい、です。そうですね、無理、は、しません。気長に、いきます」
私の言葉に肯いて、嬉しそうにロタールは微笑んだ。
その笑顔に、私も笑顔で返し、お別れした。
さて次は、と考えていたら、ドアがノックされ、ディルが入ってきた。
「エルザ様、お茶の時間ですが、どうされますか?」
「ええ、お願いするわ。あ、ディル、お茶の時間の間、ちょっと一緒にいて、話してもらっても良い?」
私がそう答えたら、ディルは微笑んで肯いた。
「かしこまりました。それでは伝えてまいります」
お茶とお菓子を楽しんでいる。
今日のお茶のお供は、洋梨のタルトである。
それを堪能していて、ハタっと気が付き、側に控えるディルに訊ねた。
「ディル、何か困っていたり、心配事とか、ある?」
一応、エンディングがあるといえばある、という話のディルである。
訊いておいた方が良いだろう。
「そうですね。特には」
あっさりと返されてしまった。
「本当に、ない?」
私がもう一度訊いたら、思案顔になったディルは
「そうですね、気になっている事というか、気にしている事、はあります」
「え、何? 私に話したくないのなら、無理にとは言わないけれど」
私としては、本人が言いたくないのなら、無理に聞くつもりは無い。
それでも、主である私が訊いたら強制力がありそうで、申し訳ないのだが……
「恥ずかしながら、エルザ様と私は一つ違いですから、エルザ様と約二年間、ほとんど会えなくなるのが、気にはなっています」
「二年間? って、ああ、学校に行くからね?」
そうだった。
この国の男性の貴族や士爵は、学校へ行く前の一年間、特別な課程をこなさなければならないとかで、家族や友人とそう会えなくなるらしいのだ。
平民ではあるが、紫の瞳を持つディルは、貴族達と同じ課程をしなければならないのだろう。
「はい。その為に一年間は、シュヴァルツブルク大公爵家の別邸に行くことになりそうです」
ディルは寂し気に言う。
「仕方がないわ。そいいう決まりだしね。でも、全く会えない訳じゃないのでしょう? 連絡も取れる、って聞いたわ」
「はい、そうだとは伺っています。それでも、やはり、気にしてしまいます」
ディルの表情は明らかに暗い。
「大丈夫よ。二年間会えなくても、私がディルを忘れる訳がないし、関係は変わらないわ」
私が微笑んで伝えたら、ディルも表情を緩めた。
「そうですね。私も、エルザ様を忘れる事はありません。ご無礼かとは思いますが、連絡させて頂いても、よろしいでしょうか」
「勿論よ。手紙も書こうか? 常に連絡出来る訳じゃなくても、色々手段はあるはずだし」
私の提案に、暗闇で明かりを見つけたかの様に嬉し気に微笑んだディル。
「はい、よろしければ、手紙も。本当にありがとうございます、エルザ様」
「了解。気にしなくて良いわよ。ディルに手紙書くのも、連絡するのも苦じゃないもの」
うん、大切な存在のディルだから、全く嫌でも手間でもないのだ。
心から安堵した様なディルに微笑みかけながら、そう思っていた。
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