第31話
フリードとはお休みと通信を終わり、どうやら突然放って置かれて膨れているらしいルチルを宥め、ベッドに横になる。
なったのだが、いまいち眠りが遠い感じだ。
今日知った色々な事が、昼寝した時はそうでもなかったのに、頭をグルグルと掻き乱し、眠れない。
フリードやフェルとは話が出来た。
他の攻略対象者とも話をしたい様な、怖い様な、複雑な気分だ。
それでも、彼等と何か話をしたい、そう思うから、明日、連絡を取ろう。
決めたら眠気が襲ってきて、そのまま眠りについた。
翌日の朝早くからルディがやってきた。
何だか機嫌が悪い感じだ。
「どうしたの、ルー? 機嫌が悪いみたいだけれど」
私が訊いたらルーは苦笑しつつ答えてくれた。
「そなたが、エリザベートに関わろうとしている様なのでな」
うわ、早速ばれている。
「何故そんなに嫌がるの?」
「エリザベートは危険だ。視えぬからではない。不思議と本能が拒絶する。そなたも違和感は感じていたはずだが?」
ルディは冷たさ全開で私に言うのだ。
「うん、それはそうだけれど、でも、フリードだって気にしてるし、私も気になる」
相変わらず上手く言えないぁ。
「フリードリヒは、甘いからな。数多の悪性を見ながら人の善性を信じている。故にエリザベートにも寛容な愚か者なのだ」
吐き捨てるようにルーは言うのだが、ちょっと反論がある。
「フリードは愚か者じゃないよ。優しくて真面目なだけだと思う」
私が一生懸命ルーに言ったら
「言い方が悪かった。私には到底理解が出来ぬが、尊敬はしている。ただ、信じるが故に、フリードリヒは愚かともいえる」
「信じるから、愚かなの?」
私が訊いたら、ルーは苦笑した。
「さてな。私の感想故、気にする必要はない。ただ、私とフリードリヒは違うという事だ」
どうも私には難しい。
「――――それはそうと、エルザ、記憶持ちの転生者と話をしたようだな」
あ、これも知られてしまったか。
「やっぱり知っていたの? 彼女が私と同じだって」
ルーは呆れた様に私を見る。
「当然であろう。チューリンゲン侯爵家のカタリーナだったか。記憶があり、転生者という点では似ているか。エルザの様に特に良く見える訳ではないがな」
「え? そうなの? どうしてだろう」
ルーは眉根を寄せた。
「知らぬ。エルザとは違う故、私もフリードリヒも、彼女を特に気にした事は無いが」
「ああ、フリードも知ってたんだ。って、私と違うの? どこが?」
ルーは首を傾げる私に溜め息を吐き
「そういう意味ではない」
ますます首を傾げた私を見やり、ルーは少し難しい顔になった。
「そなた、良くあの者の話を信じたな。私やフリードリヒはある程度真実だと分かっていたが、そなたには荒唐無稽であろうに」
「ああ、それはね、同じ日本語を話していたし、私に対して、その嘘を言うメリットが何もないと思ったからね。私の立場を考えれば、どうにでも彼女を出来る訳だし」
嘘を言っていないと思ったから、素直に信じただけなのだけど。
「そなたは……」
厳しい表情になったルー。
どうやら早速内面がばれたらしい。
うん、はなからルーにごまかしとか効かなかったよね。
「えっと、その、あのね。私、前世でもだけど、嘘を言っているかどうかとか、信用出来る人かどうかだとかは、何となく分かるの。今まで外れた事はないからね」
えっへんと、胸を張る。
いや、まあ、含む所があったら分からないのだけど……
「……どうやらその様だな。特殊な才であろうよ。ただ、過信は禁物と頭に刻め。そなたは抜けていると自覚せよ。エルザは人を信じすぎる。裏を考えぬ」
冷徹にずばっと言うルーに落ち込む。
「過信しないようにするけれど、でも、分かるものは分かるのよ。不思議とこう、確信できるというか……抜けているのは分かっているけれど、自分ではどうしようもないというか、難しいというか……」
私が自分なりに思った事を言ったら、ルーは優しい顔になった。
「知っている。故にそなたを守るのは私だと思っている……私にも相談せよ。二人より三人であろうよ」
「フリードは良いの? 同じ様に知っているのなら、一緒に考えたら良いと思うよ」
私の言葉にルーが渋い顔になった。
「エリザベートの件がある。フリードリヒはアレをどうも過大評価し過ぎるきらいがある。簡単に言えば、フリードリヒは身内に特に甘い。故にエリザベートや第三皇子であるゲオルグ殿下が関わる限り、フリードリヒは当てにはならぬ公算が高い」
「なんだかフリードが仲間外れみたいで、納得がいかない」
私が抗議したら、ルーは苦笑した。
「ならば、私やフリードリヒは何か問題が発生した時のみ相談せよ。それならば問題あるまい」
「つまり、いつもはリーナと一緒に考えて、それでも解決できなさそうなら、ルーとフリードに相談するって事にしたら良いのね?」
私なりに出て来た答えはこれだった。
「ああ、それで構わぬ。フリードリヒには私から話しておく」
ルーが表情を和ませながら言った言葉に肯いた。
「ありがとう、ルー。リーナには私から言っておくね」
すぐさまリーナに連絡を取ろうとした私を見て、ルーは苦笑しつつ溜め息を吐いていた。
あ、そうだ! ルーに訊いておこう。
「ねえ、ルー、彼女と私、死んだ時期が十年位違うのに、私と今同い年なのは、何故かな?」
ルーは思案気な顔になったが、教えてくれた。
「それか。世界によっては時間の流れが違うなど良くあるらしいとカイザーが言っていたな。後は世界に介入出来るモノならば、その世界の強度や管理次第で、時間軸への干渉出来る範囲が違うとも」
「そうなのね。なら、死亡時期が十年位離れていても、今同い年でもおかしくはないのかな」
私が納得したら、ルーは温かい目で見ているのを感じた。
「どうしたの?」
「いや、ただ、エルザと年が近いのは有り難いと思っただけだ」
ああ、それは分かるかもしれない。
「うん、私も皆と年が近くて嬉しいよ。やっぱり年齢が離れていると、ちょっと距離を感じるもの」
「そういう事ではないのだがな。まあ、良い」
ルーは苦笑しつつまた溜め息を吐いた。
「ねえ、ルー、私が赤ちゃんの幻獣と誓約を交わした事、怒ってる?」
おずおずと、ずっと気にしている事を訊いてみた。
「その事は、現状を鑑みるに、受け入れるしか、あるまいな」
途切れ途切れ、噛み締める様に、ルーは言う。
「ありがとう、ルー」
「エルザに何かある事が、堪えられぬ……だがそれを理由にそなたを傷つけたのでは、本末転倒であるのは、解っている。私は、そなたの事になると冷静ではいられぬのだ。我ながら呆れてはいるのだがな……」
深い苦悩を滲ませながらそう言うルーに、私が出来る事ってなんだろう。
「ルー、心配してくれてありがとう。成るべく何もない様に頑張るよ」
うん、皆が無事で在る様に、これから頑張るのだ。
しかし、あまりルーやフリードに迷惑をかけたくはないのだが、無理というか、彼等から関わってきそうな気配が濃厚だ。
有り難いが、申し訳なく思ってしまう。
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