第2話
一人で色々と見て回っている。
皆から遠巻きにされていて、何だか居心地が悪い。
主催者でもない限り、通常は紹介されたのでなければ、初対面の身分が低い人は高い人相手に話しかけてはいけないのが決まり、だからだろうか。
四大公爵家同士の場合、我が家は筆頭公爵家ではあるが、誰が話しかけても問題はないらしいが。
皇族には四大公爵家の人間は、会場にいたらこちらから挨拶できるというかしなくてはならない。
そして、四大公爵家の人間が会場にいる場合、公爵家の人間は話しかけても良いらしいのだが、誰も話しかけてこないのです。
寂しい。
同い年位の女の子がいるのは、四大公爵家では今のところルードルシュタット家だけだ。
年が離れている兄弟も帝国では良くある事らしいから、これからに期待。
ギルベルトの妹はまだ四歳だから、魔力検査もしていないし、当然お茶会にも出席できない。
私が彼の家を訪ねるしか出会う方法は無い訳か……
等と、一人部屋の中央部で考え込んでいた。
近くにお菓子が並んだテーブルがあって、どれにしようか悩んでいた筈が、思考が逸れたのだ。
と、突然、
「エルザ嬢」
背後から、声をかけられる。
おそらく皇子殿下だ。
振り向こう、とした、その時
「えっ?」
何かに足を引っかけた。
その上背中に強い衝撃と痛みを感じる。
転ぶっ! 否、テーブルに突っ込む!!
意外とスローモーションな景色の中、嬉しそうに笑う綺麗な少女を視た。
――――あれ?いつまで経っても痛みがない。
顔面強打は免れないと思ったが……
誰かに腕を引っ張られたのは何となく分かった。
それに何か柔らかいモノに抱き止められた、ような……って、抱き止められた!?
慌てて周囲を見ると、フリードリヒ殿下と間近で目があった。
転ぶところを殿下御自らに助けて頂いた、と……
そこまで頭が回って、取り急ぎ離れようとしたのだが、殿下は何やら別の方を御覧になっている。
私も見てみたら、視線の先には、鮮やかな金色のふわふわ髪に若竹色の瞳の、綺麗な少女。
先ほど笑っていた少女だろう。
何か、その少女は容姿が整っているのに、気持ちが悪かった。
何故だろう。
殿下が険しい顔をして、あの少女を咎めようとしているのを感じて、服の裾を引っ張り、こちらに注意が向いた殿下に首を振ってみせた。
少女が悔しそうに顔を歪め小走りに立ち去る。
あ、この部屋から出て行くんだ。
まだお茶会、終わっていないのに……
それに舞踏会やお茶会で走ったらダメなんじゃなかったかな。
そんな事を考えていたら
「大丈夫か?どこか怪我や、痛いところは?」
心配そうな声に意識を声がした方に戻す。
「大丈夫です。お助けいただきありがとうございました」
そう言うと殿下はホッとしたような顔で
「そうか」
と言って立たせて下さった。
更に
「悪かった。私の不注意だ」
心底申し訳なさそうに謝られた。
「そのような事は……助けて下さったではありませんか」
「だが……」
まだ何か言いたげな殿下に
「殿下、そろそろ……」
声をかけてきたのは、紺色の髪に紫苑の瞳の生真面目そうな整った顔の、少年。
ギルベルトだ。
「そうだな――――皆、すまなかった。歓談を続けてくれ」
変に静かでピリピリしていた雰囲気だったのが、また和やかな様子に戻った。
あれ? もしかして会場中の視線、集めてました!?
うぅ、恥ずかしいな……
それにしても、あの女の子、何故私を転ばそうとしたのだろう。
転ばそうとしたよね、足を引っかけて。
その上で背中を強く押された、と思うのだが。
私の勘違いじゃないよね。
何か私、彼女にしたかな?
他の貴族の家の女の子と会ったの、今日が初めてだし……
それとなく、他の子に聞いてみようかな。
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