第24話

 ルーの話を要約するとこうだ。



 十代後半位に見える、片言の帝国語と流暢なレムリア語を話すレムリア人の貴族ではないと思われる男が、魔獣狩り連盟に登録したいと現れた、という。



 何故、貴族ではないと判ったかというと、肌の色だ。

 レムリア人の王侯貴族は肌が白くて、それ以外の人は肌が浅黒いらしい。

 レムリア人の王族、貴族はアンドラング帝国人やアールヴヘイム王国人と、見た目はそう違いはないという。

 まだレムリア人に会った事が無いから、直接見たことは無いのだが。


「紫の瞳のレムリア人って、おかしいですね」


 フェルが呟く。

 そう、レムリア人には赤や紫の瞳は今まで確認されていない。

 習った限りではアンドラング帝国人以外では絶対に生まれないはず。

 変だ。


「それ、ディルクの魔力を奪った奴だったりして」


 エドが面白そうな顔で言う。

 そうだよね、そう考えちゃうよね。


「ルー様、その人に会えないでしょうか。影からこっそり見るだけでも良いのですが」


 思い切って言ってみた。

 だがルーは表情が渋い。


「会ってどうするのだ」


「ディルクから感じる違和感と同じモノを感じたら、それが彼の魔力を奪った証だと思うのです」


 そう言ってルーを見た。

 ますます苦い顔をしている。

 だが構わず続けた。


「もしもディルクから魔力を奪った相手だったなら、魔力を返してもらいます」


 そう言い切った。

 だがルーは怒っているみたいだ。


「素直に返すとは限らぬ」


「なら、力ずくでも返してもらう」


 私らしくない言葉にルーは少し目を見開いた後、怖い顔になった。


「どうやって力ずくで返してもらうのだ?」


「人の魔力を奪うって、異能力だと思う?」


 ルーの質問には答えず、質問し返す。

 憮然としたルーが答えてくれた。


「そのような能力は聞いた事が無いが、私見では異能力であろうな」


「私の力ってそういう異能力にも効くのかな?」


「効くであろうな」


 うわ、さっきより凄く怖い顔だ。

 だがめげずに言う。


「なら、私の異能力を使って返してもらう」


「もしエルザの力が奪われたらどうするのだ。大体力は十分に使えるのか?」


 これは殺気混じりな様な気がする怖さだ。

 瞳が今まで見た事が無いくらい冷たい。

 なまじ綺麗だから迫力と威圧感が凄まじい。

 それでも何とか勇気を振りしぼってお願いしてみよう。

 これはきっと、帝国にも良い事だと思うから。


「力は何とか大丈夫だと思う。冷静なら頑張れば問題は余り無いはず。威力はそう出ないかもしれないけれど。それから、人に頼って申し訳ないのだけれど、ルー、力を貸して下さい」


 そう言って頭を下げる。

 これしか思いつかなかった。

 情けないけれど……


「一人でやるつもりならば止めたが、他人の力を借りるというのであれば手を貸そう」


 溜め息交じりに表情を和らげたルーが言う。


「大人に頼った方が良いと思うけれど、出来る限り俺も手を貸すよ」


「そうですね。私も手伝える事があれば何かします」


 ずっと私達のやり取りを見守っていた二人がほっとしたように声を上げた。

 エドとフェルも力を貸してくれるなんて、ありがたい。


「皆の手を煩わせてごめんなさい。ディルクの為でもあるけれど、紫の瞳を持つ人の魔力を取り戻すのは帝国にも良い事だと思うの」


 我が儘の弁明みたいだが、これも真実そう思っている。

 しかし人に頼らないと何も出来ないのが歯がゆくて仕方がない。


「ルー、奪ったと思われる男が何らかの力、例えば魔法とかでも使ったら、どうやって異能力が発動するのか、色々解る?」


「解るであろうな」


 ルーでもディルクは見えにくいと言っていた。

 だから能力を奪った男も見えにくいと思ったのだ。

 だが、断言してくれたのならお願い事も決まった。


「何らかの力を使う瞬間、その男の能力がどうやって発動するのか、解除の方法はあるのか見て欲しいの」


「ああ、了承した」


 力強く頷いてくれて、ホッとした。

 だが、少し考え込んでいたみたいなルーが私を真正面から見据える。


「その男の相手をする前に確かめたい事があるのだ。構わぬか?」


「何?」


「私見ではあるが、結晶化された妖精のアデラがエルザの異能力で元に戻るかもしれぬ」


 びっくりして思わず目を見開く。

 そんな事って出来るのだろうか。

 疑問があるから訊いてみた。


「あれは魔法なの?」


「分からぬ。私でも見通せぬ。だが、エルザの力は特殊。他に類を見ぬ。魔法ばかりではなく異能力も無効化出来るはず。故に試してみたい」


「アデラを救えるのなら、やってみる!」


 私は力強く宣言した。 

 こんな私でも誰かの役に立つのなら、喜んで!

 少しは足手纏いじゃ無いみたいで嬉しかったりする。

 これで失敗したら目もあてられない……


「あの結晶は、国の魔導の結晶専門機関で調べている故、今日中には無理だが、構わぬか?」


「うん、それは解っているから大丈夫」


 心配気に訊くルーにそう答えた。





 それから二人に改めて私に異能力がある事を説明する。

 そして私が冷静でもまだ余り使いこなせていない事も。

 だからフェルとエドに掛けられた魔法を無効化出来なくてごめんと謝った。

 そして、話を蒸し返した事を謝り、これでこの話はお終いにする。

 自分勝手で二人には本当に申し訳ないとは思ったが、けじめはつけたかった。



 それでも自責の念は消えない。

 私がもっとちゃんと状況を理解して、きちんと異能力を使いこなせていたら、掛けられた魔法を無効化していたのなら、彼らがあんなに傷つかずに済んだのかもしれないから。

 そう思うと本当にどう謝って良いか分からない。



 私は本当に何かが傷つけられるのも、傷つけるのも嫌だし、我慢ならない。

 なのに、一番足を引っ張ったのは間違いなく私なのだ。



 ルーに言わせると、ディルクに力を使っても、戻るかどうかは不透明らしい。

 本体である、奪った相手に使わなくてはならないみたいだ。

 


 アデラが元に戻るかもしれないのは、彼女が妖精で、人間とは違うから、らしいのだが、私が成長したら、ディルクに使っても元に戻る可能性は高まるという。

 アデラの事は、あれが何なのか、私には分からなかった。

 だから私の力が通じるのか分からず、考えが及ばなかったのは、我ながら情けない。

 魔法だと聞いたが、自分の能力がそう高いとはどうしても思えなかった。

 国の専門機関に任せた方が確実ではないかと思ったのだ。

 その上、ディルクの眼を、私なら治せるかもしれないと、もっと早く気が付かなかった自分を殴ってやりたい。

 


 どうしても自分がそう優れているとも優秀だとも思えないのだ。

 だから、自分の力にも自信がない。

 それにようやく何とか力を使えるようになった感じだというのも、理由の一つではある。

 だとしても、提案だけはするだけすれば良かったとも思うが、お父様に自分の力を言うのも怖かったりする。

 拒絶されたらどうして良いか分からなくなるだろうし。

 それでも言うべきだったのだ。

 自分が嫌われるのが怖いからと、アデラやディルクが治る可能性を潰しかねなかった。

 何かあると思考が回らなくなるのが、私の悪い所だ。

 そうして思考をそらしてしまう。

 主に食べる事にだ。



 せめて、この無効化の能力を使いこなせるようになりたい。

 誰かの力になりたい。

 大切な人を守りたいし、何か出来る事があったらしたい。

 欲張りだがそう願っているのだから、拒絶される恐怖にも勝たなければならないのだろう。




 ルーが言うには、こういう力や魔力もそうだが、身体が出来上がらないと安定しないらしい。

 とはいえ、訓練しないと成長しても力を十全には使えないというのだから、努力と特訓あるのみだ。

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