第20話

 自分の無力さに絶望しそうになった時、



「エルザッ!!!」


 切羽詰まった、声。

 今、一番聞きたかった、声。

 来てくれると信じた声、だ。 



 私の名前を叫ぶ声がしたと思ったら、空間が爆発したような、凄まじい光と音がして、男たちが吹き飛ばされた 。



 抱き起こされて、頬に手が触れる。


「すまぬ。遅くなった 」


「ルー」


 思わず呟いていた。

 この声を聞いたら、安堵がまず押し寄せてくる。

 他の感情はぐちゃぐちゃで上手く言葉に出来ない。



 彼は怒りを押し殺した声で、


「どこか痛いところは?」


 心底心配そうに聞くから


「大丈夫だよ。ありがとう。それよりも三人を助けて」


 あ、声が出せる。 

 良かった。

 お礼もちゃんと言えた。

 嬉しい。

 さっきまで声が出せないような何かがあったはずだけれど、彼が除去してくれたのかな。


『エルザ、ごめんよ、遅くなって。怪我をしているね。今、治すから』


 アギロも来てくれたんだ。  

 暖かい光に包まれる。

 怪我を治してくれているようだ。


「服が……なんて事だ。傷だらけじゃないか! 怖かったろう。本当に遅くなってごめんよ」


 そう言いながら、ルー同様に心底心配そうな顔のお父様が、私に自分の上着をかけてくれた。


「すまぬ。動転していて、気が回らぬとは情けない……」


 ルーは何故か端正な顔を曇らせてしょんぼりしている。

 何故だ。

 来てくれただけでとても嬉しいのに。



 周りを見回すと沢山の騎士達に魔導師総長様までもいらして下さったみたいだ。

 後、幻獣かな、色々不思議な存在も沢山いる。



「彼らは生きたまま捕らえて頂けませんか。何かが変だ」


 エドが縄を解かれて直ぐに、大きな皆に聞こえる声で言う。


「私もそう思います。だから殺さないで下さい」


 フェルもそう言った。

 私も続けて


「アデラを助ける方法を聞かなければいけないから、殺さないで下さい」


 お父様が目で魔導師総長様に合図した。


「皆、その様に」


 そう命令が出て、助けに来てくれた騎士の皆が、次々と私達を攫った男達を捕らえていく。

 凄いな、あんなに二人が苦戦したのにあっという間だ。

 相手も、魔法や剣で応戦するが、どれも直ぐに無力化されていった。



 剣を打ち合うとかではない。

 一撃で剣が砕け散って相手が吹き飛ばされるのだ。

 魔法も剣の一振りで霧散する。

 圧倒的すぎるのだ。

 これが魔導騎士って存在なのだろうか。

 味方で良かった。



 蜘蛛の幻獣? だろうか。

 糸でグルグル巻きにしている。

 あれなら逃げられなさそう。

 それにしても蜘蛛、大きいな。

 さっきまでいなかったような……大きさを変えられるのかも。

 後で訊いてみよう。



 蝙蝠みたいな幻獣かな、隠れようとした人達に何か衝撃波をぶつけて倒している。

 魔法なのかな。

 私の知らない事がまだまだ沢山あるから、勉強のしがいがある。

 等と圧倒的な騎士達の強さに、思考が能天気になってしまう。



 救援に来てくれた人達が余りに強いから、これで助かると思ったら、ホッとして気が抜けてしまい、折角抱き起されたのに、力も抜けて地面にめり込みそうになった。

 慌てたルディとお父様とアギロが心配そうにしているが、


「大丈夫だよ。気が抜けただけ」


 そう返したのだが、何でかルディは私を抱き上げた。

 所謂、お姫様抱っこというもので大いに狼狽える。

 けれども、逆らう気力もない私は抱かれたままだ。



 お父様が何か言いたげにこちらを見ているが、ルーは無視だ。



 そのお父様はアギロと一緒に私の側にいる。

 シールドだろうか、光の膜が見えるけれど。

 そういうのを張っているみたいだ。



 エドもフェルも治療を受けたようで、怪我は治ったようだった。

 服はボロボロだけど。

 ディルクも無事で安心する。

 アデラの結晶化された物も、割れたとかなく無事に回収されたから本当に良かった。



 逃げようとした男達も全て捕らえ終わったらしい。

 全員の意識が刈り取られているのが怖い。

 全身が蜘蛛の糸で身動き取れなくなっている。

 あれは取るの大変じゃないかな。

 それとも何か即座に取る方法があるという事?



 ルーがぽつりと、ディルクを見て「見えづらいな」と呟いた言葉が、耳に残る。





 ルーに抱き上げられたまま帰還したのだが、その方法が瞬間移動で驚いた。

 あっという間だったのだ。

 変に酔うとかもなくて、一瞬だったから凄い。

 移動した先が帝宮だと聞かされて目を見開いてしまった。



 帝宮へ着いて直ぐに、私は家に連れて帰られる。

 帰還した部屋に我が家の執事のバルドと、その幻獣のバラスという名前の蛇の幻獣、侍女頭のブランシェに妖精のビアがいたのには驚いたけれど。

 他にも沢山の人達がいたが、驚きすぎたのと疲れていたので思考が麻痺していたのか、ぼんやりとしか目に入ってこない。



 ルーは何だか残念そうだったが、彼からバルドが私を受け取り、家に直行した。

 馬車とか使わずに、瞬間移動というものだろうか、それで刹那の間に家の玄関に着いたのだ。

 あの男たちと違って、バルドには嫌悪感はわかない。

 良かったと胸を撫で下ろした。



「緊急時に着き、御前、失礼いたします」


 とか言っていたから、緊急の処置なのだろう。

 帝宮には普通は瞬間移動したら駄目みたいだ。

 そもそも、許可なく帝宮では魔法は使えないようになっていると学んだから、かなり驚いたけれど。





 帰ったら、侍女の皆さんがボロボロの私の服を見て、おいたわしいの大合唱だった。


 家令のツィルマールと家政婦長のクラージェは静かに


「お帰りなさいませ 」


 そう言うと静かに丁寧に頭を下げた。

 家令と家政婦長の幻獣も神妙に見送っている。



 私の部屋まで抱っこされたままだった。

 もう、恥ずかしさが麻痺してきた感がある。

 ブランシェが声をかけ、私の服を全て脱がせて、何か片手で持てる機械の様な物で怪我がないか全身確認された。

 毒とか色々なモノが分かるとか。



 裸にしなくても良いのではないかと思うのですが、やっぱり、服を着たままより機械の精度も高いらしいし、全身視ないと何処に怪我しているか判らないものね。

 そういえば、ブランシェは医者でもあったっけ。



 お風呂に入れられ、全身丁寧に洗われて、上がったらホットミルクに蜂蜜を溶かした物が出てきた。

 甘くて暖かい飲み物を飲んだら、ベッドに入れられる。

 家に帰って来たって感じだ。

 私のベッドだと安心感が凄まじい。


「お腹が空いたら、お呼びくださいね」


 ブランシェに言われた事は理解できたが、ベッドに入ったら眠気が襲ってきて、瞬時に眠りに落ちていった。

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