第16話

 入って来た相手を視て驚愕した。

 何故、フェルとエドがここにいるのだ。


「うん、やっぱりエルザここにいたね。な、言った通りだろ」


「そうですね。流石です。探して正解でした」


 そう言いながら、二人は私の閉じ込められている檻に近づく。



 どうしてここに二人がいるのか訊いてみたら、エドが檻に針金の様な物で鍵を開けようとしていたから、フェルが教えてくれた。



 話を聞いてみると、二人もルディのお茶会に出席するために帝宮へ行ったのだが、そこで攫われたという。



 一体どういう事だと頭を悩ませていたら、エドは鍵をあっさり開けて、服の縫い目から魔石を取り出して、もう一つの鍵を開けた。

 二重鍵だったの。



 そういえば、フェルが持ってるのって、アデラが結晶化された塊じゃないか。

 余りにびっくりしすぎて、気が付かなかった。ごめんよ、アデラ。

 しかし、この結晶にも何か違和感を感じるんだよね。

 何か異物感というか、何だろう?


「さあ、ここを出るよ」


 エドがそう言うから、クラウディオはどこかにいるんじゃないかと思って


「他に囚われている人は居ないの?」


「居ない。人の気配がするのはこの部屋だけ」


 そうエドに返された。

 非常識だと思ったが、二人に頼む。


「無理を承知でお願いするんだけど、隣の檻の子も連れて行ってくれないかな」


「どういう事?」



 私は出来る限り簡潔に説明した。


 彼はディルクと言って帝国人で、本来の瞳は紫色である事。


 その瞳を魔力源ごと奪われたのかもしれないという事。


 奪った人の異能力がどの様な物かは分からないが、とても危険だと思う事。


 ディルクは瞳が紫色だから、帝国には重要だし、今回私達が攫われた過程からいって、ここに放置出来ないと。


 それから二人に、私を魔族と呼んだから、敵国の人間が私たちを拐った者達ではと話した。



 フェルもエドも難しい顔をしていたが、直ぐにエドが連れて行くと言ってくれたのだ。

 フェルはエドの判断に従うようだった。

 元々の性格からいって、フェルは置いてくのは心残りになるだろうしね。



 エドは服を破ってアデラの結晶化した物を入れる袋を作った。

 所謂、風呂敷包みの要領だろうか。

 私のドレスの方が生地が余っているから使っても良かったのにと言ったら、溜め息を付かれて、女性にそう言う事はさせられないと返された。

 無念だ。



 小屋を出たら、近くに海があって、背後は森だ。

 真っ暗だし月と星が出ているから、どうやら夜だと思うのだが……

 しかし、外に出ると少し肌寒い。

 やっぱり秋の夜なのだろう。



 エドがアデラの風呂敷包みを持って、もう一方の手で私の手を握り、フェルは私の手を握った反対側の手でディルクの手を握った。



 私はフェルとエドの双方に手を握られ、森の中を駆ける。



 良かった。

 ハイヒールじゃなくてとか暢気に言っていられない。

 二人の速さは異常だ。

 とても子供とは思えない。

 手を離したらとても付いて行けないだろう。

 ディルクは大丈夫だろうか。

 目が見えなくてこの速さは相当怖いはずだ。



 彼の方を見ようにも息が上がってとても無理。

 視た瞬間に転びそう。



 私は必死なんだけど、足が付いて行かない。

 縺れた! 転ぶ!!



 そう思ったら、暖かくていい匂いに包まれた。

 エドに抱き留められたからだ。


「ごめん。エルザは魔力無しだった。俺も柄になく動転していたみたいだ」


「そうでしたね。すみません。もっと早く気が付けば良かった」


 悔恨の表情の二人。



 息も絶え絶えになっている私とディルク。

 そんな私の頭を撫で、


「良く走ったね。背負っていくから、乗って」


 そう言って背中を向け、しゃがむ。


 驚いて


「流石にそれはエドの負担が大きすぎる! 私は反対」


「俺は魔力が強いから、身体を強化すれば大したことない。むしろこのまま手を繋いで行く方が遅くなる」


 軽い調子で言われてしまった。

 フェルも肯いている。



 いつ追手が掛かるか分からないのだ。

 悩んでいる暇はない。

 彼等に迷惑は掛けられないのだから。

 お礼を言いつつ謝りながら負ぶさる。



 ディルクをどうするのかと思っていたら、フェルが背負って行くという。

 安心したが、フェルにも多大な迷惑をかけて申し訳ない。



 二人は私とディルクを背負い、気にした風もなくまた走りだした。





 エドに背負われながら思う。

 先程とは比べ物にならない位速い。

 始めからこうすれば二人の足手纏いにならずにすんだと激しく後悔していた。



 フェルも凄いな。

 自分より幾分小さいとはいえ男の子を背負っても全く問題ないみたい。





 風の様な速さってこういうのを言うのだろうと考えていた。

 それにしても真っ暗な森の中を二人は迷わず走る。

 木で遮られて、月明かりさえ届かないのに凄いな。



 どうやって視界を確保しているのだろうか。

 やっぱり魔法なのかな。

 私には全くといっていい程見えないけれど。



 かなり走ったと思う。

 息が整ってきた。

 逃げ切れたろうか……

 そんな事を思っていた時、突然視界が回る。



 何事かと思っていたら、いい匂いのするエドじゃない。

 何か気持ち悪い嫌な臭いに包まれた。

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