第3話
周りから見たらほのぼのだろう日々を送りながら、気になっていたことがいくつかある。
まず、この世界には戦争はあるのだろうか。
この国は今戦争中なのかどうかも重要だと思う。
敗戦国になったらどうなるか分からないのだから。
考えてみた結果、戦争はあるだろうな、やはり。
というのが私の出した結論だ。
人間が生きている以上争いは避けられないのだし、仕様がないと割り切りつつ起こさないようにするしかないと私は思う。
こちらが戦争をしたくなくても相手もそうだとは限らないから備えは必要だよね。
戦う力がなければ蹂躙されるだけだ。
私はそんなのは嫌だと思う。
大切な者が傷付けられるというのは心底我慢ならないから。
戦争は絶対に起こしては行けないと雁字搦めになったら、逆に見えるものも見えなくなるのではないかなとも考える。
誰だって戦争をしたくないとは必ずしも限らないのが怖いところだと思う。
だから最低限のやるべき事はやっていたら良いのでは。
最低限をどこにするかも問題だけれど。
大体、たまたま今、平和だからといって、いつまでもそれが続くかは誰にも分からない訳だしね。
問題はこの私の生まれた国がどういう状態なのかという事だ。
私は、人と争うとか苦手だからなぁ……
人と戦えるか、殺せるかと言われたら、分からない。
その時になったら悠長な事は言っていられないと思うけれど。
やはり身近な人が傷つくのは嫌だから。
見たところ、戦時という印象はない。
切羽詰っているという感じはしないから、たぶん、だけれども。
周辺国と揉めてないと良いなあ……
次にこの私の生まれた家についてだが……家、だよね? 家というより屋敷という規模のような気がするけれど。
いわゆる大富豪というものなのだと思う。
こちらの常識がわからないからはっきりとはいえないけれど、家令? みたいな落ち着いた男性、父と年齢がそう変わらない執事さん? だとか、侍女さんたちにそれより年上っぽい家政婦さん? みたいな人等沢山いるからなあ。
バルコニーから見える広大な庭は良く手入れされていて、庭師さんも一人ではないみたいだし……というかあの規模を一人では絶対に無理だと思う。
それに家具や調度品は、従兄弟の家にあった物よりも豪華で細工が凝っているけれど使い込まれていて、年季が入っているにも関わらず美しい光沢を放ち高級感あふれる物だ。
家の規模は正確にはわからないけれど、私が使ういくつかの部屋以外にもあるのだろう。
確実ではないけれど、廊下の規模を考えるに相当広いはずだ。
従兄弟の家より広いのではないだろうか。
だとすれば恐ろしいくらい上流階級という事だろう。
やはりこういう家だと、父や母の事は「お父様」「お母様」と呼ぶべきかなと思い呼んでいる。
父も母も気品があふれまくっているので違和感はないけれど。
前世では普通に「お父さん」「お母さん」だったなあ。
今世のお母様は、屋敷の人達と比べてみると、小柄で華奢、嫋やかだ。
その上身体が元々弱いのか、それとも出産で体調を崩しているのか、よくベッドで横になって苦しそうにしている。
それでも私の世話を人任せにせず、自分で一生懸命みてくれるのだ。
あまり無理をしないでと言いたい。
前世の母と同じように身体が弱い上に出産で体調を悪くしたのなら、申し訳なくてたまらない。
早く大きくなって負担を減らしたいなと常々思っている。
それに本来の子供が生まれていたら、こんなにお母様が体調を崩す事がなかったのではないかという思いもある。
前世といえば、家族や友人達が気にかかった。
みんな、泣かせてしまっただろうか……
私の最期の数日は、今までが嘘の様に体調が良くて、いつも辛そうにしていた母は笑顔が絶えず、弟達は明日来ると元気に帰って行って、頻繁に見舞いに来てくれる従兄弟もそれは喜んでいた。
最期の日は久しぶりに従兄弟と沢山話をして、程よく疲れ、眠りにつき、夜中に目が覚め、見知らぬ女に包丁で刺され――――そのまま一生を終えた。
私の後悔はみんなより先に何も出来ずに死んだこと。
病気になってから家族や友人に大層迷惑をかけた。
原因不明の病であるためきっと金銭的にも負担をかけたろう。
「弟達の入学費用とか大丈夫なの」
と真剣に聞いても
「大丈夫だそんな事気にするな。病気を治すことを考えろ」
と言われるばかり。
だが自分の病気は原因不明だし、余命幾ばくもないのは雰囲気で察せられる。
身体もやせ細って、肌はカサカサになっていったしね。
だからこそ、早く死んでみんなを自分から解放したかった。
死ぬのは怖くないかと言われれば怖いと答える。
怖い、怖いのだ。
だがそれよりも家族の迷惑になることが耐えられなかった。
発作は苦しい。
苦しいし痛いし辛い。
私は小さい頃から痛みに敏感で普通の人より痛がってしまう。
小さな傷でもとても反応してしまっていた。
でも、発作のたびに自分よりよほど苦しそうな家族を見るほうがよっぽど苦しいし痛いし、やはり辛い。
何度目かの発作の後、気が付いたら家族を上から眺めていた。
家族は人目を気にする余裕もないほど嘆き悲しんでいるのが目に飛び込む。
その時唐突に思ったのだ。
自分はこれだけ悲しんでくれる、大切に思ってくれる人たちに、何一つ返していない。
家族の迷惑になりたくない、苦しい顔をさせたくないと、死ぬことで逃げようとしているのではないのか。
両親は仕事で遅くなっても顔を出してくれたり、何だかんだと弟達も私の世話を焼いてくれたのだ。
従兄弟も受験生なのに、病室から出られず直接会えない時もよく会いに来てくれて、ありがたいのだけれど、申し訳なく思ってしまい複雑だった。
病状が落ちついて病室が異動になってから、従兄弟と直接会えるようになった途端ますます会いに来てくれたので、ますますどうしたものかと思っていたのだ。
「勉強は大丈夫?」
とたずねても、
「問題ない」
そう言って聞かない、頑固で困った従兄弟だが、嬉しかった。
泣きたいくらい本当に嬉しかったのだ。
大切にされるばかりで自分は何も出来ていない。
放り出そうとしたようなものだ。
自分の不甲斐なさに腹が立った。
だが、まだ、間に合うだろうか……?
元々誰かが痛いのも苦しいのも苦手だし嫌だ。
だから家族や友人たち、大切な人たちがが苦しいのも痛いのもやはり嫌だ。
だから、笑顔でいようと思った。
自分は散々嘆いたし、みんなに迷惑をかけた。
これからもたくさんかけるだろう。
だからせめて、わたしは感謝を込めて、どんなに痛くても苦しくても辛くても、せめて最期まで微笑んでいようと決めたのだ。
痛い顔や苦しい顔をしたら、みんなも同じような顔をしていたから、強がりでも微笑めば、みんなも安心するかなと考えた。
もし今度生まれ変わるのなら家族や友人を大切にしたいし力になりたい。
出会った人達にも何かしたい。
たまたま出会った人に優しくされて嬉しかったことはたくさんある。
だから自分もそうしたい。
そう、思ったのだ――――
代償行為かもしれない。
それでも何か出来たらいい。
間違いなく泣いている、家族や友人の涙を、私は止める術を持たないから。
せめて今世では誰かの涙や悲しい気持ちを癒せたら良いな……
後、ちょっとは長生きしたい。
そうは思っても、この世界から排除されたら元も子もないのだけれど……
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