第2話 スターシップ

 足音を吸収する路面を駆ける二人。



「あン、待って」


「涼子、港へ行こうぜ。船が出る」


「宇宙船なら、こないだ乗ったじゃないの」


「涼子が新規に配属されたスターシップを見たいんだよ。あはっ」



 うっとりと、勇也はくり返した。



「涼子、涼子」






 涼子は客の入りを見て、胸が騒いだ。


 戦場で覚えたざわつきとはちがう。ときめきだ。



「わたし、やったわ。ついに一人ですることになったわ!」



 涼子はスターシップで初めてメインの踊りに入ったのだった。



「わたしを見てくれるわね……今度こそ」






「涼子サマには勇也さんが……」



 パシッ!


 高らかに音を立てて、和也の頬が鳴った。涼子は後も見ずに駆け去った。



(和也さんは、わたしとゆうやのことを誤解している。恋人なんてものじゃない。ゆうやはわたしを無機物として見てる。劣化したら捨てる気よ。わたしの好きな人は和也さんなのに……)




 涼子は経験豊かな思い出をひっくり返した。いつもフるのは涼子のほう。



「どうしてわたしは肝心な人からいつも愛されないの? 寄ってくるのはどうでもいい人間ばかり。すさむばかりよ、わたしの心は……」



 和也が涼子の嘆きを聞いていた。






 スターシップはとある惑星に降りたとうとしていた。



「わ、わたしも……そのために登録された? 聞いてませんっ、そんなこと!」


(宇宙開発と言っても、開拓地にするために、先住民が邪魔で、わたしの戦績データを利用したいのだわ。でも、参加すれば、和也さんに逢える……一緒に戦える)




 胸ふくらませ、朗報を待つ。待ちながら、植民星にする惑星上に一斉掃射する涼子。



(ああ、わたしの気持ち、とどけ――和也さん――)



 それは恍惚。




 惑星に舞い上がった砂ぼこりを避けるため、スターシップは一時、衛星軌道上に移行し、それはしばらくの間続いた。


 勇也は勇猛果敢ゆうもうかかんに戦った涼子をつかまえて、船室のベッドに誘った。



「笑わせないで。たかが愛玩あいがん動物が! 純人類オリジナルがなんだというの。戦えもしない弱小生物がっ」


純人類オリジナルなんて、ほめられたもんじゃないんだ。本当は。エサもらって、それがおいしけりゃあ、生きることはできるさ」


「なんですって?」


「ほら、やっぱり笑うとかわいいよ」


「かわいい……? わたしが?」


「おまえってさ、ふつうの女の子だよなァ。そうしてっと」


(ふつう? ふつうってなに? ――今、ものすごいことを言われたような気が――でも、ふつうって気持ちがこんなにフワフワするものなら、ふつうってなんてステキなんだろうか)



 涼子は勇也の魔性の呪文にからめとられて、墜ちてしまった。


 抵抗する手は空振り。



「ぃや――待って、や――!」







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