鬼遊戯

アーク

第1話 始まりの合図

不意に目が覚めた、今は何時だろうかと思いスマホの電源をつけて時間を見ると夜中の2時半を示していた。「まさかこんな時間に起きるとは……」今までこんな時間に起きたことはなく珍しいこともあるもんだなと心の中でそうつぶやいた。


ここで軽く自己紹介でもするとしよう、俺は桐原蓮夜、まぁ普通の高校男子だ。唯一他の人と違うと思うのはかなりの不幸体質ということだ、財布を無くしたり何もないところでつまずいたりこけたりとかはほぼ日常茶飯事と言ってもいいくらい頻繁に起きる、一番ヤバいと思ったのが万引き犯と間違えられて連行された時だ、あの時は危うく退学処分を食らうとこだった……。まぁとりあえず本文に戻ろう。


寝なおそうかと思ったが夏休み明けにテストもあるし勉強でもしよう、早く起きれて今日は運がいいなと独り言を言ってスクールバッグの中から教科書やノートなどを机に置いて勉強を始める。「あー……手いってぇな……」勉強はぼちぼち進んではいるが進めていくうちに手の痛みが増してきて勉強に集中出来なくなってくる、少し休憩でもしようかと思いリビングにお茶を飲みに行った、その時に時計を見たが時計はまだ4時を指していた。まだ1時間半しか経ってないのか、もう3時間くらいやってるように感じていた、部屋に戻り勉強を再開しようとすると急にスマホから音が鳴る。何だろうと思い画面を見るとグループ通話を始めているという通知が来ていた、こんな時間に通話なんて何かあったのだろうか、そう思いグループ通話に参加する。


「お!蓮夜も来たか!いや~それにしてもこんな時間に蓮夜が起きてるとはねぇ、今日は大雪でも…」明るい女子の声が聞こえてくる、彼女は皐月凛。俺のクラスメイトで初日から誰彼構わず話しかけまくっていたのが一番印象に残っている。性格に関しては言うまでもなく楽観的で素直、そして何より明るい。クラスのムードメーカーといってもいい。その女子の言葉を遮るように「アホか、なんで俺が早起きしたら大雪が降るんだよ。」いつも通りの調子で突っ込む。「も~、冗談通じないんだから~、そんなんじゃモテないぞ」少し不機嫌そうで楽しそうな声が聞こえる。「あーはいはい、余計なお世話だっつの。んでこんな時間になんで通話してんだよ」こんな時間に電話なんて普通は非常時にしかしないだろう、だがその可能性は絶対にない。なぜかって?非常時にこんな軽口叩けるやつなんて世界中を探してもいないからに決まっている。


「えっとね、もし誰かが起きてたら勉強教えてもらおうかなと……」小さな声で耳打ちするくらいの声で言う「それくらい自分で何とかしろよ」厳しい口調で言った後にもう一つの疑問をぶつける。「そういやあとの二人は?」あの二人というのは簡単に言うと中二病と無口でストレートに言うやつだ、俺がそういうのを待っていたかのように二人が参加してくる。「我を呼んだかね、我が眷属よ!」凛より大きな女子の声が響く。そのあとに小さいが冷たい声で「うるさい……今夜中なんだけど?」と男子の声が聞こえてくる。二人の名前は中二病のほうは宮野玲、無口な奴のほうは葉山千月だ。なんだと!?と玲が反論するが、うるさいって言ってるのわかんないの?とさらに言われて黙り込んでしまう。相変わらずこの二人は相性悪いな、と心の中で思う。


「あ、そうだ!今日昼からみんなで遊ばない!?」と、急に割り込んでくる。「は?お前勉強は……」「いいのいいの!一日くらいしなくたって!」俺が言い終わる前に明るい声で言う、それで赤点取ったら元も子もないだろと言おうとするがどうせ聞かないだろうと思いため息をつくだけにした。「遊びに行くって言っても……どこに行くのさ」「昔作った秘密基地とかどう?久々行ってみたいんだよね!」凛がそういった瞬間に俺の脳裏に嫌な思い出がよぎった。「あー……あそこか、俺あそこ嫌な思い出しかねぇんだけど…」「確か蓮夜が足滑らせて頭打って気絶したんだっけ?」「言うな千月……普通に恥ずかしいんだよ」ため息混じりに言う。「我に感謝するのだな、魔法を使って無償で復活させてやったのだからな!」「お前はただ俺の近くで変な言葉言ってただけだったんだろ、何の意味もねぇよあれ」そうこうしているうちにいつの間にか時計は6時を指していた。


「くそ……お前らのせいで全然勉強できなかった……」参加しなけりゃよかったのにと千月が言い放つ「まぁまぁ、とりあえず昼に学校集合ね!」まぁ気分転換に遊ぶのもいいかもな、と心の中で思いながら「オッケー、んじゃまたな」そういって通話をやめた。だがその翌日急に俺の親戚が死んだ、あまりに唐突だった。「なんでこんな急に死んだんだ……?」葬式場で一人になって呟いた。死んだ親戚は特別恨みを買うような人とは思えないくらい温和な人だった。一人で考え込んでいると急に襖が開く。「……大丈夫?」振り替えるとそこには喪服を着た千月がいた。「正直言うと大丈夫っていう状態じゃない……唐突すぎて皆心の整理が追い付いてないみたいだし……」あえて言わなかったがうつ病になった人だっている、おまけに次の日が偶然なのかわからないが俺の父親が死んだ日だった。父親が死んだときはあまり悲しみの感情は出なかった、かなり有名な会社の社長で評判は良かったが家では独裁者といっていいほどの振る舞いをしていた。実の息子である俺にさえ日常的に暴力をふるっていた。「そういえばあの二人は?」「あぁ……なんか用事があって来れないみたい」そうか、と呟いた後部屋の中には二人の呼吸の音しか聞こえなくなった。


「まぁすぐに元気出してとは言わないから、でもあまり引きずるのもよくないからね。」「わかってるよ、お前親父が死んだときもそういってたよな」覚えてない、と千月は言う。「時間も時間だし……そろそろ帰るよ」時計を見ると夜の10時を回っていた。「おう、じゃあまたな」遠ざかる千月の背中を手を振りながら見送る。その翌日、朝起きてきてテレビをつけるとそこにはなぜか真っ白な部屋の中心に椅子が置かれてる画面が映し出された。「……は?何だこれ」リビングにいた母親を見ると同じようにテレビを見つめていた。すると急に変声器を通して話しているかのような声が聞こえてくる。「どうも皆さん、おはようございます。まことに勝手ながらゲームを始めさせていただきます」――その一言から俺らの平凡な日常が一気に崩されていくのに気付いたのは後になってからだ―。

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