第1章

第3話

紫色の光に包まれ、あまりの眩しさに目を閉じた


──数秒後


気持ちの良い風が頬を撫で、肉の焼けるいい匂いが漂ってきた

ゆっくりと目を開けると視界には壁だけが映る

後ろからは賑やかな声

振り返ると人の波が路地の入口から見える


「これが異世界⋯⋯」


人々は歴史の教科書や、劇等でしか見ないであろう服装を着こなしていた

ゴクリと生唾を飲み込みすぅっと異世界の空気を吸い込んで先走る気持ちを抑え、ゆっくりと声のするほうへと足を運んだ


「らっしゃい!らっしゃい!

ポトルはいらねぇか?今なら5つで大銅貨1枚!

安いよ!」


「おい、向こうに面白いものが見えるぞ、行ってみようぜ!」


「これとこれと、これください」


狭い路地を抜け活気と熱気あふれる市場

大きな声で呼び込みをする店の男達

店と店のあいだを歩く人々

これだけ人がいるのにも関わらず空気は澄んでいた

汚・れ・た・空気ばかりを吸い込んでいた僕の肺は嬉しげにもっともっとと求め、脳は初めて見る世界に興味を示し知識を求める

今回ばかりは知識欲が勝利を掴んだ

人々の間をすり抜け、真っ先に目に付いた店で止まる


「やっぱり⋯⋯見たことないものばっかりだ⋯⋯」


果物屋の商品をマジマジと眺める


「へい!らっしゃい!兄さんこれ買ってくかい?」


声の大きいオッサンが売り込みに来た

オッサンの手には真っ赤に光るリンゴのような果実


「ん〜、どうしようかな?

今大きいのしかないんだけど大丈夫?」


現在の僕の全財産は来る前にシャルに貰った銀貨10枚

貨幣の種類は教えてもらったが、価値などは自分で知れとのこと⋯⋯


「銀貨か?」


「はい」


「少しばっかり待っといてくれ」


オッサンは後ろに置いてある袋を取り、銅貨を数える

その数は⋯⋯2桁を超え3桁までいき手が止まる


「すまんな、兄ちゃん

釣りが足りねぇから崩せたらまた来てくれねぇか?

そんときはサービスすっからよ」


「わかりました」


ん〜意外と両替は厳しいぽいな

それに意思疎通できるか心配だったけど⋯⋯できたから言語は日本語で大丈夫そうだ

果物屋のオッサンにまた来ますと一言残し去るとまた市場を歩く

食欲をそそる食べものの香り

店に並ぶ初めて見る木の実やりんごのような赤い果物?を目にし現実だと改めて痛感する

さぁて⋯⋯いろいろみたし、次は今日の宿探しだなっ


「けどその前に⋯⋯ここから出ないと⋯⋯」


人混みを掻き分け出口を目指す


市場を抜けると、噴水のある少し広めの広場に出た

ここら辺で少し、情報収集でもするか

辺りを見渡し、話しかけやすそうな男性を探す

なぜ男性を探すのか、それは僕がホモだからではない

ただたんに、女性に話しかけるのが恥ずかしいからだ

声をかけられる分にはいいのだが、かける側となると⋯⋯恥ずかしいという、ちょっとめんどくさい性格

辺りを見渡すと金髪の、爽やかな青年が1人で歩いているのを見つけた

爽やかイケメンは、あまり好きではないが剣を越腰にぶらさげ鉄製の胸当てなどの装備を見る限りでは冒険者の可能性が高い

異世界と言えば冒険者だろ?

よし!君に決めた!

僕は、金髪爽やか君の所へ行き声をかけた


「あの、すみません」


「ん?何かな?」


金髪爽やか君は振り向きニコッと笑いかける

まっ眩しい⋯⋯これがイケメンの微笑み⋯⋯


「僕、今日初めてこの街に来たもので、その、道が分からなくて⋯⋯

宿屋の場所、教えていただけませんか?」


「そうなのか、それなら僕が宿屋まで案内してあげるよ」


「本当ですか!?ありがとうございます」


金髪イケメン君は見た目通り親切な男だ

すると、金髪イケメンはあっと何かを思い出し質問してきた


「君は冒険者かい?」


「いえ、冒険者ではないですけど?」


「そっか、冒険者なら、冒険者のための格安の宿があるのだけど⋯⋯⋯⋯」


格安の宿⋯⋯しかも、冒険者だって

願ったり叶ったりだ


「あの!僕冒険者になりたくてこの街に来たのですが、今すぐ冒険者になれますか?」


「あぁ、ギルドに登録すればなれるよ」


「冒険者、ギルド、魔法⋯⋯」


漫画のような世界


「ギルドには、どうやって行けばいいですか?」


「僕がギルドまで案内するから着いてくれば大丈夫だよ」


「いえ、そこまで気を使わなくても⋯⋯、道を聞けば多分自力で行けますので」


「気にしないで大丈夫、ギルドに用事があるからさどっちにしろ行かないといけないんだよ」


金髪爽やかくんに、お礼を言い着いていくことにした


歩き始めて数分後、今度は服屋や飯屋などの看板を下げた店がずらりと並ぶ商店街のような場所に出た

市場の通路よりも断然広い

馬車が通り人を運んだり、鎧に身を包む冒険者達が道の端で話し合ってたり、白い制服を来た集団が歩いていてたり、結構な人数がいる

広い通路の先には遠くからでも見える大きな建物が、

その建物には、真っ赤な布に金色の装飾がされた紋章が掲げられていた


「あれがこの街のギルドだよ」


爽やかくんはその建物を指さし言った

風になびく旗がまるで手招きしているようだった


それから、また数分歩きギルドの前に来た

ギルドは、僕の何倍も高い、巨大な木でできた扉が、外側に開いていている

木の香りが漂い、レトロな感じの内装

活気あふれる冒険者たち

ボードの前には集団ができていた


「少し此処で待ってて」


爽やかくんは真っ直ぐカウンターに向かい、カウンターに座るギルド職員に話しかける

すると、周りがざわつき始めた


「お、おい、あれってこの前Aに上がった、白薔薇のレオンじゃないか?」


「間違いない!あれはレオンだ!」


「握手してもらおうかな⋯⋯」


「おいおい、それよりかまず依頼受けろよなお前⋯⋯」


「レオン様!」


「レオン様素敵⋯⋯」


ギルド内から金髪イケメン君に向かっての黄色い声や、尊敬の眼差し

僕はすごい人に話しかけてしまったのか⋯⋯

爽やか君の背中を眺める

そんな中⋯⋯

次にスポットライトが当てられたのは──僕だった


「おい、ってことはあの黒髪は、白薔薇のやつか?」


「いや初めて見る顔だぞ」


「てことは、あの黒髪、白薔薇に勧誘されたってこと?」


「おいおいマジかよ」


「強いのか?」


「わからん」


「服装的とか雰囲気とかからすると⋯⋯」


「すると?」


「防具や武器が無さそうだから魔法使い系かな

魔法に自信があるのかもしれない」


「どっかのボンボンじゃない?服装的にさ」


「いやそれは無い

よく見ろ、コートはいいものだが

ボンボンがあんなダサい格好するか?」


「確かに⋯⋯」


来てそうそう変な注目を集めてしまった

服装についての指摘は地味に心にくる

自分が、この世界でどの程度強いのか、どの程度のレベルなのかわからないうちに、目をつけられるのは避けたかったのだが⋯⋯

仕方がない⋯⋯

爽やかくん⋯⋯お願い⋯⋯早く⋯⋯

心の中で懇願していると、入口の方から2人の美少女が歩いてきた

格好からして羽振りのいい冒険者だろう⋯⋯

1人は肩に髪がかからない程度の銀髪に、銀色に輝く胸当て、腰に差してある長剣の柄頭には赤色の水晶がハマっている、年は中学生くらいだろうか、とても可愛い

もう1人は、金髪で髪が長く、お嬢様風の美少女だ、銀髪美少女よりも背が高い、真っ黒なドレスでは隠しきれないほどのむね、武器は持ってはいないようだ

2人の女性は、僕の前で止まる


「おい、そこの少年」


銀髪の美少女は僕に話しかけてきた


「僕ですか?」


「あなた以外にだれがいるんですか」


「⋯⋯ですよね」


少し間を空けて銀髪美少女が他の冒険者たちの代わりに切り出す


「レオンがあなたを我々白薔薇の騎士団に勧誘したという話を今、初めて耳にしたのですが本当ですか?」


野次馬冒険者たちの視線が、身体中を刺す


「えっと⋯⋯僕はその、勧誘されていませんただ爽や⋯⋯レオンさんにギルドまで案内してもらっただけです」


僕が早口でそう言うと、銀髪美少女は淡々と


「そうですか、それは失礼しました」


と言いお辞儀した

そして銀髪は自分の勘違いを詫びおえるとレオンの元へとそそくさと歩いていった

金髪巨乳お嬢様は、嘘でも勧誘されたっていえば良かったのに、と僕に小さな声で囁くと銀髪美少女の後をおった


「なぁんだ違うのかよ」


「俺は最初から違うと分かってたぜ」


「さぁてと、酔いがすっかり覚めちまったから飲み直そうぜ!」


「ただのダサい男かよ」


どうやら僕から興味を失ったみたいだ


「君!こっちに来て!」


レオンに呼ばれたためカウンターに向かう


「さっきはすまない、僕の仲間が変なことを聞いたね」


「気にしないでください、勘違いは誰にでもありますし」


「そう言ってくれると助かるよ」


そう言うとレオンは、カウンターに座る女性に


「彼ががさっき話した人です、ギルド加入の推薦は僕が出したということでどうでしょうか」


「はい、大丈夫です、Aランクのチームからの推薦という事なので面接等は省きますね」


「あっ、ギルドや、依頼に関する基本的なことを彼に説明して貰えますか」


「わかりました、では、ここに名前を書いてください」


「はい」


カウンターの上に出された紙には、

ギルド加入申請書

【アラン王国アーガス都市部中央ギルド】

推薦者⋯⋯白薔薇の騎士団 (メンバー) レオン・アルベルト

新規加入者⋯⋯

と書かれていた

新規加入の所に三田 柊と書き、女性に渡す

女性は困った顔をして僕の方に話しかけてきた


「あの、代筆しましょうか?」


「え?」


自分で書いた字をまじまじと眺めるもきちんと三田 柊と書かれているのだが⋯⋯

カウンターの女性は僕の字が読めなかったのか、代筆を提案してきた

僕らのやり取りを不思議に思った白薔薇の3人が僕の書いた文字を見る


「これは、どこの文字だい?初めてみるなぁ」


「もしかして、書けなくてそれっぽく書いたのですか?」


レオン、銀髪美少女が言ってきた

もう一度よく読んでみると、自身で書いた文字意外は読めるが日本語ではなくどこか他の国の文字のようだった⋯⋯

ん〜読んだり話したり、聞くのはできるけど書くのは無理なのか⋯⋯

でもここまでしてくれるなら最後まできちんとしてくれよな、わざとなのか故意なのかあの自称神様の事だから分からないけど⋯⋯


「すみません、代筆でお願いします」


「かしこまりました、ではお名前をうかがってもよろしいでしょうか」


新たに紙を作成し、聞いてきた


「三田 柊です」


「ミタ・シュウさんですね」


「はい」


何事も無かったかのように進める2人をよそに、レオンたちは僕の書いた日本語を眺めていた


「ミタさん、それでは本日よりあなたは冒険者です

今日の月の刻にはギルドカードができるのでまたその時にギルドに来てください、ギルドカウンターは月の刻の7時までです、その他のギルドに関する説明はギルドカードをお渡しする際に話します」


「わかりました」


カウンターでの会話を終えるとレオンが切り出した


「そうだ、時間あるならこれから食事でもどうだい?」


「いいですね、でも用事があるのでは?」


「用事なら終わったよ、この2人とギルドで待ち合わせがギルドでの用事だったんだ」


「でも、初対面の僕も行っていいんですか?」


「ここで出会ったのも何かの縁だし、推薦したからには多少君に関する責任を、持たないといけないからね」


「ならお言葉に甘えて」


異世界の料理、食べ物を想像しつつ軽い足取りでギルドを後にした

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