カラクリ怪盗 少年ジライヤ

八乃前 陣

プロローグ クリスマニアの夜


 クリスマニア王国は、北に大きな山脈がそびえ、南に大海がどこまでも続く、洋の東西を陸海で繋ぐ交易の国だ。

 堅実な王政で治められ、治安も良く国土は広く、王都は高い城壁に囲まれていて、容易く攻略される事もない。

 安定した王国は経済も物品も豊かであり、異国や異種族の民も多く出入りし、それは繁栄するこの国の、別なる暗い一面を生み出し続けてもいた。

 王城を中心とした首都の、陽も風も温かい南側には貴族や豪族などが屋敷を構え、日も照らされず寒風吹きすさぶ北側には貧しき民たちが身を寄せ合い、今日を生きている。

 富める者も貧しきものも、種族だけには別もない。人類であれ亜人種であれ、それは悲しいほどに等しい現実。

 そんな北側の掘っ建て小屋群が、犯罪の主なる舞台となる事は稀だ。

 社会の裏側に根付く犯罪は得てして、東側の眠らぬ繁華街や出入りの激しい港町などで、夜を縫って行われる。

 月光明るい今宵も、やはり…。

 港の倉庫街の裏側で、闇の取引が行われようとしていた。

 四人の男たちが二組。

 それぞれ、金龍の彫刻が派手な鎧と、銀×字の眩しい鎧で身を固めている。

 共に、リーダーらしい男同士が一歩寄り合い、鋭い眼光で用心深く、言葉を交わす。

 そんな悪意が暗躍する港を見下ろす高い油灯台のてっぺんで、人知れずニヤニヤしている少年がいた–。

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