第3話

はぁ~。


 ドアを背に、大きなため息をつきをつく。

多少の罪悪感がないわけはないが、興味のない事に向き合うのは苦痛でも何者でもない。

 「ごめん、相馬さん」

 ドア越しに、すまなそうに相馬に平謝りをして、その場を去ろうとし廊下を歩いてると、岡安が壁に腕組みしながらニヤニヤと笑みを浮かべながら、庭山を見送っていた。

それに気づかず、通り過ぎようとすると、

 「おい」

 「うぁ!」

 「何驚いている」

 「い、いやだって・・・」

教室にいたはずの岡安が、いつの間にか廊下にいた事にあまりにも唐突さに、心臓が止まるのでないかと思うくらいお退きを隠せない。

 「だって、てなんだ」

 「教室に・・・」

 「いちいち細かい事、気にするやつだな」

 「気にするでしょ。さっきまで教室にいたのに、何で此処にいるんです?」

 「そういうもんだろう」

 「そういうもんて・・・」

 この人は、何なんだ。

そう思いながら、突っ込むのがバカらしくなり呆れたのか、相手にせず立ち去ろうとすると、岡安は扇子を取り出して庭山を指し、

 「いいのか?」

 「何をです?」

 「このままでいいのか?」

 「だから何です?」

 「このまま立ち去ったら、もうチャンスはないぞ」

 「チャンス?」

 「お前は、いま岐路に立たされているんだ。分かるか、このまま立ち去ってまた日がな一日、何事もなく楽しみもない学生生活を送るか、戻りあの扉を開け、この先今までとは違った新鮮で刺激的な学生生活を送るか」

 「別に、このままでもいいですよ。刺激なんて欲しくないし」

 「本当にそうか?」

 「どういう意味です?」

 「・・・相馬さん・・・」

 ぽつりとその言葉をつぶやくと、庭山は驚いた表情しながら振り向き岡安を見つめる。

その焦りの態度に、笑みを浮かべ、

 「あの子はいい子だよ。献身で責任感が強い、それに清楚で可憐だ」

 「うっ・・・」

 「そんな彼女をそのままにしていいのか?」

 「そのままって、大げさな・・・」

 「いや、大げさではないぞ。お前が入部しなかったことにより、相馬は部内で信用を失なってしまったんだ」

 「だ、だって、それは」」

 「責任感の強い彼女はどうだろうね。孤立した彼女は、部に居られなくなり、折角の居場所が無くなり、今後学生生活は創造絶するほど不幸になるだろう」

 「そんな事に、なる訳は・・・」

 「いんや、人の人生はどうなるか分からんぞ」

 「・・・」

 「だが戻れば、彼女の業績は上がり、お前も彼女と親密になる可能性があるぞ」

 「し、親密!?」

 「先ほど、お前と相馬のやり取りを見ていたら分かる。お前が、相馬に気があるのは」

 「相馬さんとは、殆ど話したことない・・・し」

 「だったら、入部すればいくらでも彼女と話をすることが出来るばかりか、手を繋ぐ事さえ出来るんだぞ」

 「て、手を!」

 「そうだ。だが、お前には言葉が足りなすぎだ、てか言葉のキャッチボールが満足にできてないぞ」

 「だって、口下手で・・・」

 「だってもくそもない!。口下手なんぞ理由にではない、単に相手の心を掴む努力も空気を読む事もできてないだけだ」

 「それは、そうですけど」

 「まぁ、いくら何でもすぐにそれをやれと言っても出来るもんじゃない」

 「では、どうすれば?」

 「それは、これだ!」

岡安が手に出したのは、先ほどまで読んでいたTRPGの本だった。

 「こ、これ?」

意外な物を取り出した岡安を目を白黒させて、

 「何で・・・」

 「いいか、TRPGは言葉と言葉の攻め合いだ。喋らなければ何も始まらない、進まない」

 「じゃ、これで・・・」

 「そうだ!。これで、会話のキャッチボールや空気を読めるようになれば、相馬と線っ金することが出来るばかりか、ボキャブラリーが増え会話も弾むという分けだ」

 「おおっ!」

 「さあ、これが最後のチャンスだ」

 良い様に丸め込まれている感じではなあるが、確かにこのまま去ってしまったら、もう相馬さんと話す機会もないだろうし、何より彼女の顔を見るのが怖い。

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