第5話

その様子を見た部室にいた全員が、緊張の糸が切れその場に崩れ落ちる。

 「まいったな。これじゃ、名義を借りることも出来ないな」

 「そうね、この時期じゃめぼしい人は粗方、他の部に入部してるだろうし」

 「そもそも、絵画とかやりたいのなら、あっちに行っちゃってるよ」

崩れ落ちた新井、相馬、仁井田は、立ち上がりながら今後の心配をした 

 「こりゃ、八方塞がりで、笑うしかないか。アハハハ・・・」

 藤田部長は、椅子に座り直しながら乾いた笑いが虚しくこだまする。

 「藤田、笑い事ではないぞ」

 「そうは言いましてもね、岡安先輩」

 「ええい、そんな弱気でどうする!」

 4人の落胆した表情を見て、岡安は椅子に腰掛けふんぞり返り喝を入れ始めた。

 「創立以来、我が伝統ある元祖美術部の存亡の危機にさらされているのだぞ。もう少し危機感を感じろ」

 「確かに、廃部はいやだな私」

 「ゲームもできなくなるしな・・・」

 「私、あっちに行くのやだ。息苦しい」

 「まぁ、俺もアート絵画部の空気はは馴染めんしな。それに、ゲームが出来なくなるのはね・・・」

 「そうだろ、そうだろ。有史以来の最大の危機を乗り越えなくてどうする。そもそもだな、たかだか数年しか歴史のない新参者に、伝統ある元祖美術部の深い歴史の重みを背負えるはずもないだろう。なにより、楽しいTRPGセッションする場所が無くなってしまうではないか」


結局そっちかよ。


そう思う一同は、ツッコミを入れたくなるが、そんな様子を知るはずもなく、椅子から立ち上がり、片足を椅子に載せ遠い目をして、

 「聞こえるか、この部室で数多くの部員が、共に笑い友に泣き、苦難を乗り越え巣立って行った先輩たちの語らいが・・・」

 「岡安先輩」

 自己陶酔している岡安を止めないと、何時までも語るだろうと思い、相馬は手を上げて発言をする。

 「なんだ、相馬?」

 「確かに、名義だけの部員はダメと言ったけど、一応二学期中に部に存在していれば問題ない訳でよね」

 「だから、それを今話してるんだろうが」

 「ですから、有望な部員では無く、体験入部という形で募集すればと」

 「体験入部だ?」

 「ええ・・・。そうすれば、絵とかが描けなくても大丈夫ですし、こういった形なら誰でもいいから入部させられるかと」

 「確かに、それなら誰でも入部出来るが」

 「でしょ」

 「そんな都合よく、体験入部する奴がいるか?。第一、今の今まで、入部する人間がいなかったんだぞ。どっから探す?」

彼女の意見に、些か怪訝な顔をしながら目を見た。

一瞬たじろぐ相馬だったが、瞳の奥には何かありそうな雰囲気を醸し出す。

それを感じ取った、岡安は真剣な顔をして、

 「・・・心当たりがあるのか?」

苦笑しながら頷く。

 「いると言えば・・・、いるんですけど・・・」

 「どっちなんだ、はっきりしろ」

 「クラスに、何処の部に所属していない人がいまして・・・。所謂、帰宅部?」

 「帰宅部か・・・。しかし、直ぐに辞めてもらっては困るぞ」

 「それは・・・もう・・・、大丈夫かと・・・」

お互いの目を見つめ合い、納得はしていないが、取り敢えず相馬にこの件は任せるとする判断を岡安はしたらしい。

 「まぁ、よかろう。新入部員の件に関しては相馬に任せる」

 「あ、はい」

 「首に縄をつけてでも連れて来い。これは、至上命令である」


藤田部長、新井、仁井田の3人は、面倒な事をせずに半ばホッとするのと同時に、神頼みならぬ相馬頼りとして、柏手をし拝むのであった。

それを見た相馬は、部の存続の為とは言え、余計な事したと思い後悔の念をする。


 「はぁ・・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る