2.廃部

第1話

 「で?」

 「はぁ・・・」

 「「はぁ・・・」じゃなくて、どうなっているのか聴いてるんです!」

 「そう、言いましてもね・・・」


 神鳥谷高校生徒会長代理人兼会計である甲葉 亜佑美は、両脇に副会計の中里、書記の広田を従え、眉間にしわをよせ腕を組み、明らかにイラついた様子で仁王立ちしていた。

漆黒の腰まである長い髪を毛先を切りそろえた、所謂姫カットにした古式日本アウラ思わせるその姿とは裏腹に、強引な性格で物事を押し通そうとするその態度には生徒からは敬遠される所もあり、皮肉を込めて”お菊会長代理”と呼ばれている。


 「もうすぐ、夏休みに入ろうとしているのに、まだ部としての規定人数に達していないのは、この美術部だけなのですよ」

 「それは、まぁ、わかったいるのですけどね・・・」

 元祖美術部部長藤田孝之は、そんな様子を困った表情をしながら笑みを浮かべてはいるが、眼鏡の奥の瞳は笑ってはいななかった。

一見、人あたりが良さそうな雰囲気をしている藤田部長だが、目の奥は何を考えているか分からない人の為、甲葉会長代理とは対立しやすいが、本人はそれをのらりくらりとかわし続けていた。

今回も、椅子に腰掛け扇子を仰ぎ、暑さをしのぎながら頭を掻いて、甲葉会長代理を見上げてそうするつもりだったが、今回の甲葉会長代理は何時もと違っていた。


 「分かっていない!」

部長の前にある長テーブルを両手で、叩きながら怒鳴り声を上げる。

 「おいおい、そんな大声で騒ぐな。他の生徒に迷惑になるだろう」

 「好きで怒鳴っている訳ではありません!。第一、なんで部外者であるアナタがこの部室にいるのですか?」

 「そりゃ、OBだからに決まっているだろう」

 当たり前の様に、さも当然としながら二人のやり取りを美術室物置兼部室の窓際に椅子に腰掛けて見ていた、元神鳥谷高校元祖美術部部岡安 京太郎。

長身長髪と、黙っていいればそれなりのイケメンなのだが、何処となく他とは違う独特な雰囲気を漂わせている。

そんな岡安が、足を組み替え腕を組みふんぞり返り、呆れた顔をしながら部室に居る事が当然という感じで甲葉を見ていた。

 「なんなんです、その態度は」

今にも岡安に掴みかかろうかという姿勢になると、細身でセミロングの髪型で一見清楚な感じを思わせる出で立ちの1年生部員である相馬。


二人の間に割って入り、宥めようとする。

 「まぁまぁ、お菊会長代理落ち着いて」

 「だ~れが、お菊会長代理ですって~」

鼻息を荒くして、相馬を睨みつける。

 「え・・・、あっ・・・」

普段、会長代理を陰で揶揄する時に使う、あだ名を思わず口にしてしまって、まずいと一瞬口ごもる。

 「よ、様は、規定人数になるあと一人を入部させればいいんでしょ・・・ ね?」

誤魔化すように小首をかしげながら、甲葉会長代理の気迫にたじろぎながらも尋ねる。

 「ふん。今まで、入部しなかったのよ。今更・・・」

 「ですよね」

 「藤田部長、今置かれている状況を自覚しなさいよ」

 「そうだぞ藤田、少しは自覚をだな・・・」

 「アンタは、黙っててて!」

 「はい・・・」

甲葉会長代理の一喝に、流石に岡安は圧倒されてしまう。

 「はぁ~」

大きなため息をつき、精神を落ち着かせ、部室を見渡しながら、

 「いい事、あなた達は自分達らが置かれている現状を理解しているのかしら?」

何を言い出すんだろうと、 会長代理の動向様子見する部員一同。

 「ここ数年、賞を取るどころか、コンクールにさえもろくに作品を出品しいない。それに・・・」


 「「「それに?」」」


甲葉会長代理の次の言葉がなにか、3人はわち詫びるように体を乗り出す。

 「これよ!、これ!」

そういいながら、壁の本棚を指差す。

本棚には、壁を埋め尽くす程のボードゲームとアナログなゲームとTRPGテーブルトーク・ロールプレイング・ゲーム アナログなゲームが大量に鎮座していおり、その中に漫画や小説アニメ雑誌など、およそ美術には関係のない雑誌もが、本棚を占領していた。


 「これとは失敬な、此処にあるゲームは絶版のもある貴重なものなんぞ」

岡安は、不機嫌そうにしながら棚を叩いて反論する。

 「此処は、何部です?」

 「元祖美術部だが」

 「分かっているのであれば、本棚の物を何とかしなさいよ。美術部として活動らしい活動はしていないくせに、こんなもで遊んでばかりで」

 「だからこんな物ではなく、ボードゲーム、シュミレーションゲーム。TRPGだと言ってろううが。それに、元祖をつけろ元祖を」

 「そんなのは、どうでもいいのよ!」

 「どうでもいいとは何だ。どうでもいいとは!」

 今にも、岡安と甲葉会長代理は今にも取っ組み合いの喧嘩でもするかの如く、にらみ合い、一色触発になってしまう。

 藤田部長、相馬、それと生徒会副会長、初期は流石に二人の様子に困惑してしまい、取り押さえようと近づく。

 「二人共、ちょっと・・・」

 「たくぅ、さっきからうるさいな~」


藤田部長が、何か言いかけようとしたら、部室の奥から今までの様子の我関せつせずといった態度で、ひたすらスケッチブックに描いていた人影が口を開いた。

相馬よりも小柄で栗毛の巻き毛をロングにした、元祖美術部部員の2年生仁井田珠代が、スケッチの邪魔をされて不機嫌になっている。

 「そうだぞ甲葉」

 「岡安先輩もうるさい」

 「おいおい、俺はだな・・・」

 「うるさい」

 「うっ・・・」

仁井田の瞳は、まるで殺意でもあるかの様な鋭い眼光で睨む。

 「確かに、コンクールには出展はしていませんが、珠ちゃんは・・・ほら、こうやって部活動でデッサンしていますし・・・、今はまだ来ていませんが、新井先輩もいますし・・・」

フォローするつもりで弁明するが仁井田は、

 「私は、今度のセッションのキャラ設定を考えていただけだよ」

 と、いいながらスケッチブックをみんなに見せる。

 「また、筋肉ですか」

藤田部長が問いかけると、笑みを浮かべて頷く。

そこに描かれていたのは、筋肉質な中年男性の部位やポーズなどが描かれていた。

筋肉美をこよなく愛する彼女は、部の中ではデッサン力に優れ有望株とされているが、如何せん男性の筋肉しか描きたがらない偏った性格をしているので、扱いづらい彼女は自由にさせている。


 「「「「「「はぁ~」」」」」」


笑みを浮かべている仁井田に、部屋にいる一同は深い溜息を吐きながら、現状を理解してくれと言わんばかりの重い空気が部室に漂わせる。

そんな状況を意に介さない仁井田を見て、

 「仁井田さんの才能は偏ってるけど、この部にいるには惜しい人材よね」

仁井田のスケッチブックを見ながら、甲葉会長代理はどうしたもんかと、腕を組み近づいていくる

 「いっそ、アート絵画部の方に入部しない?。どうせ、美術部は無くなるんだし」

 「おい、仁井田はやら・・・ちょっとまて甲葉、今なんて言った」

 「何って、美術部は廃部と言ったのよ」 

部室に、一瞬時が止まったような静寂が訪れる。


 「「「「ええっ!!」」」」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る