メイド喫茶豚と人生の長い夏休み

東雲ゆう

第1話 か弱い女の子をイジめる最低なプロローグ

 とある昼下がり、ある一軒のメイド喫茶での出来事だった……。


 まだ日差しが燦燦さんさんと照らす日中にも関わらず、店内のカーテンは全て閉め切られていて、外からの視線を一切受け付けていなかった。

 机上のスタンドライトが、薄暗い室内をぼんやりと橙色だいだいいろに照らし、闇から浮かび上がらせている。

 そして、シンと静まり返った空間には、誰一人いない。

 ——秘密の行為をするにはもってこいな雰囲気だった。


「へへ、とうとう二人きりになったね、これでもう邪魔する者はいない……」


「ま、待って……そんな、まだ良いとは一言も……」


 気の弱そうな少女の声が聞こえてくる。

 男は嫌がる彼女の首に手を回して拘束し、巧みな話術で上手くこの部屋へと誘導してきた。

 そして、彼女をソファへと座らせ、テーブルを挟む形で男はドカッと向かいの椅子へと座り込んだ。


 委縮いしゅくした少女は怖がったまま、身動き一つ取ろうとしない。

 一方、男は愉悦ゆえつに浸った表情で彼女を眺めている。



 ——実はこの二人、主人とメイドの関係なのである。



 掃除、洗濯、給仕など様々な案件をこなすのがメイドの役割。いつものように呼び出され、そんな仕事を振られる。今日もメイドとしての一日が待っていると思っていたのだ。

 しかし、彼女は今回だけは何かがおかしいと直感的に感じていた。何故なら突然、強引に、私をこんな所へ連れてきたのだから。

 すると、男はパサリとテーブルの上に一枚の紙を置いた。


「抵抗するのかな、こっちにはこれがあるんだよ?」


「そ、それは……っ!」


 驚くのも無理はない。

 彼女にとって見覚えがあり、間違えようのない代物。

 ——弱みを握られているのだ。


 よわい十七にして、彼女はもう無理だと悟ってしまった。

 一度彼に従事すると決めた時から、手遅れだったのだ。


 そして、それを監視する者、とがめる者は誰もいない。

 そんな一つ屋根の下で、ご主人様とメイドの二人きり。もちろん、間違いが起こらないわけもなく……。



 ◆◆◆◆



「ほらここ、こんなに膨らんでる……しかも熱くなっちゃってるよ?」

「な、なんのつもりですか……!」


 そのれ尽くしたマンゴーのように豊満ほうまんで、たわわな膨らみを男は指を刺す。

 そこから立ち昇る熱気にやられ、彼女はつい狼狽うろたえてしまう。


「や、やめて……」


 無理矢理やらされるなんて本当は悔しくて仕方ないハズだ。

 けれど、彼女には男の言う事には従わなければならない理由がある。


 だから、この男の無茶な要求にも耐えて見せなければならない。

 それよりも、彼女は今から命令通りにこれに手を下す事に対して、上手くできるだろうか……と緊張で腰が浮付いてしまっている。


 また、聞こえていないだろうか、バレていないだろうか……それが気掛かりで、彼女は自身の胸に手を当てた。拍動が身体を伝い、自分の心臓の音がはっきり聞こえているようだ。

 男に悟られていないかチラリと目線を上げる。すると、何かを察した男が口を開いた。


「じゃあここに、これを流してみようか?」

 男にボトルのようなモノを渡された。

 彼の喜悦きえつしずくが、ドロリと内側を満たしている。

 何に使うかなんて、見れば一目で分かる代物だ。


 触れると、ヒヤリとした冷たさが手の神経を逆撫さかなでし、彼女を身震いさせた。

 結露けつろだろう……その表面には官能かんのうしたたりりが浮かび上がっている。


「最初は簡単だからさ、やってみなよ」


 男が口角を上げ、快楽的な笑みを浮かべている。

 彼の優しい言葉の裏には、彼女への嗜虐心が含まれているのだ。


 しかし、彼女は嫌だとは言わなかった——なぜなら、男が弱みを握っているからだ。


 だから、実質的に指示というよりかは命令だ。

 けれども、まさか、こんな事になってしまうなんて……。


「どうしたんだい、早くしないとどうなっても知らないよ?」


「わ、わかってます……っ!」


 男は焦る彼女の心に警鐘けいしょうを鳴らす。

 ……逃げられない。そう思った彼女は覚悟を決めた。


 その結合された尖端せんたんを外すと、カポッ……と悩ましい蓋のが鳴った。

 ふと、顔を上げると彼と視線が合う。

 その様子をみていたご主人様が、ニヤリと不敵ふてきに笑った。


「良い音がしたねぇ……」


 男は思わず興奮の声を上げた。

 この世のものとは思えないほど甘美かんびな音に加え、そのボディのりに眼を奪われてしまったのだ。


「へ、変な事を言わないでくださいっ……!」


 あおりり言葉をムキになって返すなんて、心の余裕がなくなっているのかもしれない。彼女も一体どうしてしまったのだろう。こんな男に良いようにされて……。

 冷静になる事さえも彼は許してくれない。


 これは弁が立つとはまた違う。

 ただ純粋に、彼女の弱みの底までを知っているだけ……本当に非道で最低な男だ。


「まずはここを当ててごらん?」


 男は二本の指で、薄い粘膜を撫でるように合図した。

 まるで、火山の奥深くでさえもこねくり回すような手つきを彼女の目の前でしてみせた。


「分かってます……やればいいんでしょう!」


「良い姿勢だね、ご褒美に腰が砕けるまでシてあげようか?」


「だ、ダメですっ……こんなの何回もしちゃうと私……」


「まぁでも、今はそこまで時間がない。時間の限りたのしもうじゃないか」


 もっと強く言い返そうにも、男の仕返しが怖くて言葉を選んでしまうのだ。

 そして、男の言うがままに優しくそれを握ると途端に形を変えた。

 彼女は、ひっそりと恥ずかしげに閉ざされていた禁断の扉から、蜜と鮮血が混じり合ったかのような濃密な液体をソレに付着させていく。


「お、おぉっ……いいじゃないか!」


「ひゃっ、へ、変な声出さないでください……」


 男の感嘆に彼女は眉をひそめた。そんな彼女の態度を見かねた男は、フッと微笑み肩を揺らしながらなだめようとする。


「いいじゃないか、僕の初めてを奪ったんだからそれなりに喜んでほしいものだけどね」


「それって……誰にでも言ってますよね……!」


「嫉妬かい? そんな可愛い顔してそんなことを考えるのか、ますます君を知りたくなってきたよ」


 男は言葉の一つ一つに揚げ足を取ってくるので、彼女は嫌そうな表情を浮かべている。しかし、身体は正直で彼女の痴肉ちにくはモロに反応してしまう。


「あ、今喉元に触れたね。さっきは顔……いや、胸だったかな? その前は太腿ふともも……君って余裕がなくなるとすぐどこか身体の一部に触ろうとする。感受性が強いんだね……言葉に敏感で、繊細で、それでいて我慢強い……すごくわかりやすくて可愛いよ」


「そ、そんなこと……っ!」


「今は手を動かさまいと唇を結んだね? だから虐めたくなるんだよ」


「っくぅぅ……」


 男は彼女の弱みを鷲掴わしづかみにして離さない。激しい言葉のピストンによって、彼女を攻め続ける。しかし、その情欲の炎で彼女の腰骨は蕩けそうだった。

 男は人がどう思うか、どう感じるかを気にはしない。自分の欲棒を満たすためだけに己の思考を集中させる。今の彼には抑制がきかない、欲望に忠実なしもべであった。


「集中……させて、お願い……っ」


 彼女が堪え切れずに、うめきを漏らすように呟いた。


「仕方ない、それが終わるまで待っていてやろう」


 完全に気は抜く事は出来なかったが、彼女はそのたわわに実る一房ひとふさに集中した。

 両手で掴んだ巨根きょこんたぎりを絞り、溶岩流を作る。そして、それが下へと滴ると、泥濘でいねいの沼が形成された。

 それを塗り終えたところで彼は提案した。


「キレイに出来たね、初めてにしては上出来じゃないかな? そろそろ次へ行こうか」


「つ、次って……?」


 その言葉に、ゆっくりと彼の顔に快楽的な笑みが広がる。椅子の背もたれに手をかけ、足を組み、姿勢を楽にした彼はその細めた目で、彼女を見つめながら言った。


「もちろん、入れるんだよ?」


 その言葉に彼女の筋肉が強張り、肩が上がった。


「な、何をでしょうか……?」


 頭の中で、考えられる危険性を特定しようとする。

 事態が悪化する前に、問題の大元を見つけようと様々な質問を投げかけた。

 しかし、望むような答えは得られず、結局彼女は喉が塞がる思いのままだった。


「分かるよ、君の意図は。おおよそ相手の目的を知るために、わざと答えが分かっている質問をしているんだろう……つまり時間稼ぎさ。そういう子は皆、伏し目がちにこちらを見るからね」


「あ、あぁっ……」


 全て男にはお見通しという事だろう。彼女は落胆らくたんしたように肩を落とした。

 探るような質問はやめ、彼女は相も変わらず怪訝けげんそうな表情で涙目になりながら、弱々しく問いかけた。


「どうして……っ、他にも、私以外にもいるでしょう……っ! どうして私なの……」


 睨み返す瞳も力がない、そんな彼女に嗜虐的しぎゃくてきな笑みを浮かべながら答えた。


「——君が欲しいからだよ」


 独占欲を正当化する答えだ。短くて、はっきりと分かる言葉を堂々と述べた。

 男は陶酔感とうすいかんに溢れた顔付きになっていた。

 気持ちを口にした事で目的に近付き、更に自信を得たのだろう。

 そして、彼は椅子から立ち上がり、彼女へ一歩踏み込み、ソファへと腰掛け、距離を縮めた。


「い、いやっ……」


 懇願こんがんのつもりだろうが、男に止める気はない。

 それに、そんな事で止めるようなら、このような状況にはなっていない。

 だが、彼女の僅かな抵抗で思い通りに行かぬので男は眉間に皺を寄せ、ダンッとテーブルに手を突いた。


「……俺は短気なんだ、さっさと諦めてくれないか」


 先ほどより鋭く、重い口調だった。

 うんざりしているかのように彼女を見下し、深く溜め息をついた。


「ご、ごめんなさい……わかりました、やりますからっ……お、怒らないで……」


 ぎゅっと手を握りしめながら、声を振り絞った。

 ——もう、言葉尻には力がない。


「……よく言えたね、偉いよ」


 褒めながら彼女の頭を撫でるが、彼の凍り付いた笑顔はどこか安心できない。

 だが、差し伸べる男の手は彼女に近付いていく。彼女も諦めたかのように彼に身を捧げた。

 それは慈愛じあいに満ちた小悪魔と、導きを求める子羊の姿だった——



「キモ、なにやってんのアンタ達……」

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