第47話 神様の湧き水
文緒は地方の山奥にある神社に、彼女と二人で旅行に行った。
現地のガイドボランティアの人がいて、境内のことを説明してくれた。社の裏手に小さな崖があり、蛇口をひねったくらいの細い水が流れおちていた。
「これは山から流れてくる神聖な湧き水です。不老の滝と呼ばれています。美容にたいへん効果があり、年をとらなくなると言われています。ただし、この滝の水を人間が飲むことはできません。これは神様のものですから」
ちょろちょろ流れおちる滝には、とてもそんな神秘的な力があるようには見えない。
「じゃあ、次はこっちに来てください。説明しますよ」
ガイドのあとを文緒はついていった。
そのとき、彼女がなかなか来ないので、チラリとふりかえってみた。
すると彼女は滝の水を手に受けて飲んでいるところだった。文緒の視線に気づいて、急いでかけてくる。
「何してんだよ」
「だって、美容にいいって言うし。不老だよ。やっぱ憧れるよぉ」
文緒はあきれたものの、女ってそんなものかと思い、黙って歩きだした。
境内をひとまわりしたあと、文緒と彼女はガイドに礼を言って、神社を立ち去ることにした。
だが、鳥居をくぐろうとしたときだ。
とつぜん、彼女が「プシュッ」と奇声を発した。炭酸飲料の栓でもぬいたような音だ。
「今度は何?」
ふりかえった文緒は愕然とした。
彼女の口から水が噴水のようにあふれている。最初は透明な水だったが、いつしか血のようにネットリした赤い色に変わる。
「お……おい、大丈夫か? どうしたんだ?」
おわてて声をかけるが、彼女は白目をむいたまま赤い液体を放出し続けた。
やがて、体中の水分がぬけきった彼女は、カラカラのミイラになった。
生きているように美しいミイラだ。
永遠に年をとらない……。
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