第28話 ピンポン
ピンポーン——
玄関のチャイムが鳴る。
まただと、文緒は苛立った。
最近、どうも同じマンションの子どもがイタズラしているらしく、ひんぱんにチャイムが鳴らされる。朝早くから夕方ごろまでだ。時間帯から言っても子どもの仕業に違いない。
急いで魚眼レンズをのぞいても、タイミングが悪いのか、誰の姿も見えないが。
昼間は仕事に行っているから、鳴らされていても支障はない。だが、せっかくの休日に起こされるのは、ほんとに腹が立った。
今日も待ちに待った土曜日だというのに、朝八時に起こされた。
それでなくても半年前から気のふさぐことが続いていたので、休日くらい何も考えずに眠っていたい。
文緒は我慢の限界に達して、玄関まで走っていった。勢いよくドアをあける。が、外の廊下には誰もいなかった。すでに逃げたあとらしい。
文緒はため息をついてドアをしめた。でも、あきらめたわけじゃない。今日はもうちょくせつ文句を言ってやらなければ気がすまない。
玄関に近いダイニングキッチンでソファーによこたわりながら、次の襲撃にそなえた。
ピンポーン。ピンポン。ピンポーン!
来た!
三十分もしないうちにチャイムが鳴らされた。今度はラッシュだ。
文緒は音が鳴りやむ前に玄関ドアをあけはなった。
子どもが立っていた。
七歳くらいの男の子で、たしかに同じ階の住人だ。通勤前、エレベーターでたまにいっしょになる。
イタズラなどしそうにない印象の子どもだったので意外だった。
逃げだそうとする子どもの手をつかんでひきとめる。
「こら、なんで、こんなことするんだ。迷惑だろ?」
「ごめんなさい。ごめんなさい。でも、人に頼まれたんだよ。ほんとだよ。なかに入りたいけど自分で鳴らせないから、かわりに鳴らしてって言われたんだ。おこづかいは貰ったけど……」
嘘をついているふうではない。
「誰に頼まれたんだ? 大人?」
「優しそうなお姉ちゃん」
そう言って、男の子は玄関口に飾ってある写真を指さした。
「この人だよ」
そこには、半年前に交通事故で亡くなった恋人が写っている……。
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