小さな魔術師

門田真青

プロローグ


「エイス・ワイス・トラルド……」

 呟くように詠唱する。

 周囲の音が止み、自分ひとりだけが、この広い空の下、浮いているようだ。

 目を瞑り、大きく息を吸う。

 瞼の裏に大きな入道雲が移り、視界がその中へと潜り込んでいく。

 雲を抜けると広がる、緑豊かな世界。川が流れ、鳥が鳴き、魔術師たちが自由気ままに喋り歩いている。

 君と、共に、歩くために。

「クラッセル!」

 目を開き、そこから自らと魔法を、飛び立たせた。

 一瞬にして視界が開け、眼前には波打つドラゴンの尾やその背に乗る魔導士の服の裾がはためいてる。

 遠く眼下には豊かな森が広がり、川が流れ、山々が見える。

 その光景のど真ん中で、真っ赤なローブに身を包まれた魔導士が、こちらを見ている。

 目が合った。

 にんまりと、口の両端を上げる。

 赤の魔導士が、両手を広げた。

 唸りを上げて業火が迫りくる。

 それでもその中へ、錐揉みするように身を投じる。

 眼前が、鮮やかな橙に染まった。

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