残念女子高生の異世界願望

きりてゃん

第1話 立花 綾

 彼女は、静かに何かを待っていた。大空には、優雅に駆け回る鳥たち。気持ちの良い春のそよ風と共に桜と蝶々が舞踊っている。


 ここは河川敷の土手である。土手と言っても青々しく小花が咲いており、近くには散歩コースや少年たちがキャッチボールをしたりなど遊べるスペースがある。


 誰もが予想だにもしていなかっただろう。


「来た……」


 微かな声でつぶやくと彼女は目を大きく見開き叫んだ。


「ここが異世界かー!!!!」


 瞬間、彼女の声がこだまする。散歩をしていた柴犬が少女を見て吠え始め、周りにいた人たちは一同に彼女の事を見つめ、皆同じ事を考えていた。


「「「なんだこいつ……」」」






 彼女の名前は、立花 綾たちばな あや15歳、今年から世間で言われるところの華のJKである。


 栗毛のショートヘアに整った容姿、身長は平均よりやや高め、スタイルは身長の割には足が長くいわゆるモデル体型である。


 つまり、可愛いのである。とても。

 その分、残念なのである。全てが。


 綾が、どうしてこうなってしまったのかと言うと、その趣味にある。

 休日は、外でタピタピして映える〜(笑)とか言ってる他の女子たちとは違って、家でオンラインゲームや貯めたアニメの消費、ネットサーフィンをしたりと満喫している。


 友達から遊びに行こうと誘われても

「あ、私新作のゲームしなきゃだからごめち!」

 と、返すほどである。そう、オタクとしての格が違うのである。


 だから決して、日々の生活で病んだからなどではない。ただただ残念なのである。






 次の日、綾は学校に向かおうとしていた。


「今日も頑張ってね!…て、あんたパンなんかくわえていくの!?」

「異世界が私を待っている…」

「また、わけのわからないことを言ってるの…?まぁ、気をつけて行ってくるのよ!」

「わかってるって!いってきまーす!!」

「……ほんと誰に似たのかしら」


 我が子ながら心配する母を、綾は気にも止めずただ走る。そう、自分の目的のために。


 綾にだって恥じらいはあった。昨日叫んだあと、今か今かと待っていたが結局何も起こらず、ただの笑いものにされたのがじわじわと綾の心をえぐっていた。


 挙句に、日が暮れる際に帰りがけの野球少年たちから


「まだ変なやついんじゃん…やば…」

「おい見るな、病気が移るぞ」


 と、言われたのがトドメの一撃だった。


 春とはいえ夜になればまだ寒く、家に帰ると冷えた体と心を癒していた。暖かい飲み物を片手に恋愛漫画。数秒して彼女は言う。


「異世界は突然に。か……」


 こうして誰にも迷惑をかけることなく、そして自分が恥ずかしい思いをせずに異世界に行くため出来上がったのが、この【ドキドキ!?角から異世界来ちゃった大作戦!】である。


 つまり、パンをくわえて走っていると角からものすごいスピードで大型のトラックが走ってくる。それにぶち当たれば異世界に行ける、というものだ。


 なんと彼女は、トラックには人が乗っていて、それが物を運んでいるとはこれっぽっちも考えいないのである!


 なんて自分は頭がいいのだろうか!そう感動しながら、るんるんと走っている時であった。曲がり角の向こうから何かがものすごい音をたててこちらへはしってくる。

 綾は、それに胸を躍らせて無我夢中に走っていく。


 一方、曲がり角の向こうでは、


「やっべー遅刻遅刻!入学初日なのに遅刻するとかまじありえねぇ!急がねぇと!」


(俺の名前は中野 翔也なかの しょうや!! 俺は今日この日にかけて念入りに準備してきた……


 俺の通学路であるこの道を使うであろう女の子をリサーチして特に俺が好みなタイプをピックアップ!ダントツ一位で可愛いあの子を見つけた。


 そして、今朝は太陽が登る前から身支度を済ませ五時からあの子の家の近くで待っていた。そしてついさっきだ、あの子が家を出た。彼女を見た瞬間急いで先周りをした……何故かって?パンをくわえていたからだ!!


 女の子が入学初日にパンをくわえている理由はひとつだろ?


『少女漫画のラブコメ展開』


 そっちがその気なら答えてやるのが男の心情ってもんよ!!……よし、この曲がり角だっ!!)


 そして案の定、交差地点で綾と翔也がぶつかる。


 どーーーーーーんっ、、、、


 曲がり角で”何か”とぶつかった綾は、目を閉じた…。そして、普通なら痛がる素振りを見せるのであろうが綾は違った。


「私にもついに来たのね……」


 それを聞いた瞬間、ぶつかった翔也は心の中で頷きながら

(そうさ。そして俺にも来たんだ…青春が…)

嬉しさで満ち溢れている。宙に浮くような高揚感だ。


 しかし、翔也は綾の言葉を聞いて地面に叩きつけられる気持ちで我に返る。


「異世界転生…来たァァァァァァ!!!!」


「………なんだこいつ……。」

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