デカルトちゃんはとりあえず否定から入る

ちびまるフォイ

この小説が本当に書かれているという証明は?

「君カワイイね。実はそんなイケてる君にだから教える

 簡単ですぐにたくさんお金がもらえるいいバイトがあるんだ。興味ない?」


「否定しますっ!」


デカルトちゃんは高らかに否定した。ここまでコンマ2秒。


「まず前提として私がカワイイという部分は何をもって証明されるんですか?」

「え?」


「私がカワイイという確証もない前提でバイトを進めるとかおかしいですよね。

 そもそもそのバイトが存在を証明できるんですか?」


「こ、この先にいったいかがわしい店にいけばすぐ紹介できるよ」

「つまりこの場では証明できないと?」


「そうそう。あくまで俺は紹介だから……」


「その店が存在するという証明はどうやってできますか?

 あなたが紹介役だという証明は? その店の紹介役としてあなたが――」


「ああもううるせぇなぁ!!!」


スカウトマンは考えうる限りの捨て台詞を吐き捨てながら去っていった。


「すごいねデカルトちゃん……」

「な、なにが?」


「大人の男性相手に一歩も引かなかったじゃない」


「私、どうしても人の話を聞くと必ず否定から入っちゃうだけだよ」


「黙っているとカワイイのにって男子が言ってたよ」

「何をもってその噂が存在証明できるの?」

「残念だなぁ……」


友人は頭を抱えてしまった。


デカルトちゃんは生まれて産声をあげる前に「我思う故に我あり!」と叫んだことは

もっぱら出産を受け持った産婦人科スタートで大いに広まった。


産後3秒でこじれた正確になったにも関わらず

容姿はみるみる美人と呼ばれるストライクゾーンをど真ん中に突き進んだ。


けれど、男子から告白されるよりも早く

「親が私の親である証明」を夏休みの自由研究で発表してドン引かせたために

容姿に騙された男子が純情を食虫植物のごとく捕食されるのは防がれた。


「あなたがデカルトちゃん?」


「はい。私がデカルトです。こちらがその証明です」


「お母さんは?」

「今家にいません、その証明としては――」


「今日はね、私が生きるのに役に立つ聖書を紹介しにきたのよ」


「え?」


「お母さんにも後で話しておいてほしいんだけど、

 実は世界はあと2年で破滅するのね。で、マッハーの教えを説くことで

 心が浄化されてトイレを済ませた後のあの嫌な匂いがなくなるのよ」


「否定します」

「ん? どうして?」


「世界があと2年で破滅するという証明は?」


「それはこの聖書の真理に書いてあるのよ。ほらパンフレットをあげるわ」


「真理として書かれているから証明にはなりません」

「絶対神マッハーの教えよ」

「マッハーが正しくこの聖書に書いたという証明は?」

「それが聖書だから……」

「印刷時に誰かがこっそり書き換えたかもしれないじゃないですか!」


「真理を理解できない可愛そうな人なのね……いいわ、おばさんも本気で説いてあげる」


「私が真理を理解できていないという証明は?」

「ん?」


「あの、私はあなたの言葉をちゃんと受け止めたいと思っています。

 ですから、ひとつずつ証明していってください。

 新しい教えを話してほしいんじゃありません。まずは2年で破滅するという証明を」


「それは聖書で……」


「不確かなものでの証明は証明されません。

 あなたはオバケが存在するということを、オバケが言ってたと言われて納得しますか」


「……」

「何をもって2年で破滅すると証明したんですか?」


少女におばさんが玄関先でガチ泣きさせられるという珍事により

その町内ではその日を堺に宗教勧誘が根絶された。


「デカルトちゃん、宗教の勧誘を蹴散らしたんだって? すごいね!」


「ううん、まだ蹴散らせたという証明はできてないよ。

 あくまでも私達の目の届きうる範囲で、現段階で見なくなった、というだけだから」


「デカルトちゃん……生きるの大変そうだね」

「なんで?」


「とにかくありがとう。何度断っても来るからってお母さんも困ってたの」


「その証明は?」

「はいはい……」


デカルトちゃんはなかば攻撃的な探究心により

男子からは遠ざけられ、女子からはジャンヌ・ダルクの如き支持を得た。


そんなデカルトちゃんが誕生日を迎えるということで、友達はみんなでサプライズを仕掛けることにしました。


「なんでサプライズにする必要があるの?」


「デカルトちゃんのことだから、事前に招待状を送っても

 "その日に実施されるという証明は?"とか言いそうでしょ」


「ああ~~……」


友達みんなの気持ちはひとつでした。

デカルトちゃんに日頃の感謝とお祝いを伝えたい。


「でもさ、どうすれば気持ちを伝えられるのかな」


「普通にありがとう! とか言うのじゃダメなの?」


「デカルトちゃんのことだし、その気持ちの存在証明を求めそう……」


「手紙書くのは?」

「本人が書いたという証明をしてきそう……」


「「「 めんどくさい…… 」」」


ありとあらゆるものを否定してしまうデカルトちゃん。

彼女に目に見えない気持ちを伝えることは可能なのか。


「ちょっとまって。デカルトちゃんってなんでも否定しちゃうんだよね」


「そうそう。だからこんなに苦労しているんじゃない」


「否定させちゃえばいいんじゃない?

 私達に感謝の気持ちがない、ってことを伝えて

 "気持ちがない"ということの証明ができないから、"気持ちがある"ってならない?」


「そうだね! それでいこう!」


仲良し女子グループはデカルトちゃんをお祝いすべく、

パーティ会場に呼んで「感謝やお祝いの気持ちがない」ということを伝えた。


「デカルトちゃん、今日は友だちみんなでデカルトちゃんのために集まったの。

 それでね、私達みーんな! 感謝とお祝いの気持ちがないよ!」


気持ちがない、ということは証明できない。

仲良し女子たちはデカルトちゃんの否定を待った。


「あの……」


デカルトちゃんはついに口を開いて否定した。




「あなたたちと私が友達という証明は?」

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