第105話 いよいよ交流試合!!

 そして交流試合当日がやってくる。空は雲一つなく、透き通るような秋晴れの日だった。


 試合とはいうものの、この交流試合は正騎士以上の騎士が全員参加するため、丸二日かけて行われる大がかりなものなんだ。


 騎士団前の練習場には、バッケンさんたち修理班の人たちが総出で作り上げた会場ができあがっていた。


 騎士団本部から向かって左手には王族や貴族の方々が観覧なさる貴賓席。

 練習場を挟んで反対側にはたくさんの人を収容できるように階段状につくられた一般席がもうけられている。


 さらに一般席の裏側にはどこからともなく集まってきた屋台がたくさん軒をならべていて、さながらお祭り状態になっていた。

 そこに王都をはじめ近隣の街や村から観客が続々と集まってきて、あんなにたくさんあった一般席のスペースもあっという間に埋まっちゃった。


「うわあああ、すごい人……」


 騎士団本部前につくられた団員用の控え席から客席を眺めていた私は、思わずそんな言葉を漏らした。


 なんていうか、人の数もすごいけど、それ以上に熱気がすごい。

 みんなこの日を楽しみにしてたんだなぁっていうのが、離れていても伝わってくる。


「王都って収穫祭もないから、祭りって言うとこれぐらいしかないんだよな。カエデもどれか食べる?」


 と、私の横に座って串に刺したソーセージを食べながら、フランツが手に持っていた他の串を差し出してきた。串焼きみたいなのやら、リンゴ飴みたいなのやら、いろいろある。さっそく屋台で買いあさってきたらしい。


「ううん、ありがとう。なんだか緊張しちゃって、おなかすいてないの」


 自分が出場するわけじゃないのに、この雰囲気に飲まれてしまったのかあまり何かを口にする気にならない。


 逆にフランツは出場予定のはずなのによくそんなに朝から食べられるなぁと感心してしまったけれど、よく考えたら彼が出場するのは明日だった。


 最後の大トリが団長戦で、その一つ前にフランツは出場することになっている。

 じゃあ、今日は一日一緒に観覧できるんだね。


「そっか。カエデが食べないんなら……」


 きょろきょろとフランツはあたりを見回すと、会場への人員誘導の仕事を終えて戻ってきたテオとアキちゃんをみつけ、串をもったまま手を振った。


「おつかれさまー」


「あ、フランツ様! カエデ様! ここにいらしたんですね!」


 笑顔で駆け寄ってくる二人に、フランツは「今朝は準備のために朝飯早かったから腹減っただろ。食え食え」と手に持っていた串を渡す。


 二人は嬉しそうに「いただきまーす!」と串を頬張っていた。ふふ、相変わらず二人ともあどけなくて無邪気だなぁ。


 そういえばテオもアキちゃんも、はじめて会ったときにくらべて少し背が高くなったように思う。とくにテオは最初のころはアキちゃんよりも小さかったのに、いまはアキちゃんを追い越してしまっていた。ぐんぐん背の伸びる年頃だもの、お腹も減るよね。


 そこに、練習場の砂埃防止に魔法で水まきをしていたクロードも帰ってきた。


「残念。もうちょっと早く戻ってくれば屋台で仕入れた串があったのに」


 すっかり食べ終わってしまったフランツが指を嘗めながら言うのを、クロードは興味なさそうにフンと鼻をならして返す。


「私はお前ほどすぐに腹が減ったりしないからな」


 たしかにフランツはよく買い食いしてるのを見るけど、クロードはお茶のカップ片手に魔法書読んでるところを見るくらいで、食堂で出される三食以外に何か食べてるのをあまり見たことないものね。


 きっと、消費カロリーが違うんだろうな。


 騎士の中でも前衛のポジションにあるフランツは、暇さえあればトレーニングに励んでいるからすぐにカロリー使っちゃうんだろうけど、魔法はそこまでカロリーは使わないのかも。


 そういえば、クロード。さっき練習場に魔法で水を出して蒔いてたんだよね。てっきり彼は氷の魔法しか使えないと思っていたから、びっくりした。


「ねぇねぇ。クロードって、氷以外の魔法も使えるんだね」


「ん? ああ。水魔法と氷魔法は属性が近いからな。ただ、水魔法の方はまだ修練度合いが甘いから、実戦で使えるほどのレベルにはないがな」


「魔法っていえば、東方騎士団のアイザック団長はいくつも使えるんだっけ?」


 と、フランツ。その言葉に、クロードはフムと唸る。


「あの人は、この国最強の魔法士と呼ばれる人だからな。火、風、土の三属性どれもすざまじい修練度合いだ。火だけなら、うちのナッシュ副……じゃなかった、ナッシュさんもいい勝負をするんだろうが、三属性の合わせ技で来られるともはや人間離れしているといえる」


「人間離れしてるっていえば、うちの団長も大概だけどな」


 ケラケラと笑うフランツに合わせて、クロードもクスリと笑みをこぼした。


「違いない。しかも、あの二人は昔からの幼なじみらしいからな」


 ええええ、そうなんだ。とういうとこはアイザック団長も同年代の五十前後ってことよね。一体どんな人なんだろう。気になっていたら、クロードがさらに詳しく教えてくれた。


「元は同じ騎士団に所属して相棒のように共に活躍してたらしいが、それでは騎士団間のパワーバランスが著しく偏るとかで必ず別々の騎士団に配置するようになったと聞いたな」


 ひええええ。さすが、大所帯の騎士団を率いる人たち。エピソードも規格外だなぁ。なんて思いながらも、ついフランツとクロードの二人に目が行く。


 ゲルハルト団長と東方騎士団のアイザック団長も、若かりしころはこうやって仲良く同じ騎士団で職務に励んでいたんだろうな。


 そして、フランツとクロードもやがて、団長たちみたいに団を支える存在となっていくんだろう。


 そんな彼らをこれからも裏方として支えていきたいななんて、そんなことをしみじみ考えていたら、クロードが額に手をかざしていまいましげに空を睨んだ。


「それにしても、今日は雲一つない天気だな。いまはまだ涼しい風が森から吹いてくるが、日が高くなれば暑さが増すかもしれん。はやめに、氷柱を配置しておいた方がいいかもしれんな」


 クロードの言葉通り、空は高く、どこまでも青く澄んでいた。


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