第59話 実験料理は大好評?
そんな私たちのやりとりを、スコップで穴を掘り終えたフランツが笑って見ていた。
「そうそう。どうせ、あとでやり直さないと気が済まない性格なんだからさ。全部クロードにやらせちゃえばいいよ」
「お前に言われると、なんだか腹立たしいがな。この前の討伐報告書だって」
「あれ、俺ちゃんと書いたよ?」
「ところどころ抜けていたから、私が書き直しておいた」
「なにげにお前のチェックが一番厳しいと思うんだけど」
お互いポンポン言い合いながらも、嫌な雰囲気はなくてむしろどこか楽しげだ。二人のやりとりを見ていると、面白くてつい笑みが零れてしまう。
「ふふふ。二人とも、仲いいんだね」
なんて言ったものだから、
「腐れ縁だからな」
「腐れ縁だからね」
同じ言葉が同時に返ってきた。何だよ、本当に仲良いなぁ。ちょっと羨ましくなるくらい。暢気なフランツと、きっちりとしたクロード。一見正反対に見える二人だけど、どこか通じ合うものがあるんだろうな。
用意した具材をすべて包み終えると、あとはフランツの掘ってくれた穴に石を敷き詰めて、その上にムーアの葉包みを並べる。さらに乾燥した葉っぱを穴が埋まるほど入れてタキギをくべ火をつけたら準備はお終い。
調理班の従騎士さんたちが夕飯の準備をしているカマドから良い匂いが漂ってくるころには、包み焼きのタキギの方もすっかり下火になっていた。そろそろ良い具合に蒸し焼きできたかな?
フランツとクロードに手伝ってもらって掘り起こすと、あつあつに蒸された包み焼きがゴロゴロと出て来る。
今回は二パターンの具材を試してみたんだ。
ひとつは、鶏肉の中にチーズを挟み込んで包んだもの。
こっちは包みを開けると、美味しそうな肉汁がたっぷり溢れ出ていた。ナイフで半分に切ってみたら、蒸し鶏の中からとろとろに溶けたチーズが零れ出す。
「はい、どうぞ。熱いから気をつけてね」
実験だったから、そんなに数は作っていないの。まずは味見してもらおうと思って、切り分けた鶏肉チーズをお皿にのせると、フランツとクロード、それに調理班のテオたちにも食べてもらった。
「……なんだこれ。鶏肉って、こんなに美味いんだっけ!?」
「このトロッとしたチーズが、最高です」
フランツとテオが口々に言う。
私も早速食べてみたけれど、ふっくらと蒸された鶏肉はとても柔らかくてジューシー。その中から、とろっと溶け出たチーズが絡んで二度美味しい。これはワインが飲みたくなっちゃうかも。
そして、もう一パターンの方の包みも開けてみる。こっちはさらに実験的。葉っぱの包みを開けると、ほわんとした湯気とともに白く丸いパンのようなものが現れた。それを手で半分に割ると、中から甘辛く煮た肉の餡が顔をのぞかせる。良かった、こっちも失敗せずに思い通りにできたみたい。
この餡は、実はアクラシオンの屋台で売っていたあの串焼きなんだ。それを細かく刻んで、小麦粉を練った生地で包んで葉っぱで包み焼きにしたの。思っていた以上に肉まんらしいものができて、大満足。
今が暑い季節なのが残念なところだけど、ふわふわした生地にあつあつの甘辛い餡があわさって、どんどん食が進むうちに身体がぽかぽか温まってくる。
手で持って食べれるのもいいよね。
「美味しいですね」
アキちゃんもニコニコ顔。
「これはもはや、店で売っていてもおかしくないんじゃないか」
なんて言いながら、クロードも眼鏡の曇りも気にせず肉まんを頬張っている。
どっちも想像以上に美味しく出来て、お腹も心もいっぱい。美味しい物って、なんて心を豊かにしてくれるんだろう。
そうこうしているうちにふと気が付くと、いつの間にか周りに他の騎士さんや団員さんたちも集まってきていた。みんな、私たちが食べているものに視線が釘付け。
「えっと……今回のは試しで作っただけなのであんまり量がないんですが……ちょっとずつになっちゃうけど、みなさんも召し上がります?」
そう恐る恐る声をかけると、
「やったー!!!」
「カエデの作る物は、どれも美味いからな!!!」
わあああっと歓声があちこちから上がった。
やっぱり、美味しいものっていいよね!
そしてこれらのメニューも、翌日から夕飯メニューとして正式に盛り込まれたのだった。
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