ShortStory 2 「2人だけの時間 前編」
☆こちらは番外編の後の話しになります。番外編を読んだ後にこちらをお楽しみください!
ShortStory 2 「2人だけの時間 前編」
日々幸せだと感じ、それを喜んび幸福だと思い感謝していると、更に幸せを呼ぶ。そんな話しを聞いたことがあるけれど、本当にその通りだな、と花霞は思っていた。
大切な旦那様である椋との生活。それだけでも毎日がキラキラと光り輝くものなのに、また素敵な贈り物を貰った。それは、椋との子どもだ。
大切な彼との子ども。だけれど、彼は喜んでくれるだろうか。警察に戻った彼は毎日のように忙しく、子育てをしたいと思っていたのだろうか。まだ早いと思ってはいないか?早いと思っているのなら、椋だったらば子どもが出来るような事はしないだろう。そんな風に思いつつも、彼に伝えるのが少しだけ不安だった。
けれど、ドキドキしながら彼に子どもが出来た事を伝えると、感動した様子で目を潤ませて「嬉しい」と喜んでくれたのだ。それだけで、花霞も幸せを感じ、生まれてくる子どもに会うのが更に楽しみになったのだった。
けれど、椋に少しだけ困ったことがあった。
「花霞……大丈夫か?寝てていいから」
「大丈夫だよ。妊婦だって体を動かさないとダメなんだから。家事ぐらいさせてよ」
「そんな事言っても……じゃあ、ここで洗濯物な畳んでて。俺が料理するから。お腹が大きくなって辛いだろ?」
「………そんな事ないよ。でも、ありがとう」
彼の厚意を無下にしたくはなかったので、感謝の言葉を伝えながらも、花霞は苦笑するしかなかった。
子どもがお腹にいるとわかった椋は、花霞に今まで以上に優しくなった。過保護になりすぎていたのだ。
確かに、つわりが酷かったり、体調が悪くなる事も多く彼に心配させてしまい、彼に家事をお願いする機会も増えてきた。嫌な顔せずに、「気にするな」と言ってくれる彼は頼れる旦那様だった。
けれど、簡単にやれる事までも椋はやってしまい、この間は「お風呂で体洗ってあげようか?」と言われた時は「やりすぎだよ!」と、ついつい怒ってしまった。
「体に良いものいかな。やっぱり和食かな」
「えー……ラーメンとかも食べたい」
「それもいいけど、野菜はいっぱい入れるからな!」
「やった」
そんな風に甘やかしてくれるのは嬉しかったので、ついつい椋に甘えてしまうからダメなのはわかっているが……大好きな人に甘えたくなるのは当たり前だよね、と思うようにしていた。
花霞は仕事を続けていた。大好きな仕事だったので、妊娠しても休むつもりはなかったのだ。体調が悪くて休んだり、早く帰ってしまう事もあり、親友である栞に迷惑をかけてしまうと心配していたけれど「そんな心配しないで!私も赤ちゃん楽しみなんだから!」と、笑顔で激励してくれたので、ありがたく甘え事にしていた。
仕事終わりも、休みの日も、花霞と椋は子どもの事を考えていた。男の子か女の子なのか。どんな名前にしようか。生まれた時の準備をしたり、この大きなマンションではなく一戸建てに引っ越そうか。そんな遠い未来の話しまでも語り合った。
確かに子どもが生まれるのは嬉しいし、楽しみだ。彼と一緒に愛しい赤ちゃんの成長を見守っていけると思うと、今からとても楽しみだった。
けれど、少しずつ寂しさも感じるようになっていた。
「それ、のろけ話?」
「ち、違うよ!!蛍くんが仲良くしてるのって聞いたから、少し話しただけで………」
「幸せそうで、何よりです」
分厚いアクリル板越しに蛍は優しく微笑んだ。
この日は蛍が収容されている刑務所での彼との面会の日だった。月に1度訪れるようにしており、花霞はその日を楽しみにしていた。
逮捕された時は少し疲れた様子だったけれど、今では穏やかな笑みを浮かべられるようになっている。
最近はつわりなどで体調が悪くなかなか来れなかったが、少し前に久々に訪れると「久しぶりですね。花霞さん、妊娠でもした?」とすぐに言い当てられてしまった。蛍は「顔が何だかお母さんっぽくなった」と話し、花霞を喜ばせたのだった。
この日もいつも通り、「体調はどう?ほしいものとか、困っていることはない?」と聞くと、蛍は落ち着いた様子で「俺は大丈夫。花霞さんは?」と聞かれてしまい、ついつい最近の事を話してしまったのだ。
頑張っている蛍に話すような事でもないとはわかっていたけれど、ついつい話してしまったのは、自分が思った以上に椋との2人だけの時間を楽しみたいと思っていたのだと感じてしまった。
「ごめんなさい………こんな話しをしちゃって」
「いいよ。外の話しを聞くのは楽しいよ………少し焼きもちやくけど」
「え?何?」
最後の言葉はとても小さい声だっため花霞は聞こえず聞き返すが彼は「何でもない」と言った後に、苦笑を浮かべた。
「花霞さんは、残り少ない2人だけの時間を、楽しみたいって事でしょ?だったら、それをそのまま言えばいいよ。」
「…………そうだけど………」
「もっとイチャイチャしたいですー!ってね」
「もう!蛍くん……からかってるでしょ?」
クスクスと笑う蛍を見て、花霞は恥ずかしくなり大きな声を出してそう言ってしまう。そんな様子を見て、蛍は更に楽しそうに笑っていた。
「けど、本当にそう思うから。悩んでいる時間も勿体ない。悔しいけど、あいつならわかってくれるんじゃないの?」
「……うん。そうだね……ありがとう」
蛍は笑顔から真面目な表情に変え、そう言ってくれたので、花霞は頷いた。蛍の言っている事は本当にその通りなのだ。
言葉にしないと伝わらないこともあるのだ。 悩んでいるより彼と気持ちを話し合い、わかりあった方が笑顔の時間も増える。それに、椋ならば、気持ちを理解してくれる。そう思えた。
「ねぇ………花霞さん。お腹の中の赤ちゃんにはこんな場所よくないと思うんだ。だから、しばらくは………」
「私は大切なお友達会いに来てるだけだよ。赤ちゃんにも蛍くんの事、覚えて欲しいの。だから、これからも会いに来る」
蛍の言葉が終わる前に、花霞は言葉で彼の話しを止めた。蛍が何を言おうとしたのかわかったからだ。
蛍は驚いた表情をした後に、嬉しそうに笑い、「ありがとうございます」と変わらない屈託のない笑顔を見せたのだった。
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