倒した敵を従者にできる「マスタースキル」で僕は王になる

アメカワ・リーチ@ラノベ作家

第一話 使役の力 <1>



「……991、……992、……993、……994」


 僕は黙々と素振りを続ける。

 午前の畑仕事の後、こうして剣を振るうのが僕の日課だった。


「……995、……996、……997」


 15歳の誕生日に、全財産を払って木刀を手に入れて以来、3年間稽古を怠ったことはなかった。

 雨の日も、風の日も、ゴブリンが村に現れて朝から大混乱だったあの日も、1日たりともだ。


「……998、……999、……1000ッ!!」


 千本の素振りを終えて、僕は大きく息をつく。

 半日畑仕事をした後なので、体力的にはかなりキツい。


 ……と、その時、後ろから声をかけられる。


「エド、お前、まだそんなことやってたのかよ」


 振り返ると、そこにはキリウスの姿があった。


 キリウスは僕と同い年、18才の青年だ。金髪碧眼で顔立ちも整っている。

 ――それだけならば、別に「やらやましいな」で済んだのだが。


 彼は村長の息子。

 一方、僕は戦争孤児で、村長の家で召使いとして働いている身だった。

 

 しかもキリウスは生まれ持って魔法適性があり、街の魔法学校に通っている。

 生まれ持って魔法適性が無い僕とは、何もかもが違うのだ。


 ――キリウスの通う魔法学校は全寮制。

 魔法学校が昨日から休みなので、村に帰ってくると、村長から聞いていた。

 キリウス会ったのは一年ぶりだ。

 

「まさかまだ剣の練習なんてやってたんだな」


 キリウスは、嘲笑うように言う。

 僕は目線を合わせず、木刀を強く握りしめた。


「戦士適正ゼロのくせに、なんのために頑張っちゃってんだよ」


 言い返したいのは山々だったが、彼は僕を養ってくれている村長の息子だ。反論はできまい。


 ――魔法適正があるキリウスと違って、僕にはなんの適正もない。

 魔法の才能も、魔法に対抗するような強靭な肉体も、特別なスキルも何もない。


 将来は絶対に魔法剣士になると小さい頃から決めていたが、ある日街からやってきた鑑定士が、無慈悲にも僕にはなんの適正もないことを告げた。


 それでも諦めきれず、こうして剣の練習を続けているのだが……

 

「ま、後10年くらい素振りしてれば、スライムくらいは倒せるかもな」


 そう言い残して、キリウスは家の中に入っていく。


 僕は俯いて木刀を見る。


「どうした、エド」


 と、後ろから声をかけられる。

 声の主は村長だった。


「あ、いや。その……キリウスが戻ってきたよ」


 僕が告げると、村長は笑みを浮かべた。


「そうか。よかった」


 キリウスは嫌なやつだが、村長にとっては大切な一人息子。しかも魔法学校に通う自慢の息子だ。

 そんな息子と久しぶりに会えるとなれば嬉しい表情を浮かべるのも当然だろう。


「あ、そうだエド。ちょっと山の方に薬草を取ってきてくれるか? 備蓄が少なくなってきたんだ。小さいかご一杯分くらい頼む」


「うん。わかった」


 僕は木刀を置いて、代わりに護身用のナイフを持ち、森へ向かって歩き出す。


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