第14話
「うちで療養中です。体が悪いので」
俺の両親は立派だ。
素敵な夫婦だ。
二人とも教師で、俺は彼らを尊敬しているからこそ、同じ教師になった。
父も母も、働きながら苦労して俺を育ててくれた。
親の愛情は絶対であり、俺はそれを全て受け取って大きくなった。
それの何が悪い?
彼らの注いでくれた愛情のおかげで、今の俺がある。
そんな両親を、どうして裏切ることが出来るだろう。
俺はちゃんとした、まともな家庭に生まれ、そこで育ち、正直で、誠実な、しっかりとした、立派な大人になった。
今の俺があるのは、両親のおかげだ。
これほど分かりやすく、公明正大な事実が、他のどこにある?
「申し訳ないのですが、令状をとって、先生のご不在中、児相と一緒に家宅捜索に入らせていただきました。先生のお預かりしている子どもさんが、素直に鍵をあけて、我々を中に通してくれましたよ」
あの子はそういう子だ。俺は拳を握りしめる。
「とてもいい子でしょう?」
俺の担当するクラスの子どもたちは、みんな素直でいい子たちばかりだ。
誰一人として問題を抱えたような子はいないし、もしクラスで何かが起きても、全員で一致団結して助け合い、協力ができる。
一人一人が明るく元気で、真っ直ぐに育ち、個性を生き生きと伸ばせる、俺の素晴らしいクラスなんだ。
「えぇ、本当に」
男は渡されたばかりのメモのような紙切れを、ずっと気にしている。
そんなに気になるような内容が書いてあるのだろうか。
だけど今は俺と話しているはずなのに、これは随分と失礼な態度ではないだろうか。
「先ほどから、何をごらんになっているのですか?」
「家宅捜索で見つけたものの、簡単なメモです」
彼はそれを、俺に見せようかどうしようか、迷っているのだろう。
だけど、自分の家の中の様子なんて、俺が一番よく知っている。
台所に座る両親の姿を写した写真が、ちらりと見えた。
父さんは、静かに眠っている。
母さんも今は、穏やかに眠っている。
俺はただ、自分の大切なものを守りたかっただけなんだ。
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