第13話

ふいに男は、ファイルから一枚の写真を撮りだした。


汚く変色した女の遺体写真だ。


それがどうした。


間違いは、修正されるべきだ。


「彼女の真の幸せや救いは、どこにあったんでしょうかね」


「自殺幇助を主張するには、傷跡に無理がありますよ」


「俺はそんなことを言っているんじゃありませんよ」


話しの分からない奴だ。


俺はいつもこういう連中に、イライラさせられる。


「もっと本質的な話しをしているんですけどね」


これだから警察官は、信用ならないんだ。


自分の検挙率を上げることに夢中で、本当に事件と向き合おうとしない。


何が原因でこういう事件が起こったのか、どうして彼女のような人間が生まれたのか。


そういったことを究明していかなければ、根本的な解決など、永遠にみないのに。


そもそも、なぜ警察や関係機関は、犯罪者の経歴を発表しないのだろう。


別に俺は、個人を特定して糾弾したいと思っているんじゃない。


凶悪犯罪者の生い立ちにどのような傾向があるのか、生活環境の共通点は? 


事件を起こすきっかけとなるような動機を、もっと科学的に分析し、それを世間一般に公表すべきだ。


それは差別に繋がるなんて、そんなことじゃない。


冷静に分析し、観察することで事件を未然に防ぐ。


もっとマクロな視点で語っているのだ。


そして犯罪予備軍に、事前に支援の手を差し伸べる。


それが公共の利益というものだろう。


それが分からない奴らが多すぎる。


AIの活用や、ビッグデータなんて言ってるわりには、どうしてそういう所に活用しようとしないのだろう。


それはもう、行政の怠慢としかいいようがない。


大人になってからでは遅い。


子どもの頃から適切な環境下で、正しい知識をもった人間が教育していくことが、俺はこの国の将来のためだと思う。


さらには、この警官の言動にもみられるように、現代における国語読解力の低下は、本当に目に余る。


まともに会話が成立していないじゃないか。


俺の話を理解出来ていない。


理系科目ばかりがもてはやされて、文系科目がなおざりにされてきた結果だ。


俺はそんな世間の風潮に対して、本気で異議を唱えたい。


「彼女は俺に助けを求めた。だから俺はそれに応えた。そこに問題がありますか?」


部屋の扉をノックする音が聞こえる。


もう一人の職員らしき男が入ってきて、目の前の男に何かを渡した。


彼はため息をつく。


「先生、もう一つ、大切なことを忘れていませんか?」


「なにがです?」


財布も携帯も、職員室に置いてきた。


それを『忘れ物』とは言わない。


「あなたのご両親は、いまどちらにいらっしゃいます?」


ほらきた。


そうやってすぐに話しをそらす。


彼は俺がした前の質問に答えていない。


それはまさに、この事件の本質を捉えた問題だからだ。


その問いに対する答えを、彼には答えられない。


答える意思もなければ、そんな考察をしたこともないような人間だからだ。


話しにならない。

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