6 Let's make a miracle
突入作戦は2週間後に行われることになった。
狩人同盟の幹部が会議を仕切り、そのサポートをステラなどの記録解析班が担当している。
スクリーンにはシオケムリ全体の地図が映し出され、ところどころ赤い丸で囲まれている。現時点で分かったナキリのポータルの位置で、狩人たちはここから突入する。
ポータル周辺の道路は封鎖し、無人の状態にしておく。
一般人を巻き込まないようにするためだ。
「まず、僕たち記録解析班がナキリのネットワークにアクセスし、ハッキングをかけます。
それでポータルをこじ開けて、戦闘班が突入。被害者の救出及びナキリの捕縛、もしくは捕殺という流れになると思われます」
通信画面は縮小し、見えないようにしておいた。
二人のことはタイミングのいいときに、話せばいい。
「生死は問わない、ということですか?」
「生きて捕縛できればいいとは思います。
ただ、人数が人数ですので限界があるかと」
シオケムリにいる狩人の人数は他の支部より人数が少ない。
よく言えば少数精鋭、悪く言えば人手が足りない。
だから、封印の騎士団に協力を依頼した。
戦闘は問題ないだろう。
カーネリアンの指揮の下、動いてくれるはずだ。
「ナキリを取り逃した場合は?」
「そうならないよう、他地区の同盟からも協力を仰いでいます」
それでも、理想の人数が届かないのが現状だ。
しかし、それ以前に自由に動くやつが多い。
ナキリを深追いした先が罠だったという可能性もある。
ましてや、突入先は人里離れた山林である。
慣れない場所である以上、普段以上に慎重に動かなければならない。
次の話題へ移り、ある程度の余裕ができた。
当日の部隊編成について、話し合っている。
自らハッキングをかけると言った手前、ステラは必然的に記録解析に回る。
他の仲間も同様にポータル付近に配置された。これがいつものパターンだ。
『ということですけど、何か質問ありますか?』
カーネリアンにチャットを送ってみる。
『戦闘に関しては、我々は後から突入し、そちらと協力できればと思います。
ナラカを見つけたら、どうすればいいでしょう?』
彼女もそれで了承したらしい。
狩人が突入した数分後に、騎士団にも突入してもらう。
奇襲攻撃は成功するはずだ。
問題はどうやって、他の狩人たちを説得するかだ。
『こちらのことは気にせず、回収してください』
『かしこまりました。ナラカの規模や保管場所は分かりますか?』
『具体的なサイズまでは分かりませんが、ナキリのもとで奉るとなると、あまり大きなものではないと思います。保管場所に関してですが、地下にある集会場が今のところ有力です。私の方でももう少し探ってみます』
正直、ナラカに関する情報はほとんど分かっていない。
邪神を奉って神格化するという情報も、彼の魔法があったからこそ分かった話だ。
似たような魔法を使う解析班の狩人であれば、気づいてもおかしくない話だ。
あえて話題に出そうとしないのか、本当に気づいていないだけなのか。
まあ、どちらでもいいか。気にしててもしょうがない話だ。
他の狩人たちから受け取った記録とともに、それに関する記憶を読み解くのが解析班の仕事だ。
モモが持っているUSBをはじめ、様々な記憶装置を狩人同盟は支給している。
そのほとんどは装置を挿入され、記憶を写し取られた本人のものしか記録されない。
ステラはその記憶装置の中に入っている記録から、様々な人々の記憶をたどることができる。モモが持ってきたUSBからはクルイ本人と彼に狙われた被害者、後は彼に命令した上司の記憶が読み取れた。
皮肉にも、裏方の彼が被害者の声を一番聞いていたのである。
だからこそ、ナキリが許せなかったのである。
人が人として扱われなかった場面を誰よりも見ていたからだ。
会議は人員配置について話し終えたらしく、事後処理について話し合っていた。
ナキリたちの里を捜索し、被害者たちが生きていれば救出することになる。
「その戦闘なんだけどさ」
モモがゆらりと手を挙げ、ステラのほうを見る。
出席者の注目がモモに集まる。
「封印の騎士団と共闘してみません?」
「何でそいつらの名前が出る?」
確かに話の流れとしては、悪くはないか。
ステラも別で用意しておいた資料を開き、スクリーンに映す。
「封印の騎士団が摘発した商人団の件、あったでしょう?
その商人団からナキリが邪神を買い取ったようなのです。
こちらの事件に協力することを条件に、彼らに依頼しました」
縮小しておいた通信画面を開いた。
画面の向こうに男女の騎士が並び、その一人は輝石と名高いカーネリアンである。
その姿を見て、驚きの声を上げる。
「騙すような真似をしてしまったのは、申し訳ありません。
ですが、彼らと手を組むのは悪くない話ではないと思います。
カーネリアン隊長も了承してくださいました」
全て後出しになってしまった上、外部からの介入を好まない者も当然いる。
一部の戦闘班の面々はどこか不満げに画面を見つめている。
「ちなみにだが、どっからこんな輝石を掘り当てた?」
「輝石を掘り当てたわけじゃないわ。掘り起こしたのよ」
「そういうわけなんで、内ゲバってる場合じゃないです。マジで」
「やりづらいことこの上ない……」
一言小さくつぶやき、戦闘班の隊長はため息をつく。
「事後報告みたいになってしまい、本当にすみません」
「まったくだよ、本当によお……で、今の話、全部聞いてたんだよな?
カーネリアン隊長サマ?」
スクリーンに向かって、指をさす。
彼女は毅然とした態度で、うなずく。
「音声及びこちらの資料もすべてお見せした上で、参加していただいています」
「用意周到だな、コノヤロウ。ということは、だ」
「ええ、騎士団の想定人数も把握済みです。
我々が突入した後、第二部隊として侵入してもらうつもりです」
「話もそこまで進んでんのかよ……何で報連相ができないのかね! うちの連中は!」
いらだちに任せ、テーブルを叩く。
空気が変わってきた。あともう一押し、何か欲しいところだ。
『音声を通してくれないか? 私から直接話す』
彼女からチャットが届いていた。
ここで言ってもらった方がスッキリするか。
『じゃあ、音声を繋げるので、パソコンに向かって話してください』
『分かった』
「すみません、隊長殿から話があるとのことです。音声繋げます」
設定を変更し、二人の音声を繋げる。
「カーネリアン隊長殿、聞こえていますか? どうぞ」
『ええ、聞こえています。どうぞ』
「作戦は今の通り、我々からお伝えした通りです。
僕たちがポータルを開けますので、その間に突入してください」
『初めまして、封印の騎士団シオケムリ支部隊長のカーネリアン・エインスワースです。
話は彼らから全て伺っております。
そちらの協力がなければ、我々もここにいることはなかったでしょう。感謝いたします』
戦闘班の幹部がマイクをステラからひったくる。
「初めまして、カーネリアン隊長殿。
俺は狩人同盟シオケムリ地区戦闘班幹部のレイモンド・ウィルだ。
ウィルとでも呼んでくれ」
『初めまして、ウィル』
「すみませんねえ、うちの馬鹿どもが勝手にそちらを巻き込んでしまって」
『いえ、こちらこそ、そちらの案件なのに勝手に首を突っ込んで申し訳ございません』
「いいんですよ、別に。共闘作戦ってのも悪くありませんしね。
さて、彼らってことは、ステラ以外に巻き込んだ馬鹿がいるってことですよね?」
『責任追及に関しての話は後にしていただけませんか?
今はそれについて、話している場合ではないでしょう』
「分かりましたよ……それじゃ、話を続けてどうぞ」
またため息をつく。
『この度は無理を言って、申し訳ありませんでした。
しかし、お互いの持っている点と点が初めてつながり、線ができた。
これを奇跡と言わずして、何というのでしょう』
カーネリアンが淡々と話をしている。
誰もが静かに聞き入っている。
『それができたのも、ここにいるカーチスとあなた方のおかげです。
何としてでも、作戦が成功させましょう』
「ええ、必ずや成功させましょう。お互いのためにも」
ウィルがステラにマイクを返す。
「お話ありがとうございました。疑問点があれば、またお願いしますね」
『貴重なお時間を頂きまして、ありがとうございます』
カーネリアンは会釈をする。しばらくの間、沈黙が下りた。
「そういうわけだ。そこの馬鹿二人がとんでもないことをしてくれやがりました」
モモとステラを指さす。
「封印の騎士団に後れを取らないよう、こっちも全力でやるぞ!」
ウィルが鼓舞し、出席者もそれに応じる。
「馬鹿二人って、何で私なのよ」
「むしろ、お前以外考えられないんだよ! 分かっててやってたな!」
「何のことかしらね、私は捜査途中で騎士団員と戦闘になっただけだし」
「てめぇ……そういうことを報告しろってんだよ!」
モモは注意を受けても、どこ吹く風だ。
とりあえず、共闘する空気にはできた。
ステラは静かにガッツポーズをする。
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