第9話 幼馴染はまだ始まりの街から出て行ってない
その大陸は人間が介入することができない程強力なモンスター達で溢れかえっており、さながら彼らの総本山といってもよい巨大な城を構えていた。
中では人間が作ったものよりも遥かに巨大な物品で溢れかえっていて、全てが暗い色で統一されている。紫の壁に包まれた城内の一番奥にある魔王の間で、人間とさほど変わらない姿をした男がひざまずいている。
彼は白いカーテンの中に浮かべ上がった、巨大な悪魔のような影に向けて、最大限の敬意を払っているようであった。
「魔王軍幹部ガルトルよ。お前に聞きたいことがある」
「ははっ。魔王様……何でございましょうか?」
ガルトルと呼ばれた中年の男は、長い髪と大きな黒い鎧が似合っていて、肌は全身が紫色に染まっている。
「世界征服計画は、今どのくらい進んでおる? 我に進捗を報告せよ!」
黒い影はガルトルよりも遥かに大きく、長い角が印象的だった。ガルトルは静かに顔を上げる。
「はい! 実はですが……申し訳ございません。特に進捗はありません……」
「な、何? またしても我の支配地は増えておらんのか。ええい! 一体何をしていおるか」
「申し訳ございません! 来月こそは、何としても支配を進めてご覧にいれます」
ガルトルは深々と頭を下げる。カーテンの向こうから魔王の小さなため息が漏れた。
「ふん! まあよい。ところでガルトルよ。そろそろか?」
「……はい? そろそろかと申しますと?」
顔を上げたガルトルには、何の話なのか理解ができていない様子だった。魔王は面倒臭そうに体を玉座に預けているように見える。
「勇者のことだ! 他の冒険者達は全く話にならん。みんな棺桶にされて神父どもの小遣い稼ぎになっているようだぞ。もうそろそろ歯ごたえのある挑戦者が欲しい! 我は退屈じゃ」
「勇者ですか。魔王様は勇者との対決を望まれているのですか。相手は人間どもの切り札的存在でしょうから、放っておいてもじきにやって来るかもしれません」
魔王は腕を組み、考え込んでいるような仕草になって、
「……いつなの?」
「いえ……。実際にいつになるかは解りませんが。しかし魔王様が直々にお相手をする必要などございません。全て私達にお任せ下さい」
「いやじゃ! 我はずっと玉座に座っている毎日に飽きた。お前達だけ楽しそうにドンパチやっていることにも我慢ならん。勇者と戦わせろ! それと何とかしてこの退屈を紛らわせるのだ」
ガルトルは困惑した顔になり、後ろで見守っている配下のスケルトン達に目をやる。後ろにいたスケルトン達10匹は慌てて頭蓋骨をあらぬ方向に曲げ、関わりたくない感を前面に押し出していた。
「く……わ、解りました魔王様。退屈なさらぬよう、何か用意致します。勇者に関しましても、少々お待ちください」
「うむ! 良い成果を期待しておるぞ!」
胃痛を堪えながら、魔王軍幹部は静かに立ち去った。
「これでよし……っと! じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい。とにかく気をつけるのよ。危なくなったらすぐに逃げてきなさい」
「解ってるって、大丈夫だ! じゃあ行ってきまーす」
僕はおふくろに道具屋を任せて外に出た。これからポーションの原材料と毒消し草を仕入れる為、街を出た南の森に行かなくてはいけない。今までは二人で採取をしていたんだが、今回は反対を押し切って一人だけで向かうことにした。だっておふくろは退院したばっかりだし。
「あれー。アキトっ。どこ行くのー?」
道具屋から出て真っ直ぐの大通りを歩いていると、前からパティがやって来た。相変わらず暇そうにしているのが羨ましいね。
「これからポーションの材料と毒消し草を取りに行くんだよ。なぜか最近売れるようになってきてな。在庫が足りなくなったんだ」
「ふーん。大変だね。誰かがまとめ買いとかしてるの?」
「ポーションに関してはお前がまとめ買いしてるな。毒消し草は主婦の方々に人気が出てきたぞ。デトックス効果があるとかで」
「何それ、ダイエット目的みたい! 本来の目的から逸脱していますよっ」
「お前も大抵の場合美味いからポーション飲んでるんじゃないか。じゃあ、そういうことで。またなっ!」
「うん! またね」
僕は街の入り口門まで早足で進んで行く。明らかに自分の足音とは異なる音が直ぐ後ろから聞こえるが。パッと振り向いてみる。
「は、早い! 私の気配をこうも簡単に察知するとは!」
「あからさまだったぞ! っていうか、何でついてくるんだよ」
「私も行きたい! アキトと冒険」
一瞬だが自分の耳を疑ってしまった。あの街から出ようとしなかったパティが冒険に出るだって?
「ちょ、ちょっと待ったー! いいのかよ、冒険に出ても?」
「うんっ。日帰りでしょ! 私ちゃんと武器も防具も家にあるから、ちょっとだけ待ってて」
自宅までの道のりをスキップしていく幼馴染。コミカルで可愛い仕草に見惚れているのは僕だけではなく、街の通行人達はみんな彼女を眺めていた。きっとどんなアクションを起こしても注目されるんだろう、パティは。
勇者は程なくして戻ってきた。確かに装備は身につけているようだが……。
「なんか、急に不安になってきたぞ……」
「え? どうしてー? 私がいれば百人力だよ」
「いやいや……今のお前は百人力までは到底及ばないと思うけどなー。よし、解った! いよいよここで僕が唯一使える魔法を、初めて試してみようか!」
「え? いよいよアキトのアレが出ちゃうの!? 世界中の人間の髪がカツラか地毛が判別できるっていう、」
「そんな魔法覚えてねえよ! 人間でもモンスターでも、現在のステータスが見れちゃう魔法だ! 僕だけにしか確認できないけどな。ちょっと待ってろ。まずは自分を確認してみる!」
僕は両手を拳法でもしているかのように回し始める。大通りの真ん中だったことは大きなミスだ、恥ずかしい。更にはパティがオモチャを前にした子供みたいな顔で覗いてる。だが仕方ないのだ、やがて集中力が最大に達した時、自分自身に手のひらを向けて叫ぶ。
「ステミエール!」
====
名前:アキト・グウェイン
肩書き:素直になれない道具屋ボーイ
タイプ:早熟型
Lv:6
HP:38
MP:22
攻撃:45
防御:30
素早さ:20
運:66
魔法:
ステミエール
装備:
E布の服
E棍棒
E鍋のフタ
累計経験値:806
====
う、うーん……。何だよこれ。ステータスは全体はまあいいんだけど。肩書きが意味解らん。僕はいつだって素直だ……と思う。
「どうだったのアキト!? スライムより強かった?」
「スライムよりは強いだろ! でもなー。やっぱりイマイチな感じがする。よし、次はパティを見てやる! あまりにも弱かったら帰ってもらうぞ。お前を守りながらはとても無理だ」
「う、うんっ」
パティはキリッとした真剣な表情になりつつ、なぜか剣を構えた。別にそこまではしなくてもいいのだが。というか、剣と盾に若干短めのスカートが合ってない。
「うおお! ステミエール!」
====
名前:パティ・シンシアーズ
肩書き:勇気がない勇者
タイプ:大器晩成型
Lv:1
HP:322
MP:215
攻撃:301
防御:189
素早さ:326
運:251
魔法:
ふえー
装備:
Eブロンズソード
E街娘の服
Eラウンジシールド
累計経験値:0
====
「な、ななな……何だこりゃー!?」
肩書きも何もかも矛盾しているようなステータスが表示され目が点になってしまう。ちなみに『ふえー』というのは風の刃を飛ばす魔法だ。上位魔法として『ふええー』があり、更に上位魔法は『ふえええー』になる。
「え? どうしたのアキト? もしかして私全部能力値が1とかだったの?」
「いや……むしろ高い。全然高い……」
これって僕のステータスが低すぎるのか、それともパティが高すぎるのか……どっちだ? 僕は悩みつつ、これなら断る必要なんてないというか、大助かりというか……。
「と……とにかく貴重な戦力っぽいぞ、お前。じゃあ、二人で行くか」
言われた瞬間パティは飛び上がった。
「やったー! 初めてアキトと冒険だねっ。街から出たら、真っ先に私が襲っちゃうかも」
「お、おいおいやめろよ。何で仲間と戦うんだよ」
「あはは! 冗談冗談。ほら、行こ!」
「あ、ちょっと引っ張るなって! こら!」
待ちきれなくなった幼馴染は、いつもよりテンション高めの眩しい笑顔を見せながら、僕を街の外まで引っ張っていった。
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