第2話 それでも捜索を続ける青年
「…行ったか」
台風接近により、撤収していく各捜索隊の残りも疎らになっていた。そんなキャンプ場基地の様子を眺め、ピッケル持ちの青年は歩みを止めた。
彼は、ここで排泄と物資補給を済ませ、再び山に入る心算であった。まずは排泄を済ませるためにトイレにと向かう。
その後に売り場で物資を仕入れ、山に取って返す気なのである。
「どうせ、今シーズンはこの騒動で消えちまった」
(せめて、自分が納得いくまで捜索は続けさせてもらう)
一人、そんな考えを秘めた青年の名は、三島和夫。
事件発生の知らせを聞くまでは、キャンプ場を訪れ、個人キャンプを楽しんでいた大学生だ。
幼女失踪と聞き、救助隊に志願した経緯を持つ。
「さて、行くか」
必要と思われる買い物を済ました彼は、そう言って山の中へと向かった。利き手である右手にはピッケル。左手には紙袋。背中に背嚢を背負うといった出で立ちである。
正直、和夫は消えた少女を自分が見付けられるとは考えていない。
だが、中途半端に捜索を止め、ここで帰るのは男が廃る。
そう考えた和夫は、自分の判断で捜索を続行する事にした。和夫は、そんな男気を持つ青年だった。
それに、和夫は別に考え無しに山中に残ることを選んだ訳でもない。
(台風の風が強くなったら、あの用具置き場に避難すれば良いや)
和夫は、幼女の捜索途中に避難場所にできる小屋を山中で発見していた。その管理者とも話し合い、ギリギリまで捜索を続けて、台風到来となったら逃げ込む場所を確保していた。
すでに、脆弱な小屋の壁、窓、共に、板を打ち付けて補強済みなのである。
(そのくらいの準備は済ませてるさ)
「さて、もうひと頑張りしようか」
両の腕を伸ばして、首、腰と立て続けに廻して屈伸運動した和夫は、そう独り言を言って、来た道を引き返していった。
◇ ◇ ◇
(おや? あの男は山を下りないのね?………では、魔獣を誘き出す囮に使おうかしら)
そう考えたのは、当然、聖少女アムルであった。
残ると覚悟を決めた人物を帰らせるとなったら、それだけで一苦労である。
ましてや、魔獣が山中にいるから引き返せと話しかけても、そう上手く行くかどうかは分からない。
下手な接触をすれば、狂人扱いされて魔獣退治どころではなくなる可能性もある。
アムルは、何でも思い通りにできる万能の存在ではない。
ここに来て、目的を果たすこと以外の無駄な努力をしないことは、彼女にとっては妥当な判断だった。
また、アムルは和夫の身の安全にもあまり興味はない。所詮、私的な想いで魔獣退治に動いている身体である。
正直、魔獣の犠牲になった幼女を弔うことも魔獣退治のついでで、二の次のことであった。
アムルは、むやみやたらと頑張り、責任のない者の命を救うとか、死者を弔うなど、無理をして実行する気は、まったくないのだった。
(大の男なんだから、自分の身くらい自分の判断で守りなさい。それに、他人の死者には、せいぜい花一輪を供えるくらいしかしてやる気はありません)
(私は他だ…魔獣という存在を、自分の力で倒したいだけ)
それがアムルの本音なのである。
「…」
アムルは、その考え通り、無駄なことをせずに和夫を追う。
セーラー服の両袖をひらひらとはためかせ、隠形符で自分の身体を隠し、無言のまま、である。
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